セリフ28:「これからも生きていこう、一緒に」
引き続きお読みいただき、誠にありがとうございます。
主人公・早瀬弘美はある日夫の声が大好きな声優赤山秋の声で再生できることに気づく。さらに最近では、好きなときに、好きな声が、好きなシチュエーションで聴こえ、BGMまで流せたりと、弘美は試行錯誤の中で色んなことができるようになってきた。
その能力を使って、疲れた日常をときに荒ぶりときに癒されながら乗り越えていく物語ーー
※ご注意※
今回内容に
流産した表現
病気
障害
などが含まれます。
上記関係の表現を読むのは苦手だという方、どうぞご無理なさらずご覧にならないよう、よろしくお願いいたします。
心情的に苦しくなる場面がございますので、話の途中でも無理だと思われた方は、読むのを途中でやめていただきますようお願い申し上げます。
ご自分を大切になさってください。
なぁ、お前はいつからそんなに離れていってた?
◆
弘美は智成に懇願していた。
お願い!一回いいって言ったじゃん〜。
6時間もなんて聞いてない!
智成ならできるよ〜!っね!
やだ。
お願い!お願いします!どーーしても行きたいんです!
はぁー。しつこいって。
どうしても赤山さんに会いたいの!!
直接演技を拝見したい!!お願い!!この通り!!
赤山さんに会いたい!!!
うぜぇ。
両手を顔の前でパチンと合わせ拝み倒してもそう言い放つ智成に弘美はカチンときて言葉を続ける。
あーわかった!怖いんだ!
いつも私のことポンコツって言うけど、私がいないで子どもたちみるの怖いんでしょ?
はーぁー?
今までやったことないもんねー。
やってなくてもやれるわ。お前にできて俺にできないことなんてないからな!
うん!!私もそう思う!智成なら大丈夫!
当たり前だろ!
わーい!ありがとー!!
って、お前の思い通りになるかバカ!!行かせない。
そんなぁ……。
智成は4月24日にある、赤山の朗読劇に弘美が行くのを一度許可した。しかしその後、弘美が6時間もの間家を空けるなどの詳細を説明すると、許可を取り下げた。
弘美は焦る。智成はバタンと玄関を閉め、いってきますも言わずに会社へと向かった。
◇
智成が通勤中の満員電車の中で立っていると、通学中の小学生が視界に入った。
比較的ドアに近いところにいるが出入りの邪魔になる場所には立たず、しっかりと手すりを握っている。
制服を着ているが智成にはその子がどの学校に通っているのか検討もつかない。
何年生くらいだろうか、ずいぶんとしっかりして見える。とぼんやり考えている智成の頭の中に、優太が映り込む。
智成は思いをめぐらす。
この間の4月6日に優太の入学式があった。
優太は地元の小学校に入学し、特別支援級に在籍することが決まった。
進学先を決める際、俺と優太と弘美の三人は、特別支援学校の体験入学に行った。ここは家から車で30分以上かかる位置にあるので、バス通学になるらしい。
弘美はどちらに入学すればいいのか悩んでいた。
優太の担当医、療育の先生、リハビリの先生、幼稚園の先生など、様々な先生と呼ばれる人たちがどちらがいいか悩みどころだと言っていたそうだ。
弘美は地元の小学校にも見学に行っていた。俺は行かなかった。俺の希望は地元の小学校一択だったから。
どうせ入学するんだから行かなくていいかなって。
体験入学にも付き合ったしもういいだろって。
俺の思い通り優太は地元の小学校に入学した。
地元の小学校で行われる入学式に参加する。
