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最悪の決断


工藤からの一件から3日後、工藤は公認候補者としてJHK党から公認を得ていた。関係書類に関しては神白が全て処理し、工藤に関してはただ印鑑を押すだけだった。

橘から統一地方選に向けての会議が催されるとのことで、連絡が入ったのはその処理が終わってからすぐだった。

「工藤さん、来ないかと思いましたよ」

参議院会館地下にある参議院議員会館食堂に不貞腐れた工藤が現れた。

椅子を雑に引き、担いでいたショルダーバックを無造作に投げ捨てて席に着く。

「ねぇ!?なんでこの日から移動できないの?事前に予定が入ってるから忙しくなるの本当に嫌なんですけど?!」

また、おっさんと食事に行くのか。神白は工藤を心底見下したが、ここでこの女の気分を害してものちに四条から何を言われるか分からない

「そうは言っても今回は重要な会だって何度も事前に説明したじゃないですか、予定ってそんなに重要なことなんですか?」

「別にあなたに話すことじゃないですか、ていうか今日の予定ってなんなの?」

工藤に事前に渡した今回の説明会の資料には目を通して無いのだろう。

いい加減してほしいと思うが、ここで腹を立てても仕方ない。

「工藤さん、四条先生とお父様から事前に話を聞いていると思いますが、今回の会議で重要なJHK党の代表者を後任を決める話がされます。事前にJHK党の状況に関していろいろ言われると思いますが、党には11億の債権があるので、候補者の中で代表者になりたいと申し立てる人間は出てこないと思います」

神白が神妙な顔で話をするが、工藤は下を向きスマートフォンをいじっている。

「工藤さん?」と神白が工藤の反応を聞くと、指が止まる。

「何?別に話を聞いてたよ、今回のあのおっさんの後任に私が名乗りを上げればいいのよね?」

そうだ。というのもなんだか癪だ。

「わかっておられるなら大丈夫です。ですが、問題は対抗馬が出たときですけど…」

「それなら問題ないわよ」

工藤の言葉に神白はきょとんとした顔をしてしまう。

「何でそんなことが言えるんですか?」

触っていたスマートフォンの指が止まる。工藤の顔がこちらに向く

「私以外で党首なんて出来る訳ないでしょ」


参議院会館の多目的ホールに入るともう何人もの候補者が集まっている。

面白いことに候補者のほとんどが女性で構成されていた。

工藤が神白に対して小声で話し始める。

「なんでこんだけ女の子が多いのよ?」

「それは…」

神白が話し始めると、今先ほど入ってきた入り口から橘が入ってくる。

候補者の視線が橘に注目が集まる。

多目的ホールの真ん中に設けられた机に橘が座る。

「さて、候補者の皆さんこんにちは。今回はJHK党の公認候補者説明会にお集りいただきましてありがとうございます。」

橘がマイクを使用して集合した公認候補者について挨拶を始める。

神白と工藤が近くの近くの席に座り、党の公認関する説明と合わせて公職選挙法の説明や政治団体を設立している人間に対する政治資金規正法の説明が行われる。

「ねぇ、それにしても選挙ってこんだけ覚えないといけないことがあるの?私覚えきれないんだけど」

「そこは大丈夫ですよ、四条先生からバックアップは任されてます。神奈川県知事選である程度票を取れたら、目黒区議会議員選挙は上位当選すると思いますよ」

神白が笑顔を向けるが、工藤の顔からは不安の色が出ている。自信を覗かしていたが、実際に選挙が眼前来るとなると緊張するのだろう。

「そして、今回の選挙に関してはアーシーの件を受けて党首である橘党首が辞任を直近で表明します。事前にお渡した資料をご確認ください。」

橘から説明を任された丸山が、今回のプロジェクトに関する説明を始める。

「工藤さんここからが一番重要な話が始まりますよ」

不真面目な工藤であっても、重要な話だと理解できるのだろう丸山を注目して真剣に話を聞いている。

「今回のプロジェクトに関しては前提として党首は選挙対策部長として党をバックアップするという形を取ります。

新生JHK党党首をこの中にいらっしゃる公認候補者の中から選抜します。

今日の説明会はその候補を募るための催しである側面が一番大きいです」

丸山が話し終わると多目的ホールがざわつく、新人のそれも政治や選挙に挑んだことが無い人物に急に党首への道が開けたのだ、ざわつくのも無理はない

「さて、党首になってもらうという話ですが本当の意味でここでいえば登記の名義も全て新党首を変更しなければなりませんので現在のJHK党の財政状況と支持者数の推移の説明を橘党首自ら説明をお願いします」

