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プロローグ


橘隆治が、公設秘書である丸山博に呼び出されたのは、3月の午後2時ころのことだった。

冬の静けさを伴う冷たさは終わり、4月にかけて春の陽気な日差しが参議院会館の議員事務室の窓から染み出している。一つの業務が終わりを告げ、一度窓辺から下の光景をみると警備員が日に照らされながら仕事に従事している。

外の平和なひとときの演出に逃げ出したいと思ってしまうのもつかの間、扉が開く音が聞こえる。

「橘さん、時間です。」

扉の前には丸山が立っていた。

今、党が抱えている問題の現実が目の前に立っている様に思える。丸山が悪い訳ではない、決断をした自分が悪いのだ。

「わかった、すぐに向かう」

そういいながら、足が思うように進んでいかない、何の変哲もない床と自分の足が接着剤でへばりついているようだった。

力を籠め身体を前に進める。丸山と共に部屋を出て、エレベーターに乗り込む。隣にいる丸山が静寂と現実の問題に耐えるように下を向いている。

エレベーターの扉が開く、光が差し込みはじめ少し目を細めてしまう。

参議院会館一階、多目的ホールに足を運ぶが思うように足が運んでいかない。

多目的ホールの入り口前、一瞬の立ち止まってしまう。今までこのようなことは無かった。

これまでの国政選挙や大体的な党を挙げた施策の際には、胸を張って党員や支持者に告知してきた自信はある。

しかし、今回の件については一度でも下手をすると党のすべてが無くなってしまう。

自分が築き上げてきた、全てが

まるで自分の手を拒むように扉の取手から何かしらの透明な膜のようなものが覆っているように思ってしまう。

「橘さん…?どうされました?」

怪訝そうな丸山の声に応じて手が取手をつかむ、情けない話だ。


扉を開くとそこはまるで、骸の集まりのような有り様だった。

ひとりひとりが不安な顔を上げて、自分の方に視線を向けてくる。その目線が自分を責めている様だった。

先ほどまで静寂だったのだろう、ざわざわと声が聞え始める。中には好にしている記者もいる。

多目的ホールの前にある檀上で迎い、登壇する。

先ほどまでは人影で隠れていた鋭い眼光がすべて自分に集まってくる。何か一言声を掛けようとするが声が出てこない。

いつも党のために仕事をしている職員や党員、見かけない顔に関しては支持者の方だろうかこの惨状に私に対して聞きたいことがあったのだろう、わざわざこの場所へ足を運んでくれたと思うとその心情を察してしまう。

多くの不安、多くの疑念、多くの焦燥が入り混じっているこの環境の中にいるとむせ返るようだった。

緊急会議の開始のアナウンスが始まる。

口に溜まった、唾を飲み込む。


― これから、始まる…! ―


突然、自分が入ってきた多目的ホールの扉が開き放たれる。

大きな音を立てて、今までの静寂と緊張が一気に開き放たれた扉の方向へ向くその多くの視線の中には橘の視線も含まれていた。

一人の女が、男と共にホールへ踏み込んでくる。

その女の顔、その男を見れば胸の中のある熱源から一気に体中に広がっていく感覚を覚える。

不敵な笑みを浮かべながら、工藤明日香が入ってきた。

なぜ、こんなことになった…?どのタイミングだった…。

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