そうそう。こういうよくある感じが好きだ。ランドセル背負って、入学式の看板の前で写真撮って。
写真撮るのを失敗した父親が、母親と子どもにもーって文句言われながら、ごめん!もう一回いくよー!はいチーズと声をかけている。
羨ましい。優太だったら二度目はない。というか一度目もじっとしていられないから、ブレる。たとえブレていなくてもカメラから目線を外した写真の出来上がりだ。
優太は卒園式のときと同じく、いやそれ以上に入学式ではじっとしていなかった。
弘美は、慣れてない場所だからだと思う。無理しなくていいし、ちょっと散歩してくるね。先生に伝えてくる。と言って優太と一緒に体育館の外に出てしまった。
俺は一人、祝辞や歓迎の言葉を受ける。
虚しかった。
新しいスタート、未来、希望、言葉を受け取るはずの優太はここにはいない。
他の生徒のきちんとならんだ後頭部を見る。
新一年生が並んで座る中のさっきまで優太がいた席を見る。俺の隣の弘美がいた席を見る。
二人は俺が望む世界にいない。
俺はただ、誰もが過ごしていれば当たり前に享受できるような空間にいたいだけなのに。
ここにいる人たちには、この景色はぴかぴかと輝いて見えるのだろうか。俺にはモノクロに見える。
今の俺は別人の人生を歩んでる。
本当なら俺もそっち側だったろ。弘美に騙されなければ。優太が生まれてこな……
プシューッ
電車が止まり智成の会社の最寄り駅に着く。
智成はただ、人の流れに沿って駅のホームを歩いた。
昼休憩。
智成に新人のイケダが話しかける。
せんぱーい!お疲れさまです!
おう、おつかれ。
智成は片手をあげ応じる。智成は会社では愛想がいい。
お昼一緒に食べに行きません?
ん?いいけど。
本音は少し嫌だった。智成は昼くらい一人でゆっくり食べたい。弘美が弁当を作ってくれてたときは外に食べに行く必要もなく、すぐ食べられるし、金もかからないし、移動時間を休憩に充てられてよかったのにと、弘美に対する文句がチラリと顔を覗かせる。
(何が子育てが忙しいだよ。体調が悪いとか。働いてないんだから言い訳すんな。弁当がなくなった分の昼食代は家計から出てるけど、結局それは俺が稼いできた金で、お前の工夫次第で節約できる金なのに、使わせるのがイラつくんだよ。)
先輩?
と声をかけられて智成はイケダを見る。
カツ丼屋に向かう途中の交差点が赤信号になったので二人は信号待ちをしている。
これ知ってます?
なに?
イケダはスマホを智成に見せる。すると『フトンノナカ』というタイトルのアニメが流れ始めた。
知らない。
これ面白いんですよ!!おすすめですよ!!
へー。
フトナカ、フトナカってみんな言ってるんですけどね
(一文字しか省いてねーじゃん。)
と智成が心の中でツッコむ。
公式が第一話アップしてるんで見てください!
ホラーなの?
そういう要素もちょっとだけあるんですけど、結構笑えてときどき泣かせにくるホームコメディです!あれ?ヒューマンドラマ? んー、とにかく!今子どもにも人気で!先輩お子さんいらっしゃるから!おすすめです!んでー、俺このキャラが好きで〜!
イケダは早送りして智成に見せる。
ここ!!こいつがいいところで出てくるんですよ〜!
いや、あの、コイツ
智成の様子がおかしくなる。
(赤山じゃん。)
智成は心の中でイラつく。
(なんで俺があいつの声わかんないといけないわけ。イケダもなんでこれ見せてくんだ。じゃまくせー。)
コゲマルっていうんですよコイツ!
