無知
「ねえ、ヨド。
ヨドは色々な場所を旅してきたのでしょう?
森の外のお話、ぜひ聞かせて!」
興味津々に目を輝かせながら、ルクソニアは聞いた。ヨドは無邪気なルクソニアの様子に笑みをこぼす。
「私が話せる範囲の事でよければ、喜んで。
あなたは、何について知りたい?」
ルクソニアは少し考えた後、満面の笑みでヨドに言った。
「わたしと同じくらいの子供が、森の外でどんな生活をしているか、知りたいわ。
お城には子供がいないから、わたし、同年代の子供とお話ししたことがないの。
だからとーっても、気になるわ!」
ルクソニアは身をのりだし、期待に満ち溢れたきらめく瞳でヨドをみた。
ヨドは少し困ったように微笑むと、ルクソニアに質問をした。
「ルクソニア嬢。
あなたは、どんな子供の話が聞きたいのだろうか。
子供とひとくくりに言っても、色々な立場の子供がいる。
あなたと同じ、貴族の子供。
街で暮らす、平民の子供。
魔法が使えず、奴隷として働く子供。
戦争で親を亡くして、生計を立てるために働く子供。
この国には、実に様々な立場の子供がいて、それぞれが懸命に今を生きている。
あなたが聞きたいのは、どんな子供の話だろうか」
ヨドの思いがけない質問に、ルクソニアは言葉を失った。なにも知らないと言うことは、こんなにも恥ずべき行為なのだと、身をもって実感してしまう。ルクソニアは顔に熱が集まるのを感じながら、スカートをぎゅっと握りしめた。何を聞けばいいのか、何から聞けばいいのか悩んだ後、ゆっくり言葉を選ぶようにして話始めた。
「……ごめんなさい、ヨド。
わたし、本当にこの国のことを知らないんだと、いま思い知ったわ。
安易に尋ねてしまったことを、許してほしいの。わたし……自分の国が戦争をしているなんて、思いもつかなかったのよ」
今にも泣き出しそうなルクソニアの頭を、ヨドは優しく撫でた。
「ここは戦禍から遠い場所。
あなたが知らなくても、無理はない」
「でも……自分の国の話よ。知っておくべきだわ」
ルクソニアは、震える唇でヨドに聞いた。
「ねえ、ヨド。
戦争はまだ……続いているの?」
ルクソニアは祈るような気持ちで、ヨドをみた。ヨドは少し悲しげな微笑みを、ルクソニアに向ける。
「残念ながら、戦争はまだ続いているよ。
そういった意味では、今の国の状況はとても切迫していると言えるだろう。いつこの国が戦場になってもおかしくない状況だからね。
ギリギリで持ちこたえてはいるけれど、今後どう転ぶかは、私にもわからない」
ルクソニアは、泣かないように、ぎゅっと唇を強くかんだ。
「戦争」という言葉は、本を読んで知ってはいた。しかしそれがとても身近に起こっていることだとは、思いもしなかったのだ。




