セリフ27:「うっせー!」
引き続きお読みいただき、誠にありがとうございます。
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昨夜、大好きな『小説家になろうラジオ』にてメールを読んでいただき『吹替家族』のタイトルを紹介していただきました!本当にありがとうございました!書き出しカルタの企画から続けていたら、作品を読んでいただける方との御縁と、こんなに素敵なご褒美をいただくことができました!幸せをありがとうございます!
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あらすじ
主人公・早瀬弘美はある日夫の声が大好きな声優赤山秋の声で再生できることに気づく。さらに最近では、好きなときに、好きな声が、好きなシチュエーションで聴こえ、BGMまで流せたりと、弘美は試行錯誤の中で色んなことができるようになってきた。
その能力を使って、疲れた日常をときに荒ぶりときに癒されながら乗り越えていく物語ーー
会話が聞こえてきますね!
それでは、どうぞ!
…あのさ。
ん?
もしかして、ヤキモチ?
◇
弘美はどうしよう!と思っている。
赤山の出演する朗読劇のチケットが取れたのだ。
この朗読劇は4月24日に横浜芸術文化ベイサイドホールで行われる。
弘美の家からそのホールまで電車を乗り継ぎ約2時間かかる。公演が2時間として、最低6時間は家を空けなければいけない計算だ。
弘美は赤山がラジオで自分のお便りを読んでくれたあの日、こんなにも自分を救ってくれる赤山の演技を全身に浴びたいと思った。赤山は日々仕事へ情熱を注いでいる。朗読劇は赤山が真髄としている声の演技を直接感じられる舞台だ。観に行きたいと叫ぶ心のままにチケット購入ボタンへ手を伸ばした。
弘美はこれまで観劇やコンサート、映画などに出かけるとしてもせいぜい電車で30分くらいのところにしか行ったことがなかった。
ましてや今は息子たちがいる。
6時間も家を開けるなら智成の協力が絶対的に必要だった。
もちろん今まで6時間も家を空けたことはない。
智成が家にいるときに弘美が家を空けるのは、珍しいことだった。
本当に家にいるのが辛くなって、智成に息子たちを預け5分の間だけ家の周りを散歩するとき。
食料の調達のために、スーパーへ行くとき。このときは優太か健人どちらか一人を智成が家でみて、もう一人は弘美がスーパーに連れて1時間家を空ける。
この間のコインランドリーに行くようなとき。息子二人とも家に残して家事関連で出かけるときは彼らが寝静まってから行動している。
うーん。
弘美は智成から外出の許可が出るイメージが全く浮かばなかった。だけれど公演には絶対に行きたい。幼稚園児でも預けられる託児所やベビーシッターも候補に浮かんだが、以前利用した際、料金の件で智成が不満を漏らした。弘美の小遣いから費用を捻出したのに怒られた。それ以来利用していない。
智成に相談しよう。
最近少しだけ智成が優しくなった気がするし、もしかしたらあっさりいいよって言ってくれるようなことがあるかもしれない。弘美は楽観的に考えることにした。
弘美は智成の機嫌が良さそうなときを見計らって声をかける。
うん、今日は部屋きれいだね。
仕事から帰ってきた智成が弘美に言う。智成がチェックしそうなところを弘美は今日一生懸命に掃除した。
あのさっ
ん?なに。
お願いがあるんだけど、話聞いてくれる?
んー、なに。
4月24日日曜日、横浜の鶴見区にある横浜芸術文化ベイサイドホールに朗読劇を観に行きたいの。
横浜!?遠いじゃん。朗読劇って何?
ん〜正確かはわかんないけど、キャストの皆さんが台本を持って上演する劇のこと?
ふーん?誰が出るの?
声優の赤山さんとハナビ……
そこまで言うと智成に遮られるようにこの話は終わった。
あー。はいはい、わかった。ダメ。
え!?ごめん、チケットもう取っちゃってて、どうしても協力してもらいたいんだけど…。
ダメ。やだ。
そんなっ…
し つ こ い。
……また、聞いて。
弘美はとぼとぼと智成から離れる。途中まで話を聞いてくれていたのにどうして急に智成の機嫌が悪くなってしまったのかわからなかった。
朗読劇の説明があやふやで、真剣さが足りないと思われたのだろうか……弘美は頭の中でぐるぐる考えを巡らし反省した。
次の日も、その次の日も、弘美はお願いをしようとしたが、朗読劇の『ろ』の字が出るだけで、バッサリと却下されてしまう。
弘美は困っていた。
そんなある日、リビングで弘美が息子たちとテレビを観ているところに智成が帰宅した。
おかえりなさーい!