あ!見かけたことあります?今グッズも出てるから
ないよ。
(てかコイツはコゲマルじゃなくて中身赤山なんだよ。どっからどう聞いてもあいつの声がすんじゃねーか。ちっ、くそ。弘美もこれ絶対知ってるな。今話題のアニメってこれのことか。)
信号変わった。行くぞ。スマホしまえ。
智成はそう言ってスタスタ歩く。
は、はい!イケダはワタワタしながら智成のあとを追いかけた。
就業後、帰りの電車の中で智成は思う。
はー。疲れた。今日も残業5時間。
36協定が智成の頭をよぎる。
どっかで残業も調整しなきゃなー。
イケダに時間取られるんだよなー。自分の仕事やる時間が……
ふわっと智成の疲れた体に温かさが広がる。
弘美が抱きしめてくれた背中の温もりを思い出す。
あの日の弘美には色がついていた気がする。
あの日だけじゃない。
最近弘美が笑うとそこら辺だけ色がつく。この色褪せて見える世界で。そこだけはあったかいような、手を伸ばしたくなるような錯覚に陥る。
弘美を持ち上げたあの日だって、弘美には色がついてて、俺はつい手を伸ばした。あいつは笑ってて、優太と健人も笑ってて、色が増えていった気がしたけど、結局元に戻った。あいつのミスのせいだ。
はぁ。電車を降り、家までの道をとぼとぼと歩く。体がだるくやる気が出ない。むしろ遅く帰った方が優太と健人と弘美が寝てて都合がよかったりもする。俺は一人、リビングでゆっくりできる。でも最近弘美起きてるんだよな〜。俺に話しかけてこないけど、寝たふりしてても俺わかってるから。てかあいつニヤけすぎてて声漏れてるから。キャーとか、クーッとか気持ちわりー。
でも前より確実に弘美のことが気になるんだ。
笑ってることが増えたし、優太と健人ともじゃれあってて、その姿は俺の理想通りだから。
このまま理想通りでいてくれるなら大事にしたいって思うよ。
この間コインランドリー行ったときも、前だったら気にならなかったのに、ちょっと心配してた。
そしたら玄関でなんかゴソゴソやってる音が聞こえてきて、大丈夫!もう怖くない!とかボソボソ言ってて、風呂まで入ってて、え?何かあった?って聞こうとしておかえりって言ったけど、弘美はただいまって言ったきり黙ったのでもういいやってなった。
あいつ最近俺の言葉聞いてない気がする。
前まで俺の言葉に傷ついた顔してたのに、傷ついた顔するどころかニヤついてるときさえあって。理解できない。
なんでお前は俺の理想を外れるんだよ。
よくある出会いだったはずだろ。よくある付き合い、よくある結婚。よくある生活……
智成は家に着いた。
玄関のドアを見て思う。
この中には俺の理想なんてない。よくある生活なんてない。いつもさわがしくて。じっとしてなくて。ギャーギャー工事現場みたいな子どもの叫び声が聞こえる。砂嵐みたいな世界が待ってる。雑音だらけの生活。
智成の手は震えていた。震えた手で、ドアを開ける。家族は寝静まっていた。部屋の電気が消えていることにホッとする。
控えめに光る電気をつけ、智成はそのまま風呂に向かった。入浴後、お湯を抜き風呂をさっと洗う。着替えとドライヤーを済まし、キッチンに向かい、置いてある夕飯を持ってテーブルに置く。座って、黙々と食べる。
理想通り静かで、しんとした部屋の中で、智成の心に弘美が浮かぶ。
色褪せて、雑音に囲まれた俺の日々。もう何も見たくない。聞きたくない。知りたくない。
……気づきたくなんてなかったよ。きっと、もう、弘美には俺の声が雑音になって届いてるってこと。
弘美の笑顔が偽物に思えて、傷ついた顔が本物に思えて、俺の理想を外れる弘美を繋ぎ止めようとした。
俺がこんなに傷ついてるのに、一人だけ幸せそうに笑い出して、離れていってしまいそうで。
こんなに俺を絶望に突き落として、このまま俺をおいて俺以外のところに行くなんて許せなくて。俺の手の中でこのまま傷つけてたらずっと一緒にいられるかなって。
なぁ、お前はいつからそんなに離れていってた?
いつから俺の声はお前に必要なくなってた?
