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パズルの木  作者: わんも
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三つ目

 また数日してロージーがミシェルに声をかけます。

「相棒。今度は本格的に難しい」

「どうしたの」

「あれを見てみろ」


 ミシェルが木々の間からロージーが手で指すその先を見ると、そこには、熊の親子がいました。

 熊の親が二頭。子供が二頭。合わせて四頭もいます。

 そして、子熊の口にはパズルの実がくわえられています。

 パズルの実を二頭の子熊が取り合っていて、それを親熊が見守っています。


「どうやってパズルの実をとってきたらいいかな」


 ロージーが首をかしげます。


「僕が……」

「行ってどうする? この季節の熊は食欲旺盛だ。お前さんなんてすぐに餌だぞ」

「そんなことを言ったって。あのパズルの実が必要なんだ」

「お前さんには無理だぞ」

「ロージーにだって無理でしょ。なら、イチかバチか僕が」

「お前さんは願いを叶えるためにパズルの実を探しているんだろう? そのお前さんが死んじゃったらなんにもならないじゃないか」

「でも、でも」

「なあ、あの後ろに穴があるだろう。きっとあそこが熊たちの巣だ」

「それがどうしたの?」

「遠くには行かないだろうから、今日のところは、ちょっと様子を見ないか? もしかしたら、明日は親熊がどこかへ行くかもしれない。そうしたら、チャンスがあるかもしれない」


 ロージーは、そのようにミシェルに提案します。

 ミシェルも、熊四頭を相手にはどうにもならないと思います。

「わかった。今日は無理だけど、明日は可能性があるってことだよね。明日がだめでも明後日が」

「そういうことだ」

「じゃあ、今日はどうする?」

「近くは危ないから、離れたところで寝よう」

「わかった」


 二人は、熊の巣から風下方向へと歩いて行き、大きな木を見つけたので、その下で寝ることにしました。




 翌日、ミシェルが目を覚ましました。

 腕の中にいたロージーがいません。


「ロージー?」


 ミシェルはあたりを見回します。

 すると、ロージーの声が聞こえてきました。


「おーい、こっちだ。ちょっと助けてほしい」


 ミシェルは声のする方へ歩いて行きました。

 すると、そこには、うつぶせに倒れているロージーがいました。

 ロージーはその体の下に、パズルの実を抱えています。

 そして、その背中には大きな三本の爪痕がありました。

 その爪痕からは綿がはみ出しています。

 しかも、ロージーのしっぽがありません。


「ロージー、どうして!」


 ミシェルはロージーに駆け寄り、ロージーを抱き上げました。

 ロージーは、笑って言います。


「ほら、三つ目だ」


 ロージーは三つ目のパズルの実をミシェルに差し出しました。


「ロージー、何で。何で一人で取りに行ったの?」

「そりゃ、熊も夜は寝るだろう? おいら一人の方が静かに近づけるからな。それにおいらは餌にもならない。だから、ほら見ろ。取って来られただろう!?」


 ロージーは笑います。


「だけど、ロージーが、ロージーが!」


 ミシェルは目に涙を浮かべながら訴えます。


「何度も言わせるなって。おいらはぬいぐるみ。これくらいへっちゃらなんだよ」



 ロージーはミシェルに言います。


「さ、最後の一つを探しに行こうぜ」


 ですが、ロージーは少し目を伏せて、続けます。


「だけどな、相棒。悪いんだけど、おいら、もう歩けないんだ。これ以上歩くと、背中から綿が出ちまう」


 ロージーは、覚悟を決めたかのようにミシェルの目を見て、そして笑って言いました。


「だからな、相棒。ここでお別れだ。あと一つ、頑張って探してくれ」


 ミシェルはロージーを強く抱きしめて叫びます。


「置いて行けるわけないじゃないか。置いてなんていけない。ロージー、君は僕が連れて行く。だから、リュックに入っていて」

「おい、お前さん、そんなに強く抱きしめたら綿が出ちゃうじゃないか。それに、おいらは軽くはないんだぞ。無理をするな」

「無理じゃない。連れていくっていったらつれていくんだ」


 ミシェルはロージーとロージーが持って来てくれた三つ目のパズルの実をリュックに入れました。


「お前さんよ。最後の作戦なんだが」


 ロージーがリュックの中から声をかけてきます。


「何?」

「いざとなったらおいらを投げて逃げろよ」

「しないよ、そんなこと」


 ミシェルはリュックを背負い、力強く前を見て答えました。


「そうか」


 ロージーはそう呟いただけでした。


 ミシェルはロージーとパズルの実が三つ入ったリュックを背負って森を歩いて行きます。

 狼や熊に出会わないように慎重に、慎重に。


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