二つ目
ミシェルはロージーについて行きます。
また数日して、ロージーが足を止めます。
「相棒、ちょっと厄介だぞ」
ロージーがミシェルに声をかけてきます。
ロージーが見上げる先。崖の上には、狼がいました。
その狼が、パズルの実をくわえています。
「あれ、強そうだね」
「そうだな。お前さんもかまれたら死ぬかもな」
「ロージーだって、ちぎられちゃうかもしれないじゃないか」
「だから気にするなと。おいらはぬいぐるみなんだ」
「だからと言って!」
「相棒、作戦を考えるぞ」
ロージーとミシェルは、風下となる崖の下の方を見回る。
木々があるのはどこも同じ。
崖の上から沢が流れている。
その先にちょっとした池。
「じゃあ、やるぞ、相棒。頼んだからな」
「ロージーも無理しないでね」
ミシェルは、崖の下で構えます。
ロージーは、風下からゆっくりと崖を登って行きます。
ロージーは、静かに静かに狼に近づいて行きました。
そして、狼に近づいたところで、後ろから、
「ガウッ!」
と、吠えました。
狼は、ロージーの咆哮に驚き、パズルの実を口から落としました。
それをロージーは見逃しませんでした。
ロージーは、急いで、狼の口の下に飛び込みます。
そして、ロージーは、パズルの実を蹴とばし、崖の下に落としました。
「相棒! 走れ!」
ミシェルは崖の上から落ちてくるパズルの実を見て、手を伸ばします。
ふらふらと落ちてくるパズルの実。
その時間すらもどかしく感じます。
パズルの実が落ちて来て、ミシェルの手に収まった時には、崖の上から狼が駆けおりようとしていました。
ミシェルは、池に向かって走ります。
急げ急げ急げ。
狼がミシェルを追いかけます。
ロージーはどうなったのでしょうか。
ですが、ロージーと立てた作戦です。
ミシェルはその作戦に従って、パズルの実を持って池に向かって走ります。
後ろから狼が走ってくるのがわかります。
狼の足音が少しずつ近づいてきます。
走れ走れ走れ。
ミシェルは、後ろを振り返らず、パズルの実を持ったまま走ります。
そして、目の前に池が見えてきます。
もう少し、もう少し、もう少し。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ミシェルは、池のほとりまでたどり着き、そして、池の淵から勢いよく池に飛び込みました。
バッシャーン!
ミシェルは間に合いました。
ミシェルが振り返ると、狼が池のほとりでミシェルを見てうなっているのが見えます。
だけど、そこにはロージーはいません。
「ロージー……」
ミシェルはロージーの事が心配です。
しかし、今、池から出るわけにはいきません。
狼がまだミシェルをにらんでいるのです。
どれくらい狼とにらみ合っていたでしょうか。
ついに狼があきらめて立ち去りました。
それを見て、ミシェルは池から出ようと立ち上がります。
手に持っていたパズルの実をリュックに入れ、そして、崖に向かって歩き出します。
ロージーはどうしたでしょうか。
崖の下から小さな声で呼びかけます。
「ロージー、大丈夫かい。そこにいるのかい」
返事が無いので、仕方なく、崖の上を目指そうかと歩き始めたミシェルの耳に、ガサガサ、という音が上から聞こえてきました。
そして、ミシェルが崖の上を見上げると、ぬいぐるみが落ちてきました。
「とう!」
掛け声までかけてロージーは崖を飛びおりてきました。
ミシェルは両手を広げ、そして、ロージーを受け止めます。
「ロージー、大丈夫だった……」
ミシェルはロージーを見て、再び言葉を失います。
ロージーは、左耳を失っていました。
そして、その左耳があった頭から、綿が少し覗いています。
「ロージー、君、耳が!」
「ん? あ、そうか。さっきかじられた時にとれちゃったんだな。どうりで、耳の聞こえが悪いと思った」
ロージーは何でもないかのように言います。
「でも、耳が、耳が!」
「だから、おいらはぬいぐるみだって言っているだろう。痛くもなんともないよ。それより、パズルの実はどうした?」
「うん。ありがとう。ちゃんとリュックにしまってある」
「そいつはよかった」
ロージーは、ミシェルに微笑みかけます。
「ほら、あと二つだ。行こうぜ、相棒」
ロージーはまた、何もなかったかのように小枝を拾い、それを振り回しながら歩き始めました。
ミシェルは、その後をついて行きます。