智成の目から涙がこぼれた。
気づいてしまった事実に嗚咽が止まらない。
智成は自分でも信じられないくらい声をあげて泣いた。
今更気づいたって遅いよな。
誰だって、傷つけられたくないんだから、そりゃあ離れていくよな。
なんでお前の笑顔が信じられなくなってしまったんだろう。
なんで、世界から色がなくなってしまったんだろう。
涙は止まらない。
なんで、なんで、俺は一人でここにいるんだろう。
四人家族の家の中で自分だけ別の人生を歩いてる。
弘美…優太…健人…
自分が手放した人たちの名前を呼ぶ。
自分の理想から外れている彼らと、どう接していいかなんてわからない。
他の家は…他の家は、きっと肩を抱き寄せあって、愛し合って、過ごしてるんだろう。
俺にはできなかった。
自ら手放した。
大事なものはいつもここにあったのに。
もう、戻らない。
傷つけすぎた。
自分の理想ばかり押し付けた。
もう、離れていってしまった。
智成の口が動く。
弘美…弘美…
なに?
と部屋の電気がパチンとつく。
智成は驚いた。パジャマ姿の弘美が起きてきていた。腕で顔を隠しながら服で涙を拭く。泣いていたことがバレたと焦り、弘美から目を逸らしながら、つい文句で隠す。
明るい電気つけんなよな。電気代もったいないし、優太と健人が起きるだろ。
泣いてるの?
俺の話を聞けよ!
なんでお前最近俺の話聞かないんだよ!
え!? それは、あの、その、
弘美は目をこれでもかと泳がし、顎に手を当てどう言おうか考えながらも、顔がだんだんニヤけてくる。
その顔!赤山だろ!!赤山のこと考えてんだな!!!
えぇ!?なんでわかるの!?
お前のことはなんでもわかるんだよ!!
なめるな!!
赤山ってやつよりずっと俺の方がお前のことわかってんだよ!
お前が赤山のこと好きなことも!
俺のことが嫌いなことも!!!
へ?
と弘美は首を傾げる。
俺のこと嫌いなんだろ!!
いーよ!当たり前だよ!
こんなに自分を傷つけてくるやつなんか嫌って当然だよ!
俺がお前の友達だったら今すぐ離れろって言ってるわ!!
はぁ、
弘美はピンときてない顔をしている。
その様子がさらに俺を怒らせる。
なんでわかんないかな!こんなに言ってるのに!
俺は、お前のこと傷つけてたの!
色がないんだよ!
お前や、優太や健人が発達障害って診断受けて!
優太が乳製品アレルギーだったとか!
救急車に3回も運ばれるとか!
全然理想通りにいかないんだよ!
最初の子だって俺は無事に生まれてきてほしかった!
大事に大事に育てたかった!
優太のことも健人のことも大事に育てたいんだ!
お前にだって、傷つける言葉じゃなくて、お前が元気になるような、お前が笑うしかないような、そんな言葉を言いたいんだ!!!
でもさ、無理なんだよ。
俺の世界に色はついてなくて。
雑音にまみれてて。
お前の笑顔は偽物に見えて。
傷ついてる顔だけが本物に思える。
苦しいよ。
俺はよくある話が好きなんだ。
俺の理想からお前たちが外れてって、俺は一人ここに残って、気がついたら、もう戻れないくらい距離ができてた!
本当は俺の手の中にみんないてほしかったのに、いつのまにか俺だけおいていかれてた。
俺が望んでるのは大きなことか?
違うだろ!
他の家なら全然問題なく手に入る幸せだ。
なんでこんなにこの世は色褪せてるんだよ!
なんでお前は俺から離れていっちゃったんだよ!
一緒にいようよ!
どこにも行くなよ!!
弘美は目を見開きながら驚いた顔をしていた。
そりゃそーだ。こんなに心から叫んだのは初めてだ。泣きながら訴えたのは初めてだ。こんな、みっともなくて、かっこ悪い姿。
最後の最後くらい、かっこよく自分から離れればよかったのかもしれない。いや、俺は離れたくなかったんだ。
これで、弘美が離れていけばいい。赤山のせいじゃなくて、俺がかっこ悪かったから。俺が理由で離れていけば、少しは痛みもましになるだろうか。
うん。一緒にいよう。
智成は自分の耳に届いた言葉が信じられなかった。
え?
