波乱に満ちたスキル鑑定終了
「おにいちゃんの莫迦ぁ……」
「だぁかぁら、悪かったって」
「ぜんっぜん反省してないよね、あの莫迦兄」
毛布らしきものにくるまれたヘリュを連れてきた兄に、あきれ顔のアルマ。一体何があった。
「その話はあとでよ。さっさとヘリュの洗礼すますわよ」
ヘリュの晴れ着は若干大きく、「このために用意した」とはとても言えないものだった。だから、毛布らしきものにくるまれてきたのか、とゼイグも納得である。
「では汝に神々の祝福を」
そして、鑑定された天恵スキルは「テイマー」。希少なスキルにゼイグの顔もほころんだ。
……のだが。
「やだぁぁぁぁ。神官さぁん、も一回鑑定しなおしてぇぇ!!」
「お嬢さん、天恵スキルの鑑定は一度だけ、ですよ」
「絶対やだぁぁ」
既にギャン泣きである。ゼイグだけがドン引きしていて、他は可哀想なものを見る目だった。……ライネ以外は。
「うっわぁ、だからみんなに親愛の行動とか悪戯とかしてたわけかぁ」
「ライネの莫迦ぁ。そんなの嬉しくないし。あたし、『針子』がよかったのにぃぃ」
泣くヘリュをアルマが必死に慰めていた。
普通逆なのに、とかゼイグは思うがこれも土地柄なのか……そう思った瞬間、ヘリュに今度はミーアキャットがのしかかってきた。
「おかぁさぁぁん。きっちり抑えててって言ったじゃんかぁぁ」
これが日常的にあるのだと、あとで知ったゼイグは、ヘリュに同情したという。
「何というか、テイマーはテイマーでも、使役というか、友人関係を構築するといった方が正しいのかもね」
「ヴィサ、留めさしてどうするの」
「このままだと、俺の鑑定が忘れられそうだからさ」
「……あ」
アルマが思い出した、と言わんばかりの顔になっていた。ゼイグも言われて思い出した。それくらい、ヘリュのギャン泣きが凄かった。
「さて、君の鑑定をしようか」
そそくさと、何事もなかったかのように鑑定を始めた。
「大司教さんも忘れてたでしょ」
ぼそりと呟くヴィサに、ゼイグは対外用の微笑みを向けたのだった。
そして。
「おや、天恵スキルが『神官』とは珍しい。このまま神殿へと入るのであれば、私と助祭が後見を務めよう」
「ありがとうございます」
その瞬間、テノンがぎょっとした顔をしたが、ゼイグはそ知らぬふりをした。
それもそのはず。通常であれば、天恵スキルの「神官」を持つ者が神殿へ入る際、後見を務めるのは、見つけた大司教と決まっているのだ。
大司教と決まっているからといって、地区の神殿にいる司祭、助祭が後見につかないということはないのだが。
「え!? ヴィサってどっちかというと魔王の配下って感じがするんだけど」
幼馴染とは時としてひどいものである。
「失敬だな、アルマは。俺に似合いのスキルだと言ってくれよ」
「瘴気よりも黒い奴が何言ってやがる」
「ヴィサッ! 今の法令変えて!! 天恵スキルの鑑定やり直しが出来るように!」
「ライネ、お前までそういうこと言う? それに、ヘリュ、天恵スキル鑑定のやり直しは無理だよ」
「だからぁ、ヴィサが偉くなればいいのぉぉぉ! そうすれば天恵スキルも数回……」
「やっても無駄、だからね?」
「ヴィサ酷いぃぃぃ!!」
いや、ヴィサの言い分が正しい。
その旨テノンが言えば、なおの事ギャン泣きなのだ。
……いったいどうしろと?
「アルマ、とりあえずヘリュを宥めて。俺は村長さんのとこに行くから。ヴィサは……大司教様たちとオハナシアイしたほうがいいよな」
「そうだな。俺もどうせだし、神学校行きたいし。ヘリュはともかくとしてアルマとライネは一度領都に行くんだろ?」
「その予定。普通に取得するよりもスキル覚えそうだし」
その辺りも現実的なようである。
一人未来の大司教候補を見つけた、とゼイグは頭を切り替えることにしたのだった。