セリフ18:「…ケンカはやめて…」
引き続きお読みいただき、誠にありがとうございます。
主人公・早瀬弘美はある日夫の声が大好きな声優赤山秋の声で再生できることに気づく。さらに最近では、好きなときに、好きな声が、好きなシチュエーションで聴こえ、BGMまで流せたりと、色んなことができるようになっていることに気づいた。
その能力を使って、疲れた日常をときに荒ぶりときに癒されながら乗り越えていく物語ーー
それでは、つづきをどうぞ!
弘美は健人をおんぶし、リビングをぐるぐると走り回る。一周ごとに、レースカーテンに透ける空が視界に入る。
どこまでも広がる青空を見たあの日から、私はよく笑うようになった。
笑って笑って笑っていると、息子たちが笑顔になり私の笑いが本当になる。
笑いのツボ、浅くなったかな。
弘美がふと考えていると、背中に乗る健人が、もっといそいでー!と急かす。速度はほとんど変えられないが、背中を上下に揺らし、つかまっててよ〜!と合体ロボを操縦する主人公のような声を真似する。ビューーーン!と高い声を出すと、健人が背中でキャハキャハ喜んだ。
優太と健人を交互におんぶして、弘美はクタクタになった。
へーー。ちょっときゅーけー!
弘美は床に座り、天井を見上げ後ろに手をつく。
そのまま後ろにバタンとたおれ、息を整える。
ふふっ
二人ともかわいいなぁ〜
弘美は天井を見上げながら思う。
すると、弘美の足元で言い争いが始まる。
つぎぼくのばんだったー!ゆうくんさっきいっぱいやってもらってたー!けんくんあっちいってー。ゆうくんがあっちいってー!
息子たちの口からは赤山さんとモリーくんの声が聴こえる。音声はかわいいのだが、問題は手を出すことだった。
弘美が自分の体を起こしたときには、すでに優太が健人の肩を押していた。健人も負けじと足で優太の腹を押しのける。
ケンカやめて。
弘美はそう言い二人の間に入る。
押し合いは終わらない。二人とも必死に手足を伸ばす。手と足が届かないことがわかると、優太は弘美のガードをすり抜け、健人の足をガッと蹴りにいった。
あちゃー。もっと遠くに離すべきだった。
と弘美は思う。
こうなると健人もヒートアップして、優太をひっかく。優太の頬にピンクの線がついた。
あーー。
優太…と声をかけようと思ったが、優太は頬の痛みにパニックになり地団駄を踏んで暴れた。
けんくんが!けんくんが!!!
ゆうくんがやったんじゃん!!!
もーー。
ケンカおしまい!
弘美は強めに言う。
息子たちはどうにかして相手を攻撃しようと、止める弘美を踏みながら手を伸ばす。
痛いなー!
ケンカやめてって!
もーーー!!!
弘美は大きな声を出す。
頭の中が熱くなり思う。
さっきまであんなにかわいかったのに!
急変するんだよなー!
弘美はまた声を吐く。
もー!
もー!
もーー!!
…もーもー言ってる自分の声が嫌いだ。
言い争う息子たちの声が赤山とモリーだからだろうか。弘美はこんな状況なのにふと、自分の声が気になった。そしてふいに、自分が嫌だと気づいたところから変えてみるのはどうだろう、と思いついた。
…もー!もー!って牛みたい。
牛って言ったらこの間赤山さんが十二支の丑のキャラクターを担当してるCD聴いたな。
んーと、赤山さんの丑は眠そうで、ゆっくり話すんだよな。しかも、囁きが多くて…
囁き?
あー、囁きか。
大声ばかり出して、伝わらないって思ってたけど、ヒートアップしてる頭に大きな声が聞こえてきても余計ヒートアップしちゃうかも…。
囁き…。
弘美は少し試してみることにした。
優太と健人の距離をもう少し離し、健人の横でしゃがむ。内緒話のように手で囲いを作り、ぎりぎり聞こえるくらいの小さな声を出す。
「…ケンカはやめて…」
驚いたような健人がバッと弘美を見た。
あれだけ大きな声で叫んでも聞こえてなさそうだったのに、この声が聞こえるの!?と弘美は驚く。
でも、考えてみればそうだよね。
怒りながらキーキー叫んでる声より、小さいけど、ゆっくりで、自分の方へ向けられてる声の方が聞き取りやすいよね。
優太が ? と言う顔をしているので、弘美は駆け寄る。優太の横にしゃがみ、こそこそ話した。
優太はえーと言う。
優太も聞き取れたんだと弘美は嬉しくなる。
そして
…ねぇ、おやつたべよ…
と小声のまま二人に話す。
一度落ち着き頭に入れば、話が通じることが多い。
話の内容がおやつだったこともあり、二人はあっという間に仲直りし、何事もなかったかのようにテーブルで待機している。
赤山さん!囁きってすごいんですね!!
いや、いつもお世話になってますけど…!
私だけじゃなく息子たちも囁きに弱いとは!
ん?私の子だから弱かったりするのか??
うーん、まぁどっちでもいいか!
と弘美は笑い飛ばす。
とりあえず、大きな声で叫ぶしかない自分よりも、ゆっくり小さな声で伝えられる自分の方が好きだ。喉も痛くないし。息子たちを嫌な気持ちにさせることも少なくなるだろう。
今日もまた新しい発見をした気分だった。
弘美は、嫌いだった大きな声で叫ぶしかない自分を抱きしめお疲れさまをいい、ゆっくり小さな声で伝える自分には、これからよろしくと歓迎のハグをした。
セリフ18:「…ケンカはやめて…」
前回長くて読むの大変でしたよね、読んでくださった方ありがとうございます。お疲れさまでした!
今回も読んでくださってありがとうございます!
声優さんの囁きって魅力的ですよね…!!
あの破壊力っ…!!!ありがとうございますとしか言いようが…
…すみません取り乱しました!
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