セリフ5:「俺には全然急いでるように見えないんだけど!」
前回から引き続きお読みいただき、誠にありがとうございます。
主人公・早瀬弘美はある日夫の声が大好きな声優赤山秋の声で再生できることに気づく。弘美は、聞いた言葉を、好きな声、好きなシチュエーション、で再生できる能力を身につけたのだ!
その能力を使って、疲れた日常をときに荒ぶりときに癒されながら乗り越えていく物語ーー
今回はどんなシュチュエーションが飛び出すのか…!
それでは、つづきをどうぞ!
早瀬家の朝は遅い。特に冬になると。目が覚めても布団から出たくないのはこの一家に限ったことではないだろう。
まずだいたい8時に弘美が布団から起き上がる。弘美は身支度を済ませ8時15分に息子たちを抱き上げガスファンヒーターの前に寝転がす。朝食の準備が終わったあたり8時30分ごろ夫の智成が起きてくる。一家四人で家を出るのは8時45分。夫を駅に送るのは8時50分幼稚園に送るのは9時だ。本当は先に幼稚園へ息子たちを送って行けるのが理想なのだが、時間のリミットが厳しいのは仕事の方なので、最近は仕方なくこの流れになることも多かった。
もう少し早く起きなきゃなと弘美は思う。6時30分に起きていた時期もあった。しかし続かなかった。病院に行くようになってから、今の自分にできる範囲のことをしようと気持ちを切り替えた。でもせめて7時30分くらいに起きたら朝もっと余裕ができるのだろうか…ぐるぐると頭の中で考えながら息子たちの着替えとお手洗いと食事、その他幼稚園に行くためにする諸々の身支度の補助を済ます。
8時40分弘美は焦る。毎日のことではある。むしろ間に合うなら弘美の中では合格だ。
智成は一人で身支度をしている。自分の水筒にやかんからお茶を注ぎながら、俺の飲み物も用意してくれないもんな〜とぶつくさ言っている。
8時45分息子二人に靴下を促す。優太には靴を履かせる。健人の靴は手に持ち本人をおんぶする。そのまま車に乗り込む。
智成が車にやってきたところで弘美は息子たちの幼稚園カバンを玄関に置きっぱなしにしていることに気づき、ごめん!急いで取ってくる!と、家に戻る。二つのカバンを持った弘美が無事車に乗り込む。バタバタとした朝の準備が車のドアが閉まる音とともに終わった。
助手席に滑り込んだ弘美がふーと上がった息を落ち着けようとしていると運転席の智成が言葉の一撃を弘美の腹へ打ち込んでくる。
「俺には全然急いでるように見えないんだけど!」
油断していた弘美には言葉をガードする暇などなかった。朝早く起きてこなかったのは事実だし。荷物を忘れたのも事実だしな。駅で智成を降ろし、幼稚園に息子たちを送ったあと、家に戻り洗濯機を回す。
洗濯が出来上がるまで35分間。部屋に掃除機をかけながら弘美はふっと笑った。
赤山の声がしたからである。この声のトーンは……バトルものだ。
主人公が刀型の武器を構えている。蠅のような羽根を持つ敵は縦横無尽に空を飛び回る。敵が空から突進してくるたび地面には穴が空き爆音が鳴り響く。俺のスピードについてこれるやつなんていないゼェェェェエ!!!と甲高い声を上げながら敵はさらに速度を上げた。目で捉えることはできず、認識できるのは耳を塞ぎたいほどの音だけだ。
これで終わりだ!消し飛ベェェェェエ!
敵が向かってくるその一瞬にも満たない間、主人公はふっと左の口角をあげた。
ドォォォォォオン!!!
凄まじい土煙があたり一帯を覆う。
風が吹き視界が戻ってきた。
主人公は平然と敵に向かい合っていた。
「俺には全然急いでるように見えないんだけど!」
はじける笑顔。その刹那、主人公の武器が光り輝く。
気づいたときには主人公と敵は背中合わせ。
そのままスタスタと歩く主人公の後ろで、呆気に取られた敵が、こんなにハエー奴がいるなんテェェェェエ!!!!!と叫びながら鮮やかな色の爆発とともに消えていった。
洗濯機が弘美を呼ぶ。
洗濯物を干しながら弘美は思う。明日からは7時30分に起きてみよう。無理だったらまた戻せばいいじゃないか。やろうと思ったことやってみよう。ちょっとずつ、自分のできる範囲から。
弘美の心は掃除機をかけ終わった部屋のようにスッキリとしていた。
セリフ5:「俺には全然急いでるように見えないけど!」
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次回 セリフ6:「一日中何してたの?」
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