セリフ30:「お前がしてくれたから」
引き続きお読みいただき、誠にありがとうございます。
主人公・早瀬弘美はある日夫の声が大好きな声優赤山秋の声で再生できることに気づく。さらに最近では、好きなときに、好きな声が、好きなシチュエーションで聴こえ、BGMまで流せたりと、弘美は試行錯誤の中で色んなことができるようになってきた。
その能力を使って、疲れた日常をときに荒ぶりときに癒されながら乗り越えていく物語ーー
※ご注意※
今回内容に
少量のグロ表現
病気
障害
などが含まれます。
上記関係の表現を読むのは苦手だという方、どうぞご無理なさらずご覧にならないよう、よろしくお願いいたします。
心情的に苦しくなる場面がございますので、話の途中でも無理だと思われた方は、読むのを途中でやめていただきますようお願い申し上げます。
ご自分を大切になさってください。
ーーーー
そして、クライマックスでは特に手に汗握りました。
『自分ばっか犠牲にすんなよ!一番大切なのは自分自身だろ!』
『でも俺がいるってこと忘れないで。』
『お前のこと支えたいんだ。力になりたいんだよ。』
という言葉は、とても心にグッときました。
時間ギリギリのところで思いついた方法は、一人ではできなかったけど二人ではできる方法で、諦めなかった二人に感動しました。
カーアクションシーンは圧巻のド迫力で私の目は舞台に釘付けになり、握った手をさらに握りしめました。時間を忘れるほど舞台に惚れ込んだのは初めてです。
別れのシーンでは、世界も人もグラデーションになってるから、いろんな色があるから、綺麗で面白いという言葉に心を打たれました。
ミスばかりと決めつけず、最初は偶然でも、そこから一回、できたらもう一回、とやってみてそうやってできるようになっていくという言葉に勇気をもらいました。
最後の、全部元通りの世界になるけど、一つだけ違う。僕は君を知っている。と主人公が言う場面に、自分自身を重ね合わせました。私は、赤山さんを知ることができて本当によかったです。
赤山さんを見つけられてよかった。この舞台を見つけられてよかった。心の奥まで届く演技を直接受け止められたこと、忘れません!
本当にありがとうございました!!
赤山さんの声が、演技が、大好きです。
どうぞこれからもご活躍されることを、
心より応援しています。
風薫る五月、どうぞお健やかにお過ごしください。
貴重なお時間を割き、お読みくださいまして
ありがとうございました。
5月6日 早瀬 弘美 (ロミ)
弘美は赤山へのファンレターを書き上げた。ゴールデンウィークが終わり、優太は小学校、健人は幼稚園に行っている。
ふぅー!2回目でもやっぱり緊張する!すぐにでも送りたかったけど、推敲してたら時間かかっちゃった。
弘美は書き終わるとすぐに手紙を出しに行き、今帰ってきた。無事出せたことにホッとし、お茶を手に取り一口飲む。すると、スマホが鳴った。智成から電話だ。
ピッ
はーい!お仕事お疲れさまです。どうしたの?
ーあ、今いい?ちょっと話聞きたいってやつがいて。
?
◇
4月25日月曜日。
先輩おはようございます。
おーイケダ、おはよう。あ!お前がおすすめしてたアニメ見たよ。
フトナカですか?
うん。あれ結構面白かった。子どもにもウケてたし、ありがとう。
お子さんにも、それはよかった…
なんか元気ない?
あ、はい。俺、先週たくさんやらかしちゃって。土日もそのこと考えてて。あと他にも色々…。反省してるんですけど、どうしてやっちゃうかなって。
例えば?
Toにいろんな人のアドレス入れたり、お客さんの名前間違えてメールしちゃったり。
あー。まぁ、やんない方がいいけど、みんなやるんじゃない?俺も新人のときやったよ。
でも俺、もう何回目ってくらいなんです。確認するんですけど、どうしても間違ってるやつが無くならなくて。
ふーん。昔からそうだったの?
はい。昔からミスは多かったです。視野が狭いのか、すぐそこにあるものでも見えてなかったりして。忘れ物とかも多くて、ランドセルとかよく忘れていってました。
へー。人とのコミュニケーションは?
俺、人と距離が近すぎるみたいで、適度な距離ってあんまりわからないんですよね。友達はふつうにいるんですけど、初対面でも馴れ馴れしくしちゃうっていうか…。
ふーん。あとなんか気にしてることあるの?