と聞き返す。
ずっと一緒にいよう。
弘美は確かにそう言って俺を抱きしめた。
俺の目からはまだ出るかってくらい涙がこぼれる。弘美も泣いてる。顔は見えないが鼻を啜る音が聞こえる。
お前相当バカだろ。
優しすぎるよ。
お前そんなだから俺みたいなやつに傷つけられて痛い目見るんだよ。
俺と一緒にいちゃだめだ。
お前が大事なんだ。
うん。一緒にいる。
こんなチャンス逃すなんて、バカの極みだ。
お前くらいバカなやつ俺は知らない。
うん。
なんで、なんでだよ。
なんで許してくれるんだよ。
俺いっぱい酷いことしただろ!
嫌われることしただろ!
協力だってろくにしなかった!
お前のこと見下してた!
俺を悲しみのどん底に落としたお前を許せなかった!
お前に騙されたって、優太が生まれて…生まれて…
智成は泣き崩れた。
…優太がね、なんでって言ってた。
智成は泣きながら弘美の言葉に耳を傾ける。
なんではがぬけるの?って。
なんでおとなになるの?って。
歯が抜けるの痛いから、大人になりたくないって思ったみたいでね。
私もこのままでいたいねってこたえた。
そのとき思ったんだ。
なんで大人になる時は、少し痛みが伴うのかなって。
痛みなんかなく、ただ月日が流れるように過ごしていければいいのにって。
痛みを感じて何が変わるんだろうって。
でもね、今見つけた。
私ね、智成の痛み全部はわからないと思う。
でもね、少しだけ一緒だって思ったよ。
世界から色が消えて、雑音にまみれてて、笑顔は、これまで築いてきたものは、偽物に見えて。
私が感じた痛みは、今、智成がどんなに痛いか見逃さないためにあったんだって思うよ。
私が痛みに打ちのめされてきたことは無駄なことなんかじゃないって思えるよ。
こうして、苦しんでる智成の気持ち、全部じゃない。全部わかることはできないんだよ。
でもさ、少しは、わかるって思うよ。
同じような痛みを知ってるから、見つけられる。あのとき苦しんでよかったって思うよ。
智成が好きだよ。
苦しかったね。
智成は専門家に相談いったりしてなくて、同じ境遇の人とかとも繋がりがなくて、気持ち吐き出せるところもなかったね。
智成が口を挟む。
俺、これからも行かないよ。
うん。いいよ。行きたくなければ行かなくていいよ。無理することじゃないよ。出会いってあるから、今行きたくなくても未来はわからないじゃない?
そういう場所があるって知ってるだけで選択肢は増えるし、知った上で選択するのは智成だよ。
うん。
あのね、私ね、座談会で会ったお母さんがお子さんに歌ってて、それで、自分の夢思い出したんだ。
お嫁さんになって子どもができて、その子どもと一緒におうたを歌って遊びたいって。
その日はもう力も残ってなくて口しか動かなかったんだけど、優太と健人に歌ったら二人が体を音楽に合わせて揺らしてくれたの。
そのとき世界に色が戻ったんだ。嬉しかったなぁ。夢が叶って。
一度は全部崩れ落ちて、諦めたけど、今は思うんだ。カタチを変えて、工夫していけば、やれないって決めつけたことも、できるかもしれないんだって。
もちろん今も打ちのめされたり、疲れ果てたり、人と比べたりして苦しくて、傷つく日もあるんだけどね。
できるだけ、笑って生きていきたいなって。
そう言うと弘美は智成の手を握った。
(なんでだよ。なんでお前は笑えるんだよ。
その笑顔に色がつかないわけがないだろ。
こんなにあったかい手を知らない。
俺の痛みを見つけてくれて、包んでくれて、一緒に泣いてくれて。
笑って、くれて。)
好きだよ。
智成は弘美を抱きしめる。
今までごめん!
傷つけたこともごめん!
これからはちゃんとする!
これからはもう傷つけないようにちゃんとやる!!
あははっ
弘美は笑う。
なんだよ?