と言って弘美は出迎える。優太と健人もおかえりなさーい!と言ったあと、パパ見て!と智成の腕を引っ張る。
手洗いうがいしてからな。
と息子たちにきつめに言い、智成は洗面化粧台に向かった。
なんだった?
とリビングに来た智成が息子たちに声をかける。
これ!面白いんだよ!見て!
と言って健人がテレビを指差す。
クイズ番組が放送されていた。
子どもたちは動物に関する問題に目を輝かせている。弘美はクイズに解説が入ると妙にニヤついた笑顔になった。その顔を智成は見逃さない。
おい。
へ?
変な顔してるぞ。
へっ!?
と言って心当たりがあります!と完全に顔に出しながら弘美は頬に両手をあてた。できるだけニヤけないための無駄な抵抗だ。
途中で映像が挟み込まれる。最近話題の声優赤山秋が解説を担当していた。
智成は顔を歪める。
チャンネルを変えようとリモコンを持つが優太と健人に止められる。
は〜〜。お前赤山のどこがそんな良いわけ?
え?前に言った…
智成が弘美に質問しつつもお前の意見は聞いてねーとばかりに言葉を被せてくる。
こいつ?赤山だっけ?全然良いと思わないんだけど。
声は流石にあれだけど、顔だってさ〜……
智成はまだぶつぶつ言っているが赤山の悪口など聞きたくなかった弘美の耳には、もう智成の声は聞こえない。
弘美の耳には赤山の声が聴こえてくる。
「うっせー!」
お前あいつのどこが良いんだよ!
俺には全然わかんねぇ!
あいつより、俺の方が…!ずっと、ずっと……
ん?
弘美は思う。これどこかで聞いたな。どこだっけ?
きっと、赤山さんの言い方からしてこれはヤキモチをやいてるシーン。何かのCDで聞いたんだっけ?
…ヤキモチ?あっ。
弘美は自分の顔が赤くなるのがわかった。
ヤキモチのシーンが弘美の頭の中に一つだけ思い浮かんだのだ。いや、まさか、それはないでしょうとも思う。的外れだって怒られる。でも、確認せずにはいられなかった。目の前でまだ口を尖らせて文句を言っている智成に。
…あのさ。
ん?
もしかして、ヤキモチ?
はぁ!?!?んなわけねーし!
え、定番フレーズ!?と心の中でツッコミを入れながらも、智成の反応が信じられない。顔が赤くなってきて、特に耳は真っ赤で、あれだよあれ、ほら、とかあたふたしながら喋っている。図星ですと言っているようなものだ。
あれー?弘美は今までの智成の行動を心の中で思い返す。前に私が赤山さんの話をしたとき、マシンガントークしたから怒ったと思ってたけど、違ったのかな。照れ赤山さんのビデオ消したのも、もしかしてわざと?声優特集の2時間スペシャルをゲームに変えたのも、イヤホン外せって怒ってたのも……
えへへへへっ
はぁ!?なんだよ。
いや、ちょっとびっくりして、えへへ。
ニヤけるな!その顔気持ち悪いんだよ!
えへ〜〜。
やめろ!!
ヤキモチやいてないんだ?
当たり前だろ!なんで俺がヤキモチなんて…
じゃあ、赤山さんの朗読劇観に行ってもいい?
ああ!?
やいてないなら別に行っても問題なかったりするかなーって。ヤキモチやいてて行っちゃやだって言うなら…
「うっせー!」
俺がヤキモチ!?
やくわけねーだろ!お前バカか!
えへへ〜じゃあ行ってくる〜!
はっ!好きに行けよ!!
と、智成は言葉を吐き捨てる。
うん!ありがとう!!
智成は弘美が何時間家を空けるか知らないが、詳しいことはまた今度話すとして、今は朗読劇に行ける喜びと、久しぶりの智成と会話する楽しさと、ヤキモチをやいてくれたかもしれないという懐かしさで、弘美はスキップしてしまうほど心を弾ませていた。
セリフ27:「うっせー!」
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