あと?あとですか?んー。
ちょっと気になってるのは、俺、階段怖いんですよね。小4のとき、その日俺日直で花壇の水やり当番やんなきゃいけなくて。でも忘れてて、友達に教えてもらって、急いで花壇に向かってたら階段から落ちたんです。顔から落ちて唇縫ったんですけど、それ以来階段を降りると、そのときの記憶が映像みたいに頭に映り込むっていうか。
フラッシュバック?
はい!たぶん、そんな感じです。
ふーん。と思いながら智成は弘美を思い出す。あいつも同じようなこと言ってたな。
昔、隣の席のやつが工作の時間に彫刻刀で指を切った。その場面をもろに見てしまって、それ以来刃物を見るとフラッシュバックしてしまうって。その子は数日で怪我が治ったから、そこまで大したことじゃなかったって、わかってるけど、弘美は未だに尖ってる刃物は特に苦手だと言っていた。
イケダは真面目だ。別に俺にはコミュニケーションも問題なく思える。多少馴れ馴れしかったりするが、そんなに気になる程でもない。
でもミスか。
確かにこいつはミスが多い。それでやらかして、仕事が増えて、俺に相談してきたりして。不安だから確認してくれと言われ俺の仕事時間が削られてたりしてるのも事実だ。
本人も周りも悩んでるっちゃ悩んでる。
智成の頭にはそのイケダの悩みに思い当たる言葉が浮かんでいた。しかし、それを口に出すのはデリケートなことに感じて、どう言えばいいのかなかなか外に出てきてくれなかった。
はぁ、俺どうしたらいいんすかね。
実は、土曜日彼女に振られちゃいました。
あなたは全然私のことを見てないって。
俺、好きなことしてると、それしか目に入らなかったり、耳に入らなかったりして、デート中よく怒られてたんです。
ため息をつくイケダに、この言い方であっているかわからないが、一応こう聞く。
発達障害って知ってる?
え?なんですか?それ。
まぁ、知らないよね、俺も知らなかった。と智成は心の中で思う。もうこの話はこれでお終いにしようと、智成はこう話した。
いや、俺の知り合いにいるだけ。なんでもないよ。まぁさ、元気出せよ。
…はい。
智成はSEだ。普段仕事ではシステムの設計などを行なっている。今週から世間がゴールデンウィークと呼ぶ大型連休が始まる。客の会社が休みの日を狙って新システムを導入するため、智成とイケダは休日出勤することが決まっていた。
◇
4月29日金曜日。
智成とイケダは世間がゴールデンウィークと騒ぐなか出勤していた。他にも数名の社員が新システム導入の業務にあたっている。
そこでインシデントが発生してしまった。イケダが作成した手順書に誤りが見つかったのだ。見つけたのは智成だった。イケダは落ち込んでいた。その日は智成がリカバリーし、事なきを得た。
そこから連休に突入した。
そして連休明けの5月6日出勤時刻になってもイケダは会社に来なかった。休みの連絡もなかった。
イケダの異変に気づいた智成は、彼に電話した。寝坊か病気か?とも思った。でも心当たりはやはり29日だ。イケダはミスに打ちのめされているのではないかと智成は思った。
ーはい。
イケダが電話に出る。
今どこにいる?
ー家です。先輩すみません。俺、辛くて会社行けないです。
そうか、今日は体調不良で休みだな。
ーいえ、もう会社行けないです。辞めます。
はぁ!?
ーお世話になりました。
電話を切ろうとするイケダを智成は止める。
おい!ちょっと待て!確かに29日にミスはあったが、あの時点で見つけて修正できたんだ。システムには問題ないはずだ。そこまでのことじゃない。
ー先輩、教えてくれたじゃないですか、発達障害って言葉。
智成の心臓はドキリと脈打つ。
ー俺、29日すっげー凹んで、家に帰って沈んでたとき、先輩が言ってた言葉思い出して、ネットで色々調べたんです。調べれば調べるほど自分に当てはまってて。もう、俺それってことじゃないですか。連休中ずっと悩んでました。そんで今日、布団から出られなくて。会社行けなくて、連絡しなくちゃいけなかったのにそれもできなくて。もう、どうしたらいいのかわかんないです。
電話の向こうで鼻を啜る音が聞こえる。イケダの声は震えている。泣いているのだろう。智成はこう伝えた。
上司には体調不良で遅刻って伝えておく。お前今からでも会社来いよ。どうしたらいいかわかんないんだろ。この間言ってた知り合い、紹介するよ。
ー…はい。
イケダは了承して電話を切った。そして昼も過ぎた頃出社した。智成は上司に許可を得て会議室にイケダを呼び電話をかけた。イケダは椅子に座り下を向く。今にも泣きそうな顔だ。
ーはーい!お仕事お疲れさまです。どうしたの?
