ヘリュの幸運、不運
えぐえぐと未だ泣き止まぬヘリュを連れて、残りの幼馴染たちもやって来た。ヘリュはどう見てもぶかぶかの男物を着こんでいるのが不思議だが、他はいたってどこにでもある普段着になっていた。
「ヘリュ、服……」
「全部だめにされたのぉぉ」
絶句しかけたヴィサの言葉に、泣き止まぬままヘリュが答えた。アルマは必死に宥めている。
「ヘリュの所の家畜もだけど、村中の家畜が不穏な空気さらけ出してるの。隙あらば、ヘリュに襲い掛かりそうな……」
「襲い掛かろうとしてるんじゃなくて、村から出さないようにしてるんじゃない?」
「……どういうこと?」
家畜たちがヘリュを外に出さんがために結託。そう、ヴィサは推測しているのだ。
「あり得る話ではありますね」
「ゼイグ?」
「『テイマー』もちがあまりいない理由です。幼少期……特に産まれて間もなくの赤子を洗礼と共に鑑定すると、そこそこ見受けられるという話があります。そして、何もせずにいると、魔獣や家畜が集まり、何かしら仕出かすことが多いらしいのですよ」
友愛の場合はその子を独り占めせんと、魔獣たちは画策する。その時に死してしまう子もいれば、魔獣に連れられて行った先で、死する子もいる。
服従させようとする場合、魔獣が抗って殺してしまう。
天恵スキルは常時発動型であることが多い。それ故、『テイマー』はある意味危険と隣り合わせなのかもしれない。
「……それって、ヘリュが今まで生きてきたのは幸運ってこと?」
ライネの声が掠れていた。
「……でしょうね。まぁ、幼馴染に『神官』持ちがいたのが助かったという見方も出来ますが。あとは、強い魔獣で群れを纏めるものがテイマーを気に入ると、そのテイマーを守ろうとすると言われていますが」
この村にそこまで強い魔獣がいるとは思えない。とするならば、ヴィサだろう。ゼイグの言葉をフォローするかのように、テノンが続ける。
「そうですねぇ。『神官』持ちがいれば、不思議と魔獣は村に来ませんからねぇ」
「そなの?」
「そうなのですよ。ですから、辺境の村になればなるほど、天恵スキル『神官』持ちを派遣します。これは、神殿関係者の中では常識ですよ」
ライネの質問に対して、テノンがヴィサに言い聞かせるように言う。
……ともあれ。
「ヴィサとヘリュは王都行きです。ヴィサは王都にある神学校に入学していただきます。ヘリュは、王都の高等学校ですね」
高等学校とは、王侯貴族や特殊天恵スキル持ちが通う学校である。無論、王侯貴族が通う学校と、特殊天恵スキル持ちが通う学校は違う。王侯貴族で特殊天恵スキル持ちの場合のみ、どちらに通うか選ぶことが出来る。
「領都のお店に弟子入りしたかったのにぃ」
「するのは自由です。ただ、『テイマー』を使いこなせないと今と何も変わりありませんが」
「……行きます」
何か企んでいないかな、この少女。ゼイグはそんなことを思った。
「ライネとアルマは領都の学校もしくはお店に弟子入りということですかね」
「それが妥当でしょうね。
一応、希望として聞きます。王都の学校、もしくは店子に弟子入りと領都の……」
「領都で」
「領都一択です」
ライネとアルマが即座に答えてきた。
「行くなら領都で十分だよなぁ」
「帰省もしやすいしねぇ」
帰省が基準なのも珍しい気がするのだが。
「それに、ヴィサがいればヘリュは何とかなる」
二人の声がはもった。
「二人とも酷いぃぃぃ!! あたしの神経が持たない!」
魔王よりも黒いんだよ!? そんなことをヴィサに向かって言う。
「ふぅん。ヘリュ、そういうこと言うなら、今度魔獣の巣の前にお前を置き去りに……」
「神官見習いがそういうことをいうのではありません。もっとオブラートに言いなさい」
「テノン、お前の言い方も何か違うぞ」
それもどうなんだ、というライネの突っ込みに、天恵スキル神官持ちの三人はちょっとだけ黙った。