セリフ13:「あ〜あったかいな〜」
引き続きお読みいただき、誠にありがとうございます。
主人公・早瀬弘美はある日夫の声が大好きな声優赤山秋の声で再生できることに気づく。さらに最近では、好きなときに、好きな声が、好きなシチュエーションで聴こえ、BGMまで流せたりと、色んなことができるようになっていることに気づいた。
その能力を使って、疲れた日常をときに荒ぶりときに癒されながら乗り越えていく物語ーー
今回誰のお話…?
では、つづきをどうぞ!
赤山秋は事務所でファンレターを受け取っていた。
はい!今回の分!
ありがとうございますっ!!
マネージャーさんやスタッフの方が開封作業をしてくれたその手紙の数々は束になって手元に届いた。
お疲れ様でした〜!お先に失礼しますっ!
赤山は今日一日の仕事を終え家に帰る。
電車の中で手紙を読みたい気持ちを我慢する。
束をといて、もし一通でも手紙を落としたら大変だ。
家に帰ってゆっくり読むぞ。
赤山はワクワクしていた。
ただいま〜
家には誰もいないが、一応声をかける。
表舞台に立つことも多くなってきた最近は、さぞ華やかな暮らしをしているに違いないと思われていたりもするがそんなことはない。玄関の明かりは自動でつくが、リビングの電気は自分でつける。
誰もいない、ひんやりとした部屋に一人帰る。
鞄を置き、手洗いうがいを済ませた後、床暖房のスイッチを入れ、冷蔵庫を開けて炭酸水を取り出す。本来ならここでビールというところだろうが、残念ながら酒が飲めない。こういうときふと、アルコールに強かったらなーと後輩のモリーを思い出す。
炭酸水のペットボトルをプシュッと開けておつまみのチーズと共にテーブルへ置いた。おっと、と言いながら鞄を手元に引き寄せソファーに座る。晩飯もいいが、先にファンレターを読みたかった。
自分の仕事は裏方だと思っている。アニメを作る工程の中の一つ。その一つの作品に携わる人たちが一生懸命繋げてきたバトンを少しでも勢いをつけて次に繋げる役。その自分を見つけてくれた人がいる。頑張りを観ていてくれる人がいる。応援し続けてくれている人がいる。
イベントで会ったことがある方ももちろんいらっしゃるけど、顔もわからない方が自分のために時間をかけて書いてくださったお手紙。嬉しくないわけがないっっ!!
あ〜あそこかー!
うんうん、はははっ
あ!アイコさん!いつもありがとうございます!
あー、やっぱ?そうだよね〜いや〜うまく誤魔化せたと思ったけど、さすがだな〜。これは今度気をつけよう、うん!
誤字脱字ごめんなさい?全然平気だよー。
あっ!お子さん無事に生まれたんだー!大変だったろうな〜!おつかれさまー!ってことは俺の姪っ子と同い年だー!ちっちゃくてかわいいだろうな〜
頑張りすぎないでね?あー、顔に出たりしてんのかな、ちょっと前日立て込んでたもんなーしまったなー。んー。違う違う。きっとこの方は俺の顔が暗かったとか指摘してるんじゃなくて、優しさで言ってくれてるんだって!うん!仕事いっぱいだけど、おかげさまだよー。頑張ってるけど体調管理気をつけてるから大丈夫だよー!
あ!初めてファンレター出してくれたんだっ!わーありがとう〜!こないだの配信ライブ細かいとこまで観てくれたんだな〜!あ!セトリよかった?嬉しい!しかも過去の作品も色々観てくれてる!へへっ声が好きですって!も〜ニヤけちゃうじゃん!ありがとう〜!
あー!今度ある朗読劇ね、今日台本もらったんだよ、結構ギリギリで稽古するんだよね〜 俺あのシリーズ初めて参加するし、他の出演者の方豪華だからめっちゃ楽しみだけど、めーっちゃ緊張してる!!あ!チケット当たった!?現地で観てくれるんだー!嬉しいな〜頑張ろっ!
職業病もあるかもしれないが、つい口に出てしまう。心の中でしゃべっているのか口に出してしまっているのか、まぁ、どっちでもいいか、一人なんだから、と赤山は思う。
っはー!楽しかった!今日はこの辺にしようかな!みんながたくさんくれたから、まだこんなにあるよ!また明日帰って読むの楽しみだな〜!
赤山はキッチンで小鍋を取り出し夜食を作る。今日は湯豆腐をポン酢でさっと食べたい気分だ。
昆布だしが取れるまで今日もらった新作朗読劇の台本に目を通す。自分のセリフに丸をつけチェックを入れる。
新しく何かをするときは緊張する。またまた〜とか言われたりもするが、少しずつ経験を積んで少しは動じなくなってきただけだ。経験のないものに挑戦する前は楽しくもあるし怖くもあったりする。これが自分の性だからしょうがないんだろう。
こういうときに、ファンの方からの言葉で勇気をもらう。みんなが楽しんでくれるような、スタッフ共演者客席が全部一体となって心を通わせられるような芝居ができたら、みんなも嬉しいだろうし俺も嬉しい!!
出来立ての湯豆腐は熱いので、食べる前に少しだけ待つ。豆腐を一口大に崩し、ふーふーと息をかけてぱくっと食べる。
うまい。
ひんやりとした部屋がいつの間にかぽかぽかとしてくる。体は床暖房と湯豆腐にあたためられる。
湯豆腐を食べながら赤山は一生懸命ファンレターを書いてくれたファンに思いを馳せる。
みんな優しいんだよな〜。
気持ちがこもったファンレターにいつも支えてもらってるよ。本当にありがとう。俺頑張るっ!
「あ〜あったかいな〜」
年々涙腺が弱くなってきて困る。
テッシュをサッと手に取りながら赤山は思った。
セリフ13:「あ〜あったかいな〜」
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