相手が電話に出た。智成が話す。
あ、今いい?ちょっと話聞きたいってやつがいて。
ー?
発達障害について悩んでるやつがいるんだけど、お前その人と喋ってもらってもいい?
ーえぇ!?なんで!?!?
お前そういうの得意だろ。
ー全然そんなことないよ!そんなこと言ったこともない!なんでそう思うの!?
勉強してんじゃないのかよ!
ガミガミとしたやりとりが続く。イケダは顔を上げた。
もしかして知り合いって、先輩の奥さんですか?
ん? なー、お前のことイケダに話していい?
ーイケダって新人くん?
そう。
ーまーいいけど。あんまり広めないでねとは言っておいて。
おー。
智成はイケダに言う。
そう。ヨメ発達障害なんだ。あ、周りに言うなよ。何言われるかわかんないし、信用できるやつにしか言わないようにしてるんだ。
あ、はい。
イケダは智成があまりにも普通に言うので、鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンとした。
え、発達障害ですよね、なんでそんな普通なんですか!? 俺、俺は、バレたくないとか、恥ずかしいとか、生きててもしょうがないとか、そんな、そんな気持ちなんですけど。
うん。辛いな。
智成の言葉に、イケダの目が涙で滲む。
まぁ、とりあえず話してみたら。ほら、お前も話してやれよ。泣いてんぞ。
ーわかった。あのー?
はい。
智成から電話を受け取ったイケダが返事をする。
ー今日はどういったご用件で?
弘美の声からは緊張しているのが伝わってくる。優太のことを知っている地元の友達から療育についての相談などは受けたことがあるが、智成からこういった電話を受けたのは初めてだった。
あ、えと、その。俺、自分が発達障害なんじゃないかなって悩んでて。それで、えと、話すと長くなっちゃうんですけど。
聞いていた智成がイライラし出した。あのな、電話代かかるだろ。さっと話せよ。
え!?えと、俺ミスが多くて、あの、小学生のときとか…
ここまで聞いた智成は電話が長くなることを確信した。イケダから電話を奪って言う。
なぁ、今日就業後、家にイケダ連れて行っていいか?
ーえぇ!?!?困るよ!部屋汚いし!
じゃあ、いつなら話できる?
ーというか私専門家でもなんでもないし。
でも、こいつ困ってんだよ。
ーそうだけど、だったら専門のところに…
あのな、みんなお前みたいに詳しくないの。その専門のところがまずわかんねーんだよ。知らなくて選択もできないのと、知って、自分で選択できる方なら、知って選択肢増える方がいいんだろ。お前俺にそう言ってたじゃん。
弘美はその言葉にハッとする。智成がこんなに人の面倒をみることは今までなかった。さっきの選択肢の話だって、智成はどこにも相談に行ってないから伝わってる実感はなかったが、ちゃんと言葉は届いていたんだなと思った。智成の変化に弘美は協力したい気持ちになった。
ーじゃあ明日はどう?
ー土曜日だから優太と健人もいるけどいいかな?
智成がイケダに確認する。明日うちくる?子どもたちいるけどいいよな?
