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万年Eランク冒険者は裏ですべてを支配する~かつて英雄と呼ばれた男は最強であること隠す~  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中


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笑われるガウディル

「ガウディルになって?」


 マリンがラークを見上げて上目遣いでお願いする。

 しかし、ラークはいま吸血鬼になることはできない。


「まだ夜には早い」

「それまで待てばいい。ラークが吸血鬼になれるのは夜だけだって知ってる」


 ラークは本当の意味では吸血鬼ではない。

 元吸血鬼だ。

 その能力の大半は、かつて《闇紅竜(クリムゾンドラゴン)》を倒したときに失われた。

 そのため、彼が吸血鬼になるにはいくつかの制約が存在する。


 夜であること。

 ラークの体力、魔力が十分あること。

 意識を集中すること。


 その三つだ。

 そして変身できる時間は六時間まで。一度変身を解除すると、次の日の夜まで変身できない。

 そして、便宜上吸血鬼姿の自分を「ガウディル」と呼んでいる。

 できることならギリギリまで変身は避けたかったが、しかし《魅了(チャーム)》状態を解除する薬があれば助かる。

 だが、仲間を魅了するというのはどうも気が引ける。

 というより、ラークは魅了の力はあまり好きではないのだが。


「お願い」

「……わかった。あと一時間くらいしたら日の入りだから、それからな」


 結局、マリンの実験の手助けをすることになった。

 一緒にいた頃も、こうしていろんな実験に協力させられて酷い目に遭ったのだが、断れないのもあの時と同じだ。


「ただし、全部終わったら協力はしてもらう。城の中を自由に動ける仲間は一人でも多い方がいいからな」

「面倒」

吸血鬼公爵(ヴァンパイアロード)が関わってるらしいんだ」

「……わかった。なら仕方ない。手伝う」


 マリンの協力も得られたので、夜になるまで作戦会議をすることになった。

 それが一通り終わったところで、マリンは昔のことを思い出すように言った。


「ラークは変わった。昔はもっと言動に癖があった」

「やめてくれ。黒歴史だ」


 ラークはそう言って苦笑する。


   ※ ※ ※


 十五年前。

 少年は馬車で商品として売られそうになっていた少女たちを連れて、森の奥へと向かっていた。

 そして彼女たちは驚く。

 森の中に小さな村があった。


「ここが俺たちのアジトだ」


 少年がラミリィたちにそう言うと、木の上から大人の男二人が降りてきた。

 髭の濃い野盗風の男たちに、女の子たちは少し怖がり重心を後ろにずらす。

 ここでいま誰かが大きな声をあげたら、何人かは泣きながら逃げ出すことだろう。


「おい、何だその子たちは」

「言われた通り馬車を襲って荷物を持ってきた」

「あぁ、そういうことか」


 少年の言葉だけで質問をした男は全てを察したようだ。


「ガウディルさん、彼らは?」

「俺の仕事仲間だ。安心しろ、危害は加えさせない」


 ラミリィにそう言うと、男たちはキョトンとした顔になる。


「ガウディル? なんだ、その呼び名は」

「便宜上そう名乗ってる。本名は隠せって親父に教わった」

「でも、ガウディルって……」

「じゃあガウディル……ククッ、その子たちを奥に連れていけ……クククっ」


 一人は呆れ、一人は笑いを堪えるのに必死のようだ。

 なぜ笑っているのか、ラミリィたちには理解できない。

 ラークは少女たちを連れて村の奥に行く。


「テント――すぐに……移動できるようにしてるの?」


 ラミリィは言葉を選ぶように尋ねる。


「俺たちは義賊を謳っている。お前達を違法に売りさばこうとしていた犯罪者まがいの奴から商品を盗んで、その一部を貧しい奴らに配る。とはいえ、俺たちがやっているのも犯罪だ。もしものときは逃げないといけない。そのために住居も移動できるようにしている」

「あの大きなテントは?」


 ラミリィは自分たちが向かっているであろうテントを見て言う。


「親父のテントだ」

「お父さん?」

「俺を拾って育ててくれた。ここの頭領だ」


 そう言って少年は少女たちと一緒に一番大きなテントに入る。

 中にいたのは片足が義足杖の頬に大きな傷のあるガタイのいい男だった。


「帰ったか。話は聞こえた。それがお前の拾ってきた商品か」

「ああ。街の支援組織に送りたい。あそこなら普通の生活を送れるだろう」

「ダメだ。いくらなんでも数が多すぎる」

「だったらどうするんだ?」

「殺せ」


 頭領がそう言った瞬間、少女たちの顔色がこわばる。

 しかし少年は顔色一つ変えない。


「って言ってお前が納得するわけがないのは知ってる。だから、そいつらはお前が面倒を見ろ」

「は? どういうことだよ」

「なに。俺たち“翼”の団員は全員男しかいねぇ。女の団員がいないんだ。各地に潜入させるには女の方が都合がいいこともある」

「だったら親父が仕込めばいい。俺にそうしたみたいに」

「これは命令だ。やれ」


 頭領の一言は絶対だったようで、少年は何も言わなくなる。

 そして振り返った。

 少年は理解している。

 最初に「殺せ」と言ったのは、少女たちが生きるには、少年によって教育され、団員として生きるしか道がないと暗に思わせるためだ。

 しかし、女性とまともに接したことがない少年にとって、今回の難題は勝荒れの頭を悩ませるには十分だった。


「頑張れよ、ガウディルーーガハハハ」


 頭領はガウディルと呼び、そして豪快に笑った。

 何故、皆が彼をガウディルと呼ぶたびに笑うのか、少女たちには最後まで意味がわからなかった。

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