丸山からマイクを受け取り、橘は周囲を一瞥する。これからJHK党を担う新党首がここから現れるのだ。

「丸山から説明があった通り、今回のアーシーの件にて一部の支持者からも手痛い指摘を受け、党を一新することを決めました。

さて、先ほども話をされたと思いますが、党の財政状況についてです。今回の参議院通常選挙にて党は10.4億円の債権を保有しています」

10.4億の負債という内容でまたしてもホールがざわつく

「皆さんの不安の声も分かりますが、これに関しては元本の保証は問題ありません、お渡しの資料に書いてある表をご覧ください」

工藤が手元の資料を確認する。この女が資料を確認しても何も分からないことは間違いないが、自分がこれから関わるものだ目を通しておきたいのだろう。

「資料に書かれている表は今回と前回の参議院選挙で獲得した2議席と衆議院選で獲得した政党助成金の金額が書かれています。

この表を見れば分かる通り、党が抱えている負債10.4億と政党助成金がもらえる期間ここでは2028年までに党は政党助成金を11億獲得となっています。

この時点で元本保証は国政選挙に出なくても自動的に11億が党の口座に振り込まれます。」

ざわつきが大きくなる。これも想定内、債権の保証は十分されているのならJHK党の党首の候補者に挙手する人間は多くなるだろう。

「さてただ、これは無金利の債権での話です。残念ながら債権に関しては金利があります。その金利が票でもあるとおり、5%としています」

ざわつきが最高潮になる。5%の有利子負債を10.4億抱えている。公認候補者の女性と思われる人物が挙手する。橘はその女性に向けてマイクを渡すように党職員に指示を出す。

「えっと…すいません私は会計をやっていたもので、この状況でしたら金利分の返済が滞るという見通しになるということですか?」

残念、通常の会社と国政政党は違う。質問を貰った橘が待ってましたというように、女性の質問へ回答をする。

「質問ありがとうございます。質問の件に関してはお間違いないようにしていただきたいのですが、この表は簡単に言うと公党として2028年まで選挙に出なかった場合のときの想定です。

当然、これから未来に催される参議院選、衆議院選にも我々は臨みます。

それがもう一つの表に記載されている内容のものです、ここでの想定は私たち政党が過去得票した数字による未来の想定ですが、約3億ほどの余剰金が生まれるとされています、しかしこれは想定です。なにが未来に起こるのか分からないということはここで明言しておきます事実現在我々の党はアーシーの件で苦しんでいることは事実です」

「ねぇ、これ大丈夫なの?」

ざわつきに合わせて工藤が神白に質問する。

「会社なのであれば、毎年売り上げが経って毎日会計するので予測はできるでしょうね、しかし公党になると未来の政治的イベントによっては大きく議席という意味で変動します。しかし、工藤さん心配しないでくださいこの点は橘の意見は間違いなく細かい分析を基にはじき出した数字ですので心配はしなくても大丈夫ですよ」

ふーんと何も考えていない声で手元の資料に工藤は視線を落とす。

「ざわつくのも分かります。しかし、そのための一新プロジェクトです。このプロジェクトはブランドイメージを落としたJHK党ではなく新体制になった公党を前に出していきます、そのための新党首の公募なんです」