え!いいんですか。
仕方ないだろ。このままほっとくわけにいかないし。
ありがとうございます、先輩。
イケダはまた涙を流し、智成に感謝した。この日は苦しかったが、明日のことを思い、なんとか仕事をこなすことができた。
◇
5月7日土曜日。
イケダは早瀬家の前にいる。
ピンポーン
はい。と智成が玄関のドアを少し開ける。イケダがドアを持ち、家の中にはいる。
おじゃましまーす。
早瀬家は賃貸マンションの一階にある。優太が飛び降りたら危険だから一階にしか住めないと当たり前のことのように智成が言う。
弘美はこの家で人を出迎えた経験なんてないし、智成の会社の人に会うのも初めてだったので、相当緊張していた。お茶を持ってきたのに、テーブルに置く際に溢れ、わたわたする。
ごめんね、ごめんね。
と謝る弘美にイケダは少し緊張がほぐれた。
優太と健人がゲームをする中、智成とイケダと弘美は話す。
内容は、これまでのこと、今悩んでること、これからどうしたらいいかなどだ。
弘美はパンフレットを見せる。
そして話し始めた。
まず、自分で考えてもわからないし、私みたいな素人がわかることでもないから、お医者さんに診てもらって正しく診断を受けるのが大事だと思うんだ。
私たちが行ってる病院はメインが子どもだから、大人の発達障害を専門に取り扱ってるのはこっちだと思う。
他にも色んな病院とかクリニックとかあると思うけど、私が知ってるのはここかな。私、診察は子どもたちと同じところで受けてるけど、リハビリはここに通ってるんだ。きれいなとこだよ。
へー。といいながらイケダがパンフレットに手を伸ばす。確かにネットで検索したときこの病院もヒットした。
どこの病院が通いやすいかは人それぞれあるだろうけど、探すのも結構手間だし、疲れるし。だから、一応具体例をと思って。それ、あげるね。
あ、ありがとうございます。
イケダは弘美からもらったパンフレットを眺める。大人の発達障害の外来を受けるには予約が必要らしい。
この予約って…
私も一回ここにかかろうとして電話してみたけど全然繋がらなかったから、もし電話するならがんばって!それだけ悩んでる人が多いってことかな〜。
はぁ。
あと、大人の発達障害って書いてあるけど、これは子どものときは見つからなかったってことなんだー。
発達障害って、生まれつき脳の発達に障害があることの総称なんだけど、これって、大人になってからなるとかじゃなくて、生まれつきのものなんだよね。
だけど、小さいときはそこまで問題が顕在化してなくて、社会人になって仕事がうまくいかなかったりして気づくパターンがある。そういうときに大人の発達障害を専門に扱ってる病院とかでみてもらうって感じかな。今私が喋ったことも諸説あるから。全部鵜呑みにしないで、自分で調べてみたりしたほうがいいけど、何にも情報がない状態だとどの情報が正しいのか取捨選択出来なくて調べるのも苦しいよね。
一応これ、私の主治医の先生が出してる本。
ゆっくり読んでもらって大丈夫だから、読み終わったら夫に返しておいて。
ネットの記事とか信用度が分かりにくいから本とかの方が信用できるかもしれない。
でも、情報古かったりするし、最新の情報はネットの方が早いし、迷いどころなのかな、例えば、アメリカで……
弘美は一人でどんどん喋る。
智成からツッコミが入る。
またマシンガントークになってるぞ。
あ、ごめん。わかりづらかったよね。私も専門家じゃないから確かなこと何一つ言えなくてごめんね。
いえ、ホント助かります!ありがとうございます。
俺、ミスばっかで迷惑かけるし、会社にいちゃだめかなって思って辞めようとしてたんです。
お前なー、もったいないことすんなよ。
新卒で入った会社だからですか?今辞めたら俺、他の仕事できそうにありませんか?
ん?別にそういうことじゃねーよ。障害年金とかいうやつの話。ショシンビとかそういうやつが大事だってこいつ言ってたぜ。
そうそう、初診日ね。病院にかかった日に厚生年金に加入してるか、国民年金に加入してるかで、申請できる等級が違ったり、金額とか、色んなことが変わってくるの。
へー。そんなの知りませんでした。
ねー。そういう情報なんて何にも知らなかったなー。情報無くただ、自分が発達障害かもって悩んでるときって苦しいと思う。
私は自分の診断より先に息子たちが診断受けてたから、息子がそうなのかなって悩んでた時期すごく苦しかった…
え!? 息子さんたちもなんですか?
イケダが思わず話を遮る。
へ?言ってなかったの?
弘美が智成を見る。
あー、言うの忘れてた。
イケダは信じられないような気持ちになる。
なんでこんなにも普通でいられるんだろう。二人とも当たり前のように飄々として見える。
今も苦しいって感じることいっぱいあるけどね。
そう言いながら弘美は困ったような笑顔を見せる。
笑っていられることがイケダには信じられなかった。もしかしたら自分が悩んでいることは大したことではないのではという希望さえ湧いてくる。
障害年金だって、1級、2級とか、色々等級があったりして、条件があるから誰もが申請できるってものじゃないけど、こうやって情報を得て思うんだ、軽度には軽度の人の辛さが、重度には重度の人の辛さがあって、その狭間にいる人とか苦しんだりしてるけど、一応制度はあるんだなって。相談するところはあるんだなって思うよ。
なんで、なんでそんな普通にしていられるんですか?
