表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年Eランク冒険者は裏ですべてを支配する~かつて英雄と呼ばれた男は最強であること隠す~  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/34

魔法研究家マリン

 お腹を満たしたラークは城の中を歩いて行く。

 周囲からは誰も気付かない。

 気配を消しているのではない。

 下手に気配を消せば気付かれる

 気配を消すのではなく、気配を溶け込ませる。

 埋没という技能だ。

 周囲の人間はラークが見えている。気配も読めるし足音も聞こえる。

 ただ、そこにいて当然の背景のように見えるのだ。

 それでいて、ラークは周囲の気配を読む。


(なんでこの気配が?)


 ある特徴のある魔力に気づく。

 その魔力の量が尋常ではない。

 ラークはその部屋を目指していく。

 城の離れ。

 北西の塔から気配は漂っていた。

 扉の前には衛兵がいた。吸血鬼でもないし、魅了もされていない。

 普通の衛兵のようだ。

 さすがに気配を溶け込ませていても、部屋に入ろうとすれば気付かれる。

 

 ラークは一度外に出ると、壁伝いに上っていく。

 そして目的の部屋の前に出ると窓を叩いた。

 反応はない。

 もう一度窓を叩く。

 やはり反応がない。

 鍵が掛かっているようだが、無理やり鍵をこじ開けようかと思いナイフを取り出したところで、窓が開いた。

 窓を開けたのは眼鏡をかけた見た目は幼いピンクブロンドの少女。

 しかし、年齢は二十五歳の歴とした大人の女性だ。


「ご飯の時間?」

「窓からご飯を届けるはずがないだろ」

「その声……マスター?」

「久しぶり、マリン」


 覚えていなかったらどうしようかと思ったが、ちゃんと思い出してくれてラークは安心した。

 彼女の名前はマリン。

 魔法研究家だ。

 十五年前に奴隷商から保護した少女の一人で、ともに《闇紅竜(クリムゾンドラゴン)》と戦った仲間でもある。


「中に入るけれど大きな声は出さないでね」


 ラークはそう言って中に入った。

 そして、窓を閉じる。


「マリン、どうしてここに? 王都近くの洞窟に引きこもってたはずだろ?」

「お金が無くなった。届いてた手紙の中から一番手当てのいい仕事を選んだらここだった」


 マリンは魔法研究のためなら金に糸目を付けずに必要な資材を買いあさる悪い癖がある。

 《闇紅竜(クリムゾンドラゴン)》討伐の報酬はガウディルの仲間たちが均等割りで割り当てられた。その額は人生数百回は遊んで暮らせる額なのだが、彼女はそのお金を僅か一ヶ月で使い切ったというのはキアナから聞いた話だ。

 その後も、彼女は様々な研究をして成果をあげていて、それをキアナが利用することで莫大な富を得ているはずなのだが、やはりそれらも研究のために溶かしている。

 マリンに届けられる仕事の依頼の手紙は、信用できる人間に頼んで検閲させている。

 犯罪組織から仕事の依頼が届いたとしても、金がよければ研究資金のために引き受けてしまう可能性があるからだ。

 吸血鬼騒動がなかったら、国からの、しかもミルファリスの同盟国からの依頼だからその検閲も通過してしまったようだ。


「誰に雇われたんだ?」

「この国に」

「いや、国といっても雇い主はいるだろ? 第一公子とか、国王陛下とか宰相とか」


 ラークのの質問にマリンは首をかしげる。


(興味のないことはとことん興味がないのがマリンだった。全然変わってないな)


 彼女とこうして会うのは十年ぶり。

 少しは成長しているかとラークは少し期待していた。

 キアナからの伝聞もあって驚きはしないが、少し残念だ。

 しかし、あの時と見た目も中身も変わらないマリンを見て少し安心もしている。


「それで、何の研究をしてたんだ?」

「いまは依頼で《魅了(チャーム)》を解く薬の研究をしてる。興味深い」

「《魅了(チャーム)》を解く薬の研究……ってことはレナルドに雇われてるわけじゃないのか」


 レナルドに雇われているのだとしたら、わざわざ国王の《魅了(チャーム)》を解くための薬を作らせたりはしないだろう。

 《魅了(チャーム)》を解く方法は三種類ある。


 一つ目。

 《魅了(チャーム)》を掛けた吸血鬼の意思によって解除する。吸血鬼の眷属にされた場合も同様に解除される。


 二つ目。

 制限時間が切れる。術者の魔力によって、制限時間は変わる。一般的な吸血鬼による《魅了(チャーム)》の場合、一日程度しか効果はない。だが、公爵(ロード)レベルの吸血鬼が魅了すれば、数カ月は魅了が解けることはない。


 三つ目

 《魅了(チャーム)》を上書きする。魅了状態にした吸血鬼よりも数段階上位の吸血鬼にのみ可能。


 ちなみに、吸血鬼に魅了されている状態の人間は、下位の吸血鬼によってその眷属にすることはできない。

 《魅了(チャーム)》とは、吸血鬼によるマーキングと言われている。

 国王陛下が公爵(ロード)レベルの吸血鬼に魅了されているとすれば、それを上書きして解除できる吸血鬼は伝説級の始祖の吸血鬼のみ。つまり、実質不可能ということになる。

 そんな中、マリンは四つ目の方法を生み出そうとしている。


「それで、できたのか?」


 難しいだろうと思うが、念のために尋ねた。


「試作品が三本できた」

「できたのかっ!?」


 それは驚いた。


「まだ試作品。実際に試して初めて完成する」

「そうか。だったら、ちょうど魅了されている衛兵がいるからそいつに使ってみるか?」

「それは公爵(ロード)に?」

「いや、新米吸血鬼にだが」

「……実験結果を確かにするにはもっと上位種の吸血鬼に魅了されている人に試したい。マスター、協力してほしい」

「協力って、お前、まさか――」

「ガウディルになって、私を魅了してみて。そして自分で実験する」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