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吹替家族  作者: ハルユキ
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初めて連載ものを書いてみようと思います。

なろラジの書き出しカルタ2021に応募したタイトルと書き出しです。


読んでいただけたらとっても嬉しいです!よろしくお願いします。


主人公・早瀬弘美がある能力を手に入れて、疲れた日常をときに荒ぶりときに癒されながら乗り越えていく物語ーーぜひ見守ってください。それでは、どうぞ!



 夫から好きな人の声がする



 主婦の早瀬弘美(はやせひろみ)は闘っていた。襲いくる毎日とだ。どこかで聞いた話だが人は1日2時間ひとりの時間があると心に余裕ができるらしい。だが弘美には無縁の話だった。夫の智成(ともなり)は仕事が忙しく深夜に帰ってくる。子どもたち2人はまだ幼く、定期的に病院に通っている。弘美自身も通院中で、専業主婦をしている。弘美は追い詰められていた。


 そんな弘美を救ったのは誰かの声であった。


 それは突然耳に飛び込んできた救世主。車の運転中ふいに流れたラジオから、ほっとする声が聞こえた。ケタケタ笑ったり、こっそり話したり、かと思えば真面目なトーンで相談に乗ったりする、温度を感じる声。

 弘美は車を停めた。いつぶりだろうか、こんなに温かい声を聴いたのは。夫の口から出る言葉はひどく冷たく響き、子どもたちの声はギャーギャーと工事中のようにけたたましかった。

 弘美はもういっそ裸になってしまいたかった。早くこの声に浸かりたかった。自分を受け入れてくれる温泉に身を投げ入れたかった。溢れ出す涙を湯で誤魔化してほしかった。こんなにも疲れていたことをこの時やっと自分で気づけたのだ。


 ラジオから聞こえた声の主は声優の赤山秋(あかやましゅう)であった。そこからの弘美は一晩でゲームをクリアしてしまうかのような熱中ぶりで、赤山の声を聴いた。毎日のように荷物が届く。赤山の過去作品だ。あんなになかった時間のどこにこんな時間があったのか。とにかく弘美は自分の時間をかき集めて赤山の声を浴びるように聴いた。楽しい時間はあっという間だ。そうして今日もいつもと変わらない朝がくる。


 起きてきた夫が目を合わさないまま、まるでゴミ箱に入り損なった空き缶のように「…はよ」とこぼす。

「おはよう」と床に落ちた言葉を拾い上げ、弘美はあいさつを返す。その足で子どもを起こしに向かう。いつも通り一日が始まりそして終わる。毎日毎日飽きることなく疲れ果てる。


しかし、今までと違うのは弘美は赤山の声を知っているということだ。弘美は時間を見つけては、赤山の声に癒されることも、励まされることも、元気づけられることもできた。赤山の声が弘美を体の芯から温めていく。弘美は赤山の声が自分の心を、体を、頭を満たしていくのを感じていた。赤山の朗読を聴きながら眠りに落ちる。


その夜弘美は夢を見た。コップに注がれるお湯が溢れる夢。きっと容量があったんだ。赤山の声が弘美の持つ容量を超えた。でも、全然嫌な感じじゃなかった。溢れたお湯に弘美はゆったりと浸かった。溢れ出す涙を湯で洗い流した。


 弘美の生活が一変したのはそんな心地の良い夢で目覚めた朝だった。弘美はなんの夢を見たか覚えていなかったが幸福感だけはほのかに覚えていた。鏡に映る自分の口角は自然に上がっていた。そこにいつも通り夫が起きてくる「…はよ」



 夫から好きな人の声がする



 弘美の心臓は飛び上がった。


 赤山の声である。倦怠を感じるあいさつ。いつもなら冷たいと感じるその二文字。だが、弘美は目を丸くさせ、声と顔が合っていないことの違和感を頭で処理しながら、叫び出したい衝動に駆られていた。心臓がドクドクしているのがわかる。


「…はよ」?

「…はよ」ですって?

え、え、え、今私に向かって赤山さんがあいさつしてくださいました!?

きゃーーーーー!うそでしょ!最高!

なにこれ!なにこれーーー!これー!これー!


 弘美は心の中で狂喜乱舞した。エコーのエフェクトまで自分でかけた。弘美は自分の中で暴走する自分を止められなかった。というかもう、止める必要はないんじゃないかと思った。色褪せ凍えるような世界が一変、妄想で熱く燃えたぎった。ここからはノンストップだ。


 あのーあれですよね、ちょっとクールな先輩がしつこくつきまとう主人公ヒロインにいつも挨拶されるんだけど応じなくて、ある帰り道ひょんなことから先輩の秘密がヒロインにバレちゃって、次の日の朝、いつも通りにっこり笑って話しかけるヒロインに対してバツが悪そうに応えるときの「…はよ」ですよね!!?第一話最終ページの先輩からの初めての「…はよ」ですよね!!!


 弘美はこの日、生まれ変わった心地だった。

弘美は最強の能力を手に入れた気分だった。

夫の言葉を好きなシチュエーションで、好きなように赤山さんの声で再生できる能力。たった二文字で弘美はこの日一日中天にも昇る心地で過ごした。

よし!この能力で自分はこの日常を乗り越えていくんだ!!弘美は色を失いかけていた生活の中に一筋の光を見つけた。


弘美の頭の中のリストにこう書き加えられた。


セリフ1:「…はよ」




お読みいただきありがとうございます!

弘美のことを応援したいと思ってくださった方や続きが気になると思ってくださった方はブックマークや

広告下の評価ボタンを押してくださるとありがたいです!


【⭐︎】を押すと【★】と色が変わります!

【★★★★★】が最高評価です。

読んでくださったあなた様からの評価を知りたいです。

ぜひ教えてください。


 さらに感想を書いてくださると作者がとっても喜びます!力を分けてあげてもいいよという方ぜひ一言お願いします!


次回 セリフ2:「俺を怒らせるのはお前だけだ」弘美は夫の智成からどんな場面でその言葉を投げられるのか。そして、赤山の声でどう再生するのか…お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が!設定が!!! (語彙力を失くしました…すみません笑) ゲラゲラコンテストの作品も拝読したのですが、本当に、ハルユキさんの作品はアイデアというか、着想点が素晴らしいですね。 今作も…
[一言] 昨日の夜中に読ませて頂いて一度感想を書かせて頂いたんですが、夜中のおかしなテンションだったので一晩寝かせました(^_^;)笑 やはり、寝かせて正解でしたね…。 読んでいて弘美さんに自分を重…
[一言] 拝読させていただきました! 緩急はっきりとした文章に、あっという間に引き込まれ読み終えました! 弘美さんの激闘ともいえる毎日が、赤山さんの声によって急速に蘇っていく様子に、こちらまでドキドキ…
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