俺、先輩の家族どこも変じゃないと思います。
なんか、俺が思ってるのと違う。
俺は俺がそうなんじゃないかと思うと、これから生きてくのが怖くて、目の前が真っ暗で。
うん。俺、少しわかると思うよ。
先輩違うじゃないですか、わかんないですよ。
いやいや、自分以外の家族が障害者って結構辛いこともあったりするぜ?
そう話す智成の顔は穏やかだ。
まぁ、でもさ、全部はもちろんわかんないけど、目の前が真っ暗になる感じとか、将来がわかんなくなる感じとか、そういう苦しさは味わってるから、わかるところもあると思う。
今は色んなことがいっぱいいっぱいで苦しいとこだと思うよ。
別に絶対病院に行けって言ってるわけじゃない。
俺はお前の悩みとか、苦しみとか少しわかって、なんとかしてやりたいって思った。それだけ。
情報を得た上で、どうするか決めるのはイケダ次第だよ。
自分の心のままに動いたらいいんじゃない?
先輩…。ありがとうございます。ちょっと、もう一度、考えてみます。
弘美さんもありがとうございました。
たくさん勉強になりました。
いえいえそんな!本当に私専門家じゃないから!あの!鵜呑みにしないでね!
弘美は念を押す。
はい、本当にありがとうございます。もし診断されたら終わりだって思ってたけど、その先にも色々あるんだって知ることができてよかったです。では、おじゃましました。お子さんたちもありがとー。
と言ってイケダは優太と健人に手を振る。
バイバーイ
と優太は手を振るが目線はイケダと合わさず応えた。
またね〜!
と健人はイケダに抱きついた。
イケダは本当に信じられなかった。自分が怖がっていたものはなんだ?イケダには智成の家族が幸せそうに見えた。
どうしてなんだろうと思いながら早瀬家を後にした。
お疲れ様。
智成が弘美に言う。
はぁ〜〜緊張した〜〜と弘美は床にバタっと倒れる。
イケダくんどうするかな。
わかんない。
そうだね〜。
と言いながら弘美は体を起こす。
智成がイケダくんにあんなに優しいなんて知らなかったな。
「お前がしてくれたから」
へ?
お前が俺にしてくれたこと、ちょっとあいつにもしたくなっただけ。
俺あの日、本当に助かったから。
弘美は智成の横顔をじっと見つめる。
弘美は、自分がしたことが、智成にちゃんと届いていたことが嬉しかった。しかもそれを智成が誰かに繋いでくれたことに、たまらなく幸せを感じた。
あとさ、健人がもし会社で働いたらあんな感じかもって思うとなんかほっとけなかったんだよな。
え?
ほら、健人は軽度の方だろ。だったら、ああやって会社で働いたりすんのかなって、そんときにいびられたりしたら悔しいじゃん。
全然関係ないかもしれないけど、俺の周りだけでも、そういう空気無くしたいなって。
どういう言い方が通じやすいとか、せっかくお前が知ってんだから、これから教えてもらったりできたらなって。んで、覚えて、使って、工夫していけたらなって。
智成はいつからこんなに頼りがいのある人になったのだろうか。
弘美は目を丸くさせて驚く。
人や自分が変化に気づくのはたいていだいぶ変化してからだ。きっと智成の中で一つ一つ何かが変わっていって今があるんだと思うと弘美は嬉しくなった。
言葉が自然に口から出る。
智成かっこいい。
当たり前だろ。誰に言ってんだ。
と、すぐさま智成が胸を反らして返事をしたので、弘美はたまらず笑った。優太と健人もその楽しそうな声に集まってくる。
犬の散歩で早瀬家の前を通ったご近所さんは、この家すっごい笑い声聞こえるなと思いながら彼らの家を通り過ぎた。
セリフ30:「お前がしてくれたから」
お読みいただき、本当にありがとうございます!
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いつもありがとうございます。
次回最終話予定です。
明日投稿できるか、明後日の投稿になるか、現時点でわかっておりません。すみません。
この家族を私としましてもしっかり見守りたいと思います。
読んでくださっている皆さまにも、最後までこの家族を見守っていただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いします!