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3. 王女たちのお茶会

 お茶会会場には、すでに王の子どもたちが四名ほど集まっていた。


 国王陛下の御子は、全部で七人だ。

 そのうちの第一王子と第二王子は公務が忙しく欠席ということで、第三王子と第四王子、そして二人の王女がそこにいた。


 事前に聞かされた情報によると、正室である王妃の子が、第一王子、第二王子、そして第一王女だということだった。

 つまりこの場では、王妃の子は第一王女であるフロレンシア殿下だけで、他の王子王女は、側室である第二妃の子だということだ。


 そしてイサベリータ殿下だけが、第三妃の子だと聞かされている。


 なんとまあ羨ましいことで、と俺は心の中で呟いた。

 まだ子どもである自分だが、三人の妻がいることは男としては天国なんじゃないかという気がする。

 俺だっていつかは、たくさんの女性に囲まれて、キャーキャー騒がれてみたい。

 と、俗なことを考えながら、お茶会会場を眺めた。


 色とりどりの花が咲き乱れる花壇に囲まれた王城の中庭に、白くて細長いテーブルと椅子が置かれている。

 イサベリータ殿下が到着したときにはもうすでに、忙しなく侍女たちが動き回る中、四人の王の子どもたちがお菓子やお茶を優雅に楽しんでいた。


 殿下は時間に遅れてはいない。なにせドロテアと俺の二人で見守りながらやってきた。すべて予定通りだ。それなのに、他の王子王女たちは先に始めてしまっていたのだ。


 イサベリータ殿下は少々慌てた様子で、上座に腰掛ける、豊かな金髪を複雑に結い上げている女性の横に歩み寄る。


「フロレンシアお姉さま」


 斜め後ろから、殿下がそっと声を掛ける。

 しかし第一王女は振り向かなかった。

 イサベリータ殿下は、少し俯いて、それからまた顔を上げた。


「フロレンシアお姉さま。イサベリータ、参りました」


 さきほどより少し声を張って、そう呼び掛ける。

 すると呼び掛けられた王女より先に、周りの王子や王女たちのほうが振り向いた。


 それから最後に、一番声が聞こえたのであろうフロレンシア殿下が、イサベリータ殿下のほうにゆっくりと顔を向ける。

 そして、言った。


「あら、来たの」


 来たの? なんだそりゃ。呼んだのだから、そりゃあ来るだろう。

 思わず眉を顰めそうになったが、その前にドロテアが俺のほうを睨みつけてきたので、俺はなんとか平静を装った。


 イサベリータ殿下はそれでも口の端を上げると、膝を深く折り、淑女の礼をしてみせた。


「はい、本日はお招きいただきありがとうございます」

「いいえ、イサベリータも王女の一人ですもの。参加してもらわなくてはね」


 ……なんというか、なんとなくなんだが、言葉の端々に棘がある気がする。

 フロレンシア殿下も、美女ではある。彫りの深い顔立ちの、派手な美人だ。だからこそ、その棘がひどく鋭く感じられる。


「遅くなってしまい申し訳ありません」

「いいえ、遅れてはいないわ。わたくしたちで話が弾んでしまったから、早めに始めただけ。さあ、掛けて」

「はい」


 貼り付けたような笑顔で促され、侍女たちに案内された末席に腰掛ける。

 フロレンシア殿下は艶やかに微笑むと、イサベリータ殿下に声を掛けた。


「今日もとても美しいわね。輝かんばかりだわ」


 その言葉に、一瞬だけ動きを止めたあと、イサベリータ殿下は口元に弧を描く。


「ありがとうございます」

「子どもとは思えないわ。羨ましいこと。やはり母親の血が濃いのかしら。イサベリータの母親も、たいそう美しい女だったと聞いているわ」


 その言葉に、第二王女も応じる。


「ええ、それはもう、いろんな殿方を籠絡されたと、もっぱらの噂ですもの」


 柔らかな声音で、ぎょっとするようなことを言い出した。だが騎士の誰も、表情を変えない。


「そんなことは……」

「そうね、それは噂だわ。愛妾といえど国王の側にいる者が、そのようなはずはなくてよ」

「あまりに美しいから、そのような口さがない話が出回ったのでしょうね」


 そうして二人の王女は口元に手を当て、ほほ、と笑う。

 それを聞く王子たちは、困ったように苦笑いを浮かべているだけだ。


 このお茶会を見守る騎士たちの顔からは、なんの感情も読み取れない。

 俺もなんとか口元を引き結び、無表情を貫いた。


 イサベリータ殿下は、少し俯きがちで黙ったままだ。伏せられた長い睫毛が頬に影を落として、それすらも美しいと思わされる。


 黙っていないで、なにかガツンと言ってやればいいのに、と俺は思うが、そうもいかないのだろうか。

 言葉の表面上だけを見れば、その美貌を褒めているだけとも取れるし、反論しても誤魔化されるだけかもしれない。

 でもこの場でそのやり取りを聞いている者にすれば、彼女らの言葉は、明らかに嫌味だ。


 ああ、だからか。だからイサベリータ殿下は、美しいと言われたくないのだ。

 ある意味、言われ慣れてもいるし、もう飽き飽きするほど聞かされてきたのだ。

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