せっかくの宣言を笑われて智成が恥ずかしそうに弘美を見る。
いや、嬉しいよ!嬉しいんだけど、無理しないでゆっくりいこ〜って思う。
弘美は涙を指で拭いながら笑う。
智成忘れてるかもしれないけど、付き合ってたときから口悪かったよ?
へ?
結構ズバズバ言う方だよね?
そんなことねーよ!大事なものは大事にできるんだよ!
あー!そうそう!物持ちよくて、壊れて動かなくなった時計とか、着古したトレーナーとか自分で捨てられないのか私にプレゼントしてくれたよね。
え?そーだった?
そうだよ。この人変わってるなって思ったもん。
でも、そんなところも面白くて、楽しかった。流石にもう捨てちゃったけど。
ひどくないか?
智成だって私が書いた手紙とか残してないでしょ?
よく、手紙とかテーブルの上に置きっぱなしで放置されてたから私掃除のときに捨ててたもん。
そーなの!?
うん。
返せよ!
捨ててあると思うじゃん。
テーブルの上なら置いてただけだろ!
あははははっ まぁいいじゃん。手紙はさ、残してくれてればそりゃ嬉しいけど、読んでもらって、気持ちが届いた瞬間が大事だから!気持ちが届いてたらそれでいいよ。
ふんっ! にげたな〜?
あははははっ!!
夜中に鬼ごっこなんかどうかしてる。こんなことしてたから優太と健人も起きてきてしまった。
ん〜?パパ?ママ?おにごっこしてるの?
健人が智成に聞く。
優太が
パパおかえり!
と抱きついてきた。
あー!ずるーい!
と健人も智成に抱きつく。
ママもー!!
と言って弘美まで智成に抱きついた。
ちょっと待てよ、苦しいって。おーもーい!
と言ったところで智成は気づいた。
(憧れてた、他の家では当たり前にある光景だと思っていた。自分の家族では無理だと思っていた。肩を抱き寄せ合ってる状況。)
家族がみんな笑っていて、夜なのに、あったかく色がつき輝く。
(これが愛じゃなくてなんだよ。)
優太、生まれてきてくれてありがとう。
健人、生まれてきてくれてありがとう。
弘美、一緒にいてくれてありがとう。
「これからも生きていこう、一緒に」
俺は俺の家族が大事だ。
大切にする。
智成、一緒にいてくれてありがとう!
弘美が言う。
智成はたまらず泣き出す。
健人が智成に言う。
パパ、よしよし、なかないで。
パパはぼくがまもるよ。
優太が言う。
パパだいすき!
もうその日は智成が泣いて泣いて大変だった。みんなで笑って夜更かしもした。こんな家族どこを探してもいない。ここにしかいない。
ありがとう。
愛してるよ。
智成は愛に満たされ眠った。
夢の中まで幸せだった。
◇
おはよう。
智成が弘美に声をかける。
おはよー!
弘美は笑顔であいさつを返す。
あのさ、行っていいよ。朗読劇?赤山が出るってやつ。
パッと弘美の笑顔がはじける。
そんな顔させるなんてよっぽど会えるのが楽しみなんだな、なんか悔しいな。と智成は思う。
ありがとう!!!嬉しい!!!
弘美は満面の笑みで智成に抱きつく。
はいはい。
と言いながら智成は思う。
こいつが笑ってんのは赤山に会えるからだけど、会えるのは俺の協力あってのことだから、こいつが笑ってんのは俺のおかげだ!
赤山に舌を出しながら、智成は弘美の頭を撫でた。
あ!そーだ!入学式の写真できたよ!
弘美が智成に数枚の写真を見せる。
これちょーだい。
智成は、動いてブレ、カメラから目線を外した優太の写真を選んで、パスケースの家族写真の上に重ねるように入れた。嬉しい写真が増えていく。
すっげーかわいい!
パスケースに入った写真を見て、智成は顔を綻ばせて笑った。
セリフ28:「これからも生きていこう、一緒に」
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