候補者の中に不安な顔をしている人間が多い、それもそうだ事実と想定を見れば堅実な日本人からすれば事実の大きさに不安を感じるだろう。

「先ほども話しましたが、登記の名義も新党首に変えます。これは実体的に党の全責任を新党首に全て押し付けることになるということになります。

私は公の人間ですので、絶対にそんなことはしませんが今回の一新プロジェクトにて新党首になってくれる人はおられますか」

橘が搾り取るように声を上げる。ここで声が上がらないのであれば一新プロジェクトは失敗に終わる。

「はい!!」

ざわつきが静寂包まれ、視線が一つに集中する。

ピンとして手を上げた工藤だった。


2


憲法の制定に基づいて行われる政治の沿革史の中で、泡沫的な公党は小さな火花のように生まれは消えていく。

JHK党も現在参議院の議席と我が党を支持してくれる有権者がいるからこそ、日本憲政史の中で現9つしかない公党として名を刻むことができた。

そして、JHK党の唯一の快挙は政治家でない、世襲でもなんのネームバリューが無い一般国民が一国政選挙で公党を作り上げた本当の意味での「国民の党」であることだ。

そしてこの日、JHK党は生まれ変わる。


「参政女子へようこそ~」

カメラマンの勢いのあるシャッター音が響き渡る。

「すいません、みなさんこちらの方にも視線をよろしくお願いします。」

ここまで若い女性が並んでいると迫力がとんでもない

「橘さん、本当に凄いですね」

「ぶっつけ本番でここまで行けるもんなんだな」

丸山と橘が小声で参政女子のパフォーマンスを見ている。

「工藤党首!こちらに視線をよろしくお願いします!」

なぜか鼻息荒くカメラのシャッターを構えているカメラマンを見ながら丸山と橘は苦笑いをしてしまう。

緊急的記者会見をする。報道各社に対して、一斉ファックスを行ったのちに党の事務所はひっきりなしに電話が鳴り止まない状況になった。

報道関係者は少しでもアーシーの情報が欲しいのか何度も電話をかけてきて、しまいには丸山がブチギレた姿も見た。

それも、このインパクトを一斉にメディアに報道してもらうためだった。

「橘さん、今回の件については大成功になりそうですね」

「そうだな、本当に嬉しい限りだよ」

「工藤党首に関してもかなり、メディア受け良いですね」

「あぁ、あの子が党首を引き受けてくれて本当に良かったよ、でもこれから覚えて貰わないといけないこともあるだろうし、アンチJHK党の人からの声から俺たちが守っていかないとな」

「はい、本当にありがたい限りですよ」

丸山の声がどことなく震えている。

「ありがたいことですけど、やっぱり橘さんと一緒に歩んだ6年がなんだか…」

堪えていたが、隣にいた丸山の絞り出した声が橘に伝染する。

「泣くな、これが成功しても失敗しても俺は政治家のままでいるさ」

「はい..はい、ぐずっお供しますよ、これからも」

橘は丸山の小刻みに揺れる背中に手を添える。

これからだ、これからJHK党の快進撃が始まるんだ。


JHK党は新生JHK党「参政女子49党」へなった。参政女子は未だ政治参加が進まない政界へ風穴を開けるため、今回の統一地方選で49名の女性候補を立候補させる。

大々的に行われた記者会見は瞬く間にメディアの一面を飾った。

「政界の風雲児、橘氏党首を辞任「アーシーの件での責任は自分にある」公認は若き女性工藤明日香氏へ」

どのメディアも同様のタイトルを付け報道をした。

ネットでの反応もまずまずでコメントも好意的なコメントで埋め尽くされていた。

一連の報道の反応を確認して統一地方選で勝利を確信する。

「橘さん、今回の選挙問題なさそうですね」

新生JHK党になっても通常の業務は続く、というか統一地方選が近づく中で党はいつもよりも業務が忙しい中で、丸山が話しかけてくる。

「工藤党首は結構ネットでの反応は良好ですよ、まぁ定例記者会見での素っ頓狂な回答に関しても「初心者」だからって感じで大目に見て貰えてますよ」

「そうか、選挙は勝てそうな感じか?」

「アーシーさんの件でやっぱり高齢者からの支持は離れているような感じですね、まぁ政治活動でそこに関しては払しょくすればいいでしょう。

橘さんのyoutubeでの解説も功を奏しましたし、もろもろ全てうまくいってますよ」

丸山が席について、資料の点検をし始める。

「その、丸山。工藤くんについてどう思う?」

橘の質問について、丸山は老眼鏡を右手で上げこちらに顔を向ける。

「それは…どういった意味で?」

「いや、党首として成長はしているか?って感じかな」

橘の言い放った言葉は工藤が党首としてきちんと成長しているかという意味を含んでいた。

「うーん、橘さんの目標はかなり高いですからね、私の見立てでよければお話しますが」

「ぜひ頼む」

「まずは工藤さんはあまり勉強熱心ではありませんね、これはお父様の会社、ここでは「会社法」と政治団体「公選法」「政治資金規正法」の関係ですかね、やっぱりとっつきにくい部分があるのでしょうがないところはあるんですが、分からない所を鵜吞みにしてしまうところがありますね

そして一番問題点があります」

「それはなんだ?」

丸山は目を通していた資料を置いて徐々に話し始める。顔は曇っていた。

「神白さんとよく一緒にいるので羽の会が行っていることとJHK党の行っていることの方向に不満があるようで、一番は政治資金パーティーの件ですね」

「政治資金パーティー…」

政治資金パーティー、政治資金を集める名目で有料で開催される(会費を徴収して行われる)イベントのようなもので日本では政治資金規正法に規定されている政治団体の資金調達方法である。

