村の気質とスキル鑑定開始
「此処にいる四人が、今回鑑定を受ける子たちです。順に、ヘリュ、アルマ、ヴィサ、ライネです」
ヘリュとアルマが女子で、ヴィサ、ライネが男子だ。
四人とも健康的に日に焼け、栄養状態もそこまで悪くない。
「では、はじめようか。汝ら十五になり、成人することになった。神々への感謝と、これからのよき出会いを祈る」
ゼイグが言祝ぎを唱えたあと、祝福を与えた。
そして、水晶球のついた杖を取り出す。
この杖は、大司教になると神殿から下賜されるもので、これを媒体として鑑定をするのだ。
なくても鑑定できなくはないが、精度や鑑定できる範囲がかなり変わってくる。それゆえ、天恵スキルを鑑定するときは、必ず用いることになっている。
鑑定を行う順番は最初から決めていたらしく、ヘリュと呼ばれた少女が一歩進み出た。
……その時だった。
「ンメェェェェ!!」
柵の中にいたはずの山羊が一頭、逃げ出していた。
慌てて飼い主がその山羊のところに行こうとしたのだが。
「ふごっ」
それよりも早く、ヘリュに突進していた。そしてその先には馬がおり、若干飛ばされ気味で馬の傍に行ったヘリュの髪の毛をもしゃりと食んだ。
「いやぁぁ!! ……せっかくおめかししたのにぃぃ」
もう一人の女子であるアルマがヘリュの傍に行き、馬から引き離した。
「ライネ、ヴィサ。先に鑑定受けてて。わたしはヘリュに付き添うから」
「いいの?」
「さすがに小母さん一人じゃ直せない。協力しないと」
「わかった。なるべく早めにな」
「ライネ、ありがとう。神官さん、御前失礼します」
「お気をつけて」
「最初に鑑定できれば問題ないかと思ったんだけどなぁ」
「ヘリュだから、仕方ない。ライネ、さっさと鑑定しろ」
「おうよ。ヘリュが来たらすぐできるようにしておかないと」
十五になったばかりの子供が不思議な会話をしながらも、大司教の近くへと向かってきた。
ライネと呼ばれた子供の天恵スキルは「狩人」。
「よっしゃぁぁぁ!!」
「これでまた狩りが楽になるなっ」
「気が早い! 狩りに必要なスキルをもっとつけてもらって早く即戦力に……」
「お前の方が気がはえぇだろうが!」
他の村では考えられないほどの祝いっぷりである。普通、希少なスキル程喜ばれるのだが。
「此処は結構魔獣が出ますからねぇ。『狩り』に関するスキルは喜ばれるのですよ」
テノンがゼイグにあっさりと説明した。そう言った辺境の地でも「結界師」とか「治癒師」と言ったスキルが喜ばれることが多いのである。
「え? だって治癒師の婆様も現役だし、神官様にも治してもらえるし」
「……そういう意味ではないのだがね」
「それに、婆様が教えてくれるおかげで、『治癒』のスキル持ってる人それなりにいるし」
普通は教えないのだが。
そして、此処には「結界師」と呼ばれるスキル持ちはいない。
そういった地域では、猶更未取得のスキルを望むのだが。
「此処はそういう地域ですよ、ゼイグ大司教」
「羨ましい」
今まで他の大司教がゼイグに回さなかったわけである。
次、ということになった時、アルマがやって来た。
「ヘリュは?」
「……聞きたい?」
ライネの言葉に、一瞬にして表情を消したアルマが答えた。
「……大体想像ついたからいいや。俺だけ終わった」
「さきにやりなよ、アルマ」
「ヴィサはいいの?」
「取りあえず、次壁になるのが必要かなって」
「壁は終わったライネでいいと思うの」
「足りると思う?」
「……」
沈黙が答えである。
そして、アルマの天恵スキルは「針子」。この鑑定結果に村の女性陣が拍手喝采を送った。
「此処は生活直結型が喜ばれるのか?」
「村の気質ですな」
他の地域では「針子」という鑑定結果に此処まで拍手が送られることはない。
この村の特色、ということでゼイグが納得したのだった。