四つ目
しばらくすると、森の中に一本の小道がありました。
ミシェルはその小道を山の方へと向かって歩いて行きます。
人が一人歩けるくらいの幅の小道です。
馬車は通れないでしょう。
ミシェルはこんなところに人が住んでいるのかと、疑問に思いながら歩いて行きます。
すると、森が開けたところに、小さな家が建っていました。
その家は、木でできた小さな家でした。
ミシェルとお母さんが住んでいたような小さな家でした。
煙突から煙が出ています。
誰かがいるのは確実です。
トントントン
ミシェルは玄関の扉をノックします。
しばらく待っていると、ギギギ、と、扉が開きました。
「誰だい、こんなところに」
出てきたのは、三角でふちの広い黒い帽子をかぶり、同じ色の黒いマントをかけた老婆でした。
「ん? 子供じゃないか。どうしたんだい、こんなところで」
「お婆さん、この辺りでパズルの実を見ませんでしたか?」
「パズルの実?」
「はい。真っ白で、平らで、でも出っ張ったり引っ込んだり」
ミシェルはリュックからパズルの実を一つ取り出して説明します。
「こういうのなんです」
老婆は心当たりがあるかのようにミシェルに言います。
「ああ、それかい。さあ、そんなところでなんだから家に入りなさい」
ミシェルは老婆の好意に甘えて部屋の中に入ります。
「さあ、そこに座りなさい」
と、老婆はテーブルに添えられた椅子を勧めてきました。
ミシェルはその椅子に座って部屋の中を見回します。
特に変わったところもない部屋です。たった一つを除いてですが。
台所のかまどがとても大きく、その上に大きな大きな鍋がかけられていました。
老婆は、棒を使ってその鍋をかき混ぜ始めました。
「あの、お婆さん、パズルの実のことをご存じじゃないのですか?」
ミシェルがもう一度聞く。
「あ、ああ。忘れていたよ。それなら、後ろの棚に飾ってあるよ」
老婆は親切に教えてくれました。
ミシェルは、老婆が教えてくれた棚を見ます。
すると、その隅に、パズルの実が一つ、置いてありました。
ミシェルは椅子から飛び降り、パズルの実を手にします。
「お婆さん、このパズルの実、譲ってもらえませんか?」
「それが欲しいのかい?」
「はい。これを探してずっと森の中を歩いてきました」
「そうかい。それなら持って行っていいよ」
老婆は親切にミシェルに言います。しかし、そこで老婆は声を少し低くして言葉をつづけました。
「それを持ってこの家から出られたらね」
「え?」
ミシェルは疑問に思います。
ですが、パズルの実を持ってこの家を出られたらもらえるのです。
ミシェルは老婆にお礼を言います。
「お婆さん、ありがとうございます。それでは、行きます」
ミシェルは、パズルの実が四つそろったことがうれしく、すぐに帰りたくて仕方がなくて、家の玄関の扉に手をかけました。
ガシッ!
しかし、扉は開きません。
ミシェルは、扉を押します。ですが、開きません。
扉を引きます。ですが、開きません。
「お婆さん。扉が開かないのですが」
「あはははは。その扉はね。入った時と出るときの重さが同じか少なくないと開かないんだよ」
ミシェルは首をかしげます。
「つまりね、そのパズルの実の分、何かを置いて行ってもらうよ」
ミシェルは悩みます。
今持っている物でおいて行けそうなもの。
リュック。これはパズルの実とロージーを入れておきたい。
そうなると、靴か服かとミシェルは考えます。
靴は足が痛くなったら歩くことが出来なくなってしまいます。
ならば服です。
ミシェルはリュックを降ろし、そして、シャツのボタンをはずし始めました。
すると、リュックの中から、
ブチ、ブチ。
と音がしたと思ったら、
ぽいぽい。
っと、何かが二つ飛び出します。
それをミシェルは視線で追いかけました。
その二つの物を老婆が拾い上げます。
「おや、まあ。これはこれは。珍しい物を」
老婆が手に取ったもの。それは、ロージーの左腕と左足でした。
「ロージー!」
ミシェルはリュックを開けて、ロージーに言います。
「ロージー、何でそんなことをするんだ! 君の大事な手と足じゃないか」
「お前さん、いい加減覚えてくれよ。おいらはぬいぐるみなんだよ。だから気にしないでくれよ」
「だけど」
ミシェルはロージーにそう言いかけましたが、老婆に向かってお願いをしました。
「お婆さん、それを返してください。僕の服をあげますから」
ですが、老婆は断ります。
「嫌だね。生きたぬいぐるみの手足なんて珍しい物、誰が返すものか。ほら、パズルの実を持って帰りな」
そう言って、老婆はミシェルのリュックを拾うとミシェルに押し付け、そして、ミシェルを無理やり家から追い出してしまいました。
追い出されてしまったミシェルは玄関の扉をたたきます。
「お婆さん、ロージーの手を、ロージーの足を返してください」
ミシェルは何度もドアをノックしますが、老婆は二度と出てきませんでした。
「おい、お前さん、いいから帰ろうぜ。パズルの実、四つ全部そろったんだろう?」
「だけど、だけどロージーの手と足が」
「いいんだって。なあ、お前さんよ。何が一番大事なのか考えなよ。何のためにここまで来たんだ。わかったら帰ろう」
ロージーはリュックの中からそう言います。
何度扉をノックしても老婆は出てきてくれません。
ミシェルは、涙を拭き、ロージーの言う通り、村に帰ることにしました。