魔獣
丘の上の城を目指して、森のなかを歩くふたり。
「あっ、そうだわ!
もしヨドに時間があるなら、今日はお城に泊まるのなんてどうかしら。
森を抜けるのにも骨がおれるし、とっても素敵な提案だと思うの!」
ヨドのローブの裾をつかんで熱弁するルクソニアを、ヨドはやんわりたしなめた。
「それはとても魅力的なお誘いだ。だけども、ご迷惑にはならないだろうか」
「大丈夫よ、任せて!
わたしからパパにお願いをするわ。
だからねえ、いいでしょう?」
上目遣いでヨドを見るルクソニアに、ヨドは困ったような微笑みを向ける。
「ダメ?」
ローブの裾を掴み、前のめりで問う少女の姿に、ヨドは折れた。
「リーゼンベルク殿の許可がいただけたら、そうさせていただくよ」
「ふふ。やったわ! これで決まりね。
パパは今まで、わたしのお願いを嫌だと言ったことはないもの!
早速お城に帰ったら、準備をしなくちゃ。
シェフに頼んで、東の滝で泳いでいる魔獣を狩ってきてもらわないとね。
焼いて食べるととっても美味しいのよ」
無邪気に魔獣を食材としてみているルクソニアに、ヨドは思わず声を上げて笑った。
「ルクソニア嬢、君は本当に面白い人だ!」
肩を震わせて笑うヨドに、ルクソニアは頬を膨らませた。
「どうして笑うの?」
ヨドは目尻の涙をぬぐうと、声を震わせながら言った。
「ルクソニア嬢。
魔獣は食べる為に倒すものではないよ」
ルクソニアの頬がさらに膨れた。
「美味しいのに?
大人になっても食わず嫌いするのは、よくないわよ、ヨド」
「これは食わず嫌いとは違うんだ、ルクソニア嬢。
普通魔獣は、食べるものじゃない」
衝撃の事実に、ルクソニアは目を丸くしてヨドを見た。
「た……食べないの……? ナンデ?」
青い顔をして、滝のように汗を流すルクソニア。
「魔獣は本来、害獣なんだ。
倒した時に出来る魔石の結晶を取ったら、後は燃やして灰にするのが、一般的だよ」
ルクソニアは思わず口元を手でおおった。
どうやら自分は魔力のこと以外でも、およそ一般的ではない生活をしてきたらしいことがヨドの発言からうかがえる。
「ヨド……わたし。ちゃんと素敵な大人のレディに、なれるかしら……?」
「それは今後のあなた次第だよ、ルクソニア嬢」
可笑しそうにヨドは笑った。