基本的に政治団体の資金調達には概ね3つの資金調達方法がある。

一つ目はよくある寄付や党費

二つ目が公党の政党助成金

三つ目がこの政治資金パーティーである。

JHK党はそもそも企業・団体献金や政治資金パーティーを行わない。

何故ならそもそも、政界を揺るがしたリクルート事件やそれに伴う法人税・高額所得者の所得税が20兆円前後減税などを当時の政権与党が行い、その穴埋めに国民に対して税金を新たに課税し、労働者に不利な派遣法の可決など、献金や寄付などによる「見返りのある政治」を生じさせないように制定された政党助成金での完璧な運営を目指したからだ。

それは政治団体として、金と権力に飲まれることなく国民から負託された税金のみで党の運営全てを賄い、真の意味での柵のない政党運営でもあった。

JHK党が資金調達をするときは全て債権という形で支持者から資金を借りていた。

政治資金パーティーを行うということは、先の柵のある政治を行うことと同義になってしまう。

「なんで工藤くんはそんなことを言ってるんだ?」

橘がそう聞くと、丸山は止まっていた資料の点検をまた行い始めて話し始める。

「やはり、債権の額についていろいろ思っている様です。一応の名目である登記の名義の変更は実質的に工藤さんが全ての債務を負っていることですから、橘さんを信用しきれないということでしょう」

言葉が出ない、工藤が言っていることはあながち間違ってはいない。

今回のJHK党の登記変更で実質10.4億の負債は工藤が一応は担っていることになる。年端も行かないまだ30歳の女の子には大きなものに思えてしまうのだろう。

「ことを急いで政治資金パーティーを行うようなことがあれば、それこそ10.4億の取り付け騒ぎが起こっても大変です。アーシーの件で債権者の方々からも心配の声が届いてますからね

工藤さんには絶対に政治資金パーティーだけはしないように口酸っぱく言ってありますが、怖いのでしょう」

「なるほど…」

丸山が行っていた資料の点検が終わったのか、散らばった資料をまとめ始める。

「そこで、橘さん新旧の党首としてきちんと話し合う場を設けるべきです。定例記者会見や彼女の神奈川県知事選、多くの不安を取り除くようにゆっくり、優しく彼女の不安を払しょくしてあげて下さい、くれぐれも!いつもの記者を追い詰めるような言葉責めにならないようにお願いしますよ」

