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6

ゆらゆらとカーテンが揺れているのを見ながら鼻歌を歌う。


一人だと暇だし、かといって保険医とは絡みたくないし。

てか今俺しか居ないし。


保険医はお留守番しておいて~なんていいながら出て行ったっきりだ。

カーテンに囲まれてベッドを起こして座る俺は柔らかいメロディーを口ずさんだ。


すると段々のってきた俺は鼻歌でなくなって普通に軽く歌っていた。


「♪~♪~♪~」


マイナーであまり知られていないがとてもいい歌だ。実はこの歌をしったきっかけがきっかけだったために最近よく頭の中を流れるのだ。


上機嫌に歌う小豆。

しかしそんな穏やかな時間は長時間続くわけがなかった。



ガラッ。


「失礼しまあす!!!」


「っ」


突然聞こえた馬鹿でかい声に小豆は唇を結ぶと、ばくばくと鳴る心臓を必死に落ち着かせようとした。


(だ、誰だぁ!?う、うるせー…びびったあ…。)


「今坂せんせー?あれ、いねぇのかな…でもさっき歌声聞こえたんだけどなあ」


一瞬にしてその声の主が誰か理解した小豆は歯をがちり、と噛み合わせて布団をかぶる。


(うわうわうわうわうわバ神田!!!)


頼むからカーテン開けんな、開けんなよ。

そう願うが、そこは神田秋。


あけないわけがない。


誰が寝て、どんな状態なのかも確認せず声もかけず、シャッと無情にもカーテンは開かれた。


「あっっ」


「……………」


顔までかぶっていたはずの布団を剥ぎ取られる。

小豆は心底不快そうな顔を隠す事もなく、神田と目を合わせた。


その目にはