日常とは……
「ヴィサ、一応神学校で使い方は教わると思いますが、覚えていて損はないですよ」
テノンがにこりと微笑み言う。
「この移転陣は聖職者のスキルがあって初めて使えるモノです。……神々の理ですね。
正当な理由がないと移転陣は発動しない仕組みです。理由はいまだ解明されていません」
テノンとゼイグが手をかざせば、その移転陣は光りだした。
「……正当な理由ってなったんだ」
「なったようですねぇ。前代未聞でしたので半ば賭けでしたけど」
「さて、行きましょうか。陣を固定する聖職者が待っておりますので」
テノンを先に行かせ(そうしないと、バックレる可能性があったため)、子供たちが飛び込むのを見届けてから、ゼイグは移転陣にはいるのだった。
ゼイグが移転陣から出ると、そこは既に阿鼻叫喚の図となっていた。
理由は言わずもがな、ヘリュである。
「……あの子は何をやらかしたんだ?」
思わず素が出てしまったゼイグである。
神獣の一体がヘリュを背に乗せ、大聖堂の天井すれすれを飛び回っていたのだ。
「お~~ろ~~し~~てぇぇぇ」
ヘリュの叫びむなしく、神獣は喜びの雄叫びをあげていた。
「うらやま~~~。俺も神獣様の背に乗りたいっ!」
「何があったか、聞いていいかな?」
周囲が慌てふためく中、ソイニ村の連中はのほほんとしていた。
「なんてことはありませんよ、いつものことです」
「テノン、いつものことで片付けてはいけないだろう?」
「いや、本当にいつものことですよ。本当に好かれやすい体質のようですねぇ。まさかあの誰にもなつかないと言わしめた神獣様が、喜びの雄叫びをあげ、ヒトの子を背に乗せるとは……。
王都に来たかいがありました」
そういう問題ではない。そして、それを羨ましがる幼馴染もどうなのだ。
「ヘリュが移転陣出て間もなくですかね。扉突き破って神獣様がいらっしゃったんですよ。怯えるヘリュを無視して背中に乗せ、今に至ります。
大司教様、ほんっとうに今更ですね。村ではよくある日常でしたので」
「コレが日常?」
「はい、日常です。懐かれ、どつかれるヘリュを羨ましがるライノまでが、村ではワンセットです」
ヴィサがしれっとした顔で、説明してきた。
「ヘリュは、動物苦手だと思って……」
「苦手ですよ。逆にライノは大好きすぎて、動物に逃げられるタイプですから」
「……なるほど」
だからこそ、心配しても羨ましがるのだろう。動物や魔獣の親愛の行為を見せつけられるのだから。
「とりあえず神獣様には降りてきていただきましょうか」