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パズルの木  作者: わんも
1/8

お母さんの死

 とある村のとある家。


「ゴホゴホゴホ」

「お母さん、大丈夫。はい。水と薬」


 ミシェルはベッドで横になるお母さんにトレーに乗せた水が入ったコップと薬を持っていきます。


「ミシェル、ありがとう」


 お母さんは、それを受け取って、薬を飲みました。


「ミシェル、ごめんね。お母さん、具合悪くて」

「ううん。ぼく、お母さんがいてくれるのがとっても嬉しい。だからね。僕、幸せなんだ」


 ミシェルは父親を小さなころに亡くしているのです。

 木こりだったミシェルの父親は、木から落ちて、亡くなりました。

 だから、寂しい。だけど、お母さんがいる。だから、寂しくない。

 ミシェルはお母さんの世話をします。


「僕、薪を割ってくる」


 ミシェルは家から飛び出します。

 ミシェルは六歳。

 まだ世間的には子供。小学校にもいってません。

 でも、お母さんがいてくれる。

 お母さんのために頑張らなきゃ。

 ミシェルは家のお手伝いをします。


 今はもう秋も深まって、もうすぐ冬がやってきます。

 寒くなってきたせいでしょうか。お母さんは風邪をひいてしまったのです。

 しかも、けっこうつらそうな風邪を。


 ミシェルの家の裏庭には、大きな木がありました。

 毎年、花が咲くわけでもなく、実がなるわけでもなく、ただ、そこにある、大きな木。

 ミシェルはその木の下で、薪を割ります。


 ミシェルは、割った薪を家の中に持って来て、部屋の隅に重ねておきます。

 そして、暖炉に一つ、薪を入れました。

 薪に火がうつると、少し部屋が暖かくなってきた気がします。


「ミシェル、暖かいよ」

「ね、暖かいね」

 

 ミシェルとお母さんは笑いあいました。




 次の日の朝、ミシェルは庭の畑で野菜を収穫します。

 それを家に持って来て、スープを作るのです。

 お肉は入っていませんが、愛情がたっぷり入っています。


「お母さん、スープが出来たよ」

「ミシェル、ありがとう。おいしそう」


 お母さんは、ふーふーと、冷ましながらスープを食べます。

 ミシェルは、その様子を見て、嬉しそうに微笑み、自分もスープを食べました。


「ごちそうさま」


 お母さんは、お椀をミシェルに返しながらお礼を言います。


「うん。お母さんが食べてくれると、僕も嬉しい」


 ミシェルは笑います。

 でも、お椀を受け取ってお母さんに背を向けた瞬間、ミシェルは悲しそうな顔をしました。

 お肉が入っていれば。お魚が入っていれば。もっとお母さんは喜んでくれたのに。

 お肉やお魚が入っていれば、お母さんの病気が治るのも速いかも知れないのに。


 ミシェルは、お椀を洗って、そして、お母さんに声をかけます。


「お母さん。ちょっと川まで行ってくるね。お魚がいるかもしれないし」

「ゴホゴホゴホ、ミシェル、危ないからダメだよ」

「大丈夫、大丈夫だよ。ちょっと見てくるだけだから」


 ミシェルは家を飛び出しました。

 ミシェルは網も釣り竿も持っていません。

 でも、お肉が欲しい。

 だけど、野生の動物を捕らえることは六歳のミシェルには難しいのです。

 なら、魚なら。


 ミシェルは、以前、河原に小さな池を作っておきました。

 石をどかして、掘ると、そこに水が入ってきます。

 そこに魚が入って来ないかと期待して。

 ちょっとだけ、川につながる筋道をつけて。


 ミシェルは、そっと河原を覗きました。

 ミシェルは目を疑います。

 ミシェルの作った小さな池に、魚が入っていたのです。

 二十センチくらいの小さな魚。

 でも、お母さんに食べてもらうには十分です。

 

 ミシェルはそっと、そっと近づいて、池と川がつながった筋道を塞ぎます。

 そして、池に入って魚を手ですくうように、河原へと飛ばしました。


 ビチビチと跳ねる魚。

 逃がすわけにはいきません。

 ミシェルは何とか捕まえて、そして、近くにあった草の茎を魚の口からえらに通しました。


「お母さん。喜んでくれるかな」


 ミシェルは、魚を持って、家に帰りました。


「お母さん! お母さん! 見て見て!」


 ミシェルは家に飛び込みます。


「お母さん、今日はお魚だよ!」


 ミシェルは魚を持ってお母さんに見せにいきます。


「お母さん、見て見て!」


 お母さんの返事はありません。


「お母さん!」


 ベチィ。


 魚が床に落ちます。


「お母さん?」


 ミシェルがお母さんの顔を覗き込みます。

 ですが、お母さんは動きません。


「お母さん!」


 ミシェルがお母さんの肩をゆすります。

 でも、お母さんは瞼を上げません。


「お母さん!」


 ミシェルがお母さんの肩をさらにゆすります。

 でも、お母さんが動くことは、もうありませんでした。


「お母さーん!」


 ミシェルはお母さんを抱きしめ、泣きました。


「お母さん、起きて!」

「お母さん。目を開けて!」

「お母さん、返事をして!」

「お母さん、魚を獲ってきたんだよ!」

「お母さん、魚を食べてよ!」

「お母さん……」


 いつまでもいつまでも泣き叫ぶミシェルの声を聞いて、近所のおばさんが飛び込んできました。


「ミシェル、どうしたの!」



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