「わ…わかった」

そう言い終えて、丸山は応接室から出ていく。

確かに、工藤が党首になってから神白がすべての説明を任せていたが、前党首としてコミュニケーションが足りていなかったことは間違いない

「一度会話をするべきだな」

携帯を取り出して、工藤へLINEのメッセージを送ってみる。

既読がつくが、返信が返ってこない何か用事をしているのだろうか。


東京港区旧芝離宮恩賜庭園の近くにある隅田川沿いホテルのスイートルーム

窓から見えるレインボーブリッジをガウンを着た工藤が見ている。

「そとを見ているのかね?」

工藤が振り返ると、同じくガウンを着た四条が湯気を漂わせながら近づいてくる。

「この景色を見るのが好きで毎回レインボーブリッジ側に窓がついている部屋を取ってるんだ」

窓近くの椅子に腰かけるとギシッと嫌な音が聞こえる。

「これから私はどうなっていくのかなと思ってね」

「何を心配しているんだ、今回の件で少なくとも3億の金額が私たちの手元に入ってくる。

橘とかいう男は例の除名された男の責任を取る形で君にすんなりと党首の座を明け渡したじゃないか?心配する必要はない、神白と中山の計画通りだ」

四条の鋭い獣のような目線が工藤を舐めまわすように動く、だからと言って今の状況から何かが変わるわけではない。

「それなら、四条先生のことを信用するわ」

四条に近づき、左肩に手を当てゆっくりと手に移す。

「ご期待に添えて光栄だよ」

その後のことは何も覚えていない、あることは裸になった自分と四条が横たわり何食わぬ顔で隣でいびきを掻きながら寝ている。

ガウンを手に取り、スマートフォンを入れたカバンの方向へ歩き出す。

裸でうろつくことはどうにもなれない、ガウンを無造作に着てカバンからスマートフォンを取りだす。

別段見るものがあるということでもないが気にしてしまう。

電源を付けると、LINEの通知が入っていることに気付き、通知を見ると橘と書いてあった。

「なんでこんな時にこのおっさんは連絡してくるのよ」

パスワードを解除してから、内容を見てみれば参政女子のメンバーで決起会という名の食事に行こうという話だった。

気持ち悪い、やっぱり女性の政界進出なんて自分好みの女を見つけることが目的だったのだと思ってしまう。

だからと言って、今まで橘から直接連絡が入ることが無かったために今回の誘いを断ると印象が悪いだろうか

日時についても四条と別れてる時間帯だった。問題ない。

橘に対して返信のLINEを送る。

それにしても疲れた。少しお風呂でも入ってゆっくりと身体を労わろうと思えてしまう。スマートフォンをテーブルへ投げ立ち上がる。

LINEの返信の通知音が響く、橘が連絡を入れたのだろう。そんなことよりも今は何よりも風呂に入りたかった。


3

橘が指定した店についたのは工藤が返信があって本人の希望してきた19時よりも少し早い時間だった。

参政女子が発足してから、だいぶ時間が過ぎて統一地方選直前になってきた。

そして、参政女子の代表者として神奈川県知事選が3月23日目前となっていきたこの状況で党の責任者としての重責についてのことなど一人の女の子にはやはり重いことだろうか

冬の寒さがまだ抜けていない、最近は冬と夏が長くなったと思ってしまう。

4月になっても桜が咲いている景色を見ることも少なくなってきた。

店の扉を開け、受付を済ませる。店員に案内された部屋には先に到着していたであろう参政女子のメンバーが自分より早く到着していた。

「橘さん、お疲れ様です。」

一人の女の子が話しかけてくる。

確か、櫻井晴子だったか?どうしたのだろうか

「えっと、櫻井さんだったっけ?どうしたの?」

「あっ、いやその橘さんに聞きたいことがありましてその…」

そう言いながら、櫻井は携帯を取り出すが、その瞬間にワッと声が上がる。

不機嫌な顔で工藤が入ってきた。参政女子のメンバーが工藤に近寄るとすぐに笑顔になる。

先ほどの不機嫌な状況は通常の顔なのだろうか、プライベートで嫌なことでもあったのだろうと思ってしまう。

「あっごめん、櫻井さんそれでなんかあったのかな?」

そう橘が話し出すと、櫻井が携帯を胸に抱える。

「えっ..あっいや、大丈夫です、私が解決するないようなんで…」

そう言いながら、櫻井が名残惜しそうに会話を閉じようとする。なんだろうか、地方選は地元から離れている候補者もおり、その家賃やプライベートの相談を多く党に確認が入る。そのことだろうか?

着々とJHK党と参政女子のメンバーが来る、全員が集まりテーブルについて乾杯の挨拶を任される。

全員が橘に注目しているが、JHKの社員時代に何度もしてきた挨拶をする

「えー、本日は皆さんお集りいただきありがとうございます。今日は参政女子の決起集会のようなものです。

横にいる人たちはこれからの統一地方選を戦う戦友になります。皆さんの仲間です。

だからこそ、ここで親睦を深めて是非皆さん一緒に統一地方選で戦いましょう!」

「橘さん!いつものやつはやらないんですか?!」

遠くから前回のアーシーの選挙で立候補した東近江が声を上げる。

「えっ、そうか、参政女子だけどやるか、それじゃ皆さん飲み物を持っていただいて…それじゃ、JHKをぉぉ…」

店舗に集まった全員の息が溜まる音が聞こえる。

「ぶっこわ~す!!!!!!」

店舗に響く声、賑わいと聞こえはじめる笑い声、この仲間たちと一緒に戦えば絶対に統一地方選も勝てるはずだ。


工藤明日香はこの状況を気に食わなかった。

なんだこれは、私が参政女子の党首じゃないのか?

神白はこの党の党首は自分だと言ったじゃないか、私に党の登記を変更させる手続きを踏ませて、なぜにあの男に多くの人間が集まり、笑顔を向けている?

何故に私に話しかけない?党首は私じゃないのか?

出されていた焼き鳥を一つ掴み口に運び、スマートフォンを取り出してTwitterを開き面白くもないツイートを見ていると

「工藤さん、楽しんでるかい?」

と話し声が聞こえてくる。橘だった。

当たり障りのない話をするが、次の神奈川県知事選がどうの、党首として大変だろうけど頑張れだの、そんな話をした。

具体的にどんな話だったかは覚えていない、覚えているのは神白や四条が言っていたようにこの党の党首は私では無かった。

目の前のこの男の党だ、私はいろいろな人間に利用されている。

橘がこちらに笑顔を向けてくるが、腹が立った。

しかし、確実なことがある。今回の神奈川県知事選でそれが表に出てくる。

神白は準備中だといっていたが、心の底からそれを楽しんでいる自分がいた。

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