継承
【注意】「転生システムに致命的エラーを発見してしまったのだが」のスピンオフです。
「ねえおじいちゃん、それ、どうやってるの?」
一枚のカードから剣を取り出し、華麗な技で魔獣を討伐した老人を見て、アウラは無垢な瞳で質問した。
老人は剣をカードに戻しながら、優しくアウラの頭をなでる。
「おや、アウラは剣の技に興味があるのかい?」
「そうじゃないの。おじいちゃんは、何もないとこから『びゅわーっ』って!」
「ああこっちか。これは私の固有魔術だよ。『剣を内包したカード』を精錬してるんだ」
「こゆー? ないほー?」
「アウラにはまだ早いかもしれないね。もうちょっと大人になったら、ちゃんと教えて……」
「や〜だ〜! 私もおじいちゃんみたいに『こゆーまじゅつ』使いたい!」
「そうかい、でもじいちゃんの魔術は、とっても難しいからね……もうちょっと簡単な……」
「おじいちゃんのが良い! わたし、おじいちゃんのが良い!!」
アウラにせがまれる老人は、悩むような顔をした。
老人の弟子になりたいという人は今までに何人も、何十人もいた。
そしてそれらのすべてが、技を習得することなく旅立った。
ある者は「実家の手伝いをするために」と言い訳を残して。
ある者は「俺にはあなたの技を継ぐ才能がない」と言い残して。
何も言わずに、忽然と姿を消す者もいた。
老人に罵声を浴びせて立ち去る者は、まだマシだった。
中には明らかに自信を失って、冒険者を引退する者までいた。
老人は、そんな彼らにこそ心を痛め、後悔を募らせていた。
やんわりと断ろうとする老人の気持ちを知らず、アウラは期待に輝く目をじっと老人に向ける。
最終的に、老人は、困ったような笑顔で考えを変えた。
「そうだね……じゃあちょっとだけ、試してみようか?」
「うん! わたし、やってみる!」
元気よく返事をするアウラに、老人は笑顔を浮かべ、何度も教え、何度も諦めた説明を語り出す。
「いいかい、私のこの魔術の本質は『現実に存在しない物を想像する』ことにある。カードと対象物を別々に生み出すのではなく、最強の、無敵の装備を内包したカードを錬成する。時間制限を設けることでカードの中の幻想武具を召喚し、この世ならざる力を振るう……」
「う〜んと……こゆこと?」
老人の言葉を遮って、アウラは器を作るように小さな手のひらを広げ、そこに魔力を集めていく。
老人はその様子を見て、呆れ混じりの小さな笑い声を上げた。
「いや、そうじゃないよアウラ。これじゃあ……」
しかしその言葉は、最後まで話されることはなかった。
それより前に、アウラの手のひらにカードが現れたからだ。
「おじいちゃん、できたこれ! 見て!」
「あ……ああ、すごいねえ」
「ほら! カードから、でっかい剣が出る!」
アウラがカードを放り投げると、ポンッという音と共にカードは消滅し、代わりにいびつな形の剣が現れ、重力に引かれて地に突き刺さる。
それは、明らかに質の低い剣だった。
老人のカードから生み出される幻想剣であれば、軽く振るだけで真っ二つにすることさえできるほどの。
だが、老人の教えを受けて、まがいなりにも剣の召喚に至った者は、他ならぬアウラが初めてのことだった。
「アウラは……すごいねえ。さすがは私の孫だ」
複雑な心境の老人に優しくなでられるアウラは、純真無垢に喜んだ。
「うん! だってわたしは、おじいちゃんの孫だもん!」
その後、アウラは老人の教えを受けることなく固有魔術を極めていく。
後に老人は、アウラの生み出した固有魔術を参考に、一人の弟子を育成するのだが、それはまた別の話。