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万年Eランク冒険者は裏ですべてを支配する~かつて英雄と呼ばれた男は最強であること隠す~  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中


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馬の扱いには慣れている

 ミネリスを乗せた馬車の御者席に座り、馬を操る。

 純白の馬。名前はパトリック。

 自分(ラーク)より立派な名前だと思った。

 姫に仕える馬のためかプライドが高く最初はラークのことを見下している様子だったが、一度(気迫で)手懐けてしまえばとても大人しく素直な馬だ。

 むしろ、力強くて非常に扱いやすい。

 たぶん、元軍用馬なのだろう。

 筋肉の付き方などが馬車用の馬のそれと少し異なるように思える。

  

「凄いな――姫を乗せているとはいえ、初めての奴にそこまで気を許すのは観たことがないぞ」


 護衛の男が褒めるように言った。

 お世辞ではなく、心底感心しているようだ。


「そうですか? とても大人しくていい馬ですよ」

「大人しい? そいつはこれまで七人の御者候補を病院送りにされている暴れ馬だぞ」

「……そんな危ない話聞いてませんよ」


 ラークは困った顔をして肩越しに後ろを見た。

 話を聞いていたのか、ミネリスは涼しい顔をしてこちらに手を振っている。

 信頼されているのか、試されているのか、ただ怪我をしたら別の人を用意したらいいと思われたのか。

 どちらにせよ、ラークにはやっぱり大人しい馬だ。


(“翼”にいた頃は盗んだ馬の世話は全部僕の仕事だったからな)


 時には懐いていた飼い主を殺した直後に手懐けていた。

 馬を手懐けるのに時間が掛かればそれだけ衛兵に追われるリスクが高まる。

 ただでさえ血の匂いに敏感な馬だ。

 その時の馬の暴れようは、この馬の比ではなかった。


「気を付けろよ、新入り。俺たちを襲った賊はまだ捕まっていないからな」


 旧街道の谷に入り護衛達の警戒が強くなる。

 


「でも、昨日に続き今日も斥候が得意な“鷹の目”がこの辺りを調査しているので、以前よりは安全じゃないですか?」

「だといいがな……」


 護衛の彼は自分から振った話なのに、言葉を濁す感じで会話を終えた。

 賊の正体がただの野盗ではなく、第一公子――レナルド・ラーザルドによって派遣された暗部の人間である可能性があると思っているのだろう。そして、その予想は正しい。

 唯一予想と違うことがあるとすれば、そいつらは既にラークによって殺されていることだろう。

 暗部の連中がいなくても魔物や盗賊が出るかもしれないので、警戒することは悪いことじゃない。

 防備は彼らに任せて、のんびりと久しぶりの馬車旅を楽しもう。


   ※ ※ ※


「あなたって肝が据わってるっていうか、平和ボケしているっていうか本当に幸せそうね」


 谷を越え、見晴らしのいい平原で休憩中、馬に泉の水を与えているところでミネリスが呆れたように言ってきた。


「楽しそうだったと思って」

「楽しいですよ。貧乏Eランクだと馬車旅なんて滅多にできるものじゃありませんから」


 ラークはそう言って、懐から取り出した人参をパトリックに与えると、美味しそうに食べた。


「なんで人参なんて持ってるのよ」

「いやぁ、久しぶりに馬に会えるって聞いて急いで市場で買ってきました」

「準備があるってそれだったの? パトリックは他人から与えられた餌を食べないように教育していたはずなんだけど……」


 とミネリスは訝し気にラークの方を見る。

 

「軍馬を引退してもう十年だし、仕方ないわね」

「軍馬だったんですか?」

「ええ。お姉さまを乗せていたのよ」


 これまでの話から、ラークが真っ先に連想したのはラミリス第一公女だ。

 《闇紅竜(クリムゾンドラゴン)》退治の時には公女でありながら騎士団を率いて、ガウディルたちの手助けにやってきた。

 ラミリス第一公女は十年前、《闇紅竜(クリムゾンドラゴン)》によって大きな被害を受けた港町を慰問したとき、闇紅(やみくれない)という《闇紅竜(クリムゾンドラゴン)》を神と崇めていたテロリストによって殺されている。

 その話が聞いたのは、ガウディルがいまのラークになった後のことだった。


(そうか、あの時の馬がこいつだったのか……似ていると思っていたが同じ馬だったとはな)


 ラークはそう言ってパトリックの背中を撫でた。

 あの時はまだこの馬も三歳くらいだった。

 その時は今以上に綺麗な毛並みで、一度だけ乗せてもらったことを覚えている。


「あれ? ミネリス様。その宝石――」


 ミネリスの胸には大きな赤い宝石があしらわれたペンダントがあった。

 その宝石から小さいながら力のようなものを感じる。


「ミリオン商会から貰ったのよ。今朝、遣いの男の人が持ってきてくれたの。魔除けの効果があるから付けておいた方がいいって」

「遣いの男の人?」


 そう聞いて、ラークは考える。

 確かにミリオン商会には男性の従業員もいる。

 だが、キアナが重要な案件を任せるときに動かす人間は限られている。その中に男性従業員はいない。

 一国の王女に対して贈り物を送るために派遣する従業員が下っ端なわけがないのだ。

 となると――


(ミリオン商会の名を騙る偽物……でも、なんのために?)


 ラークは目を細めてその宝石を見る。


「ラーク、どこ見てるのよ」

「なにって、宝石を――」


 と言って、その宝石がどこにあるのか思い出した。

 ミネリスが咳払いをする。

 ラークは視線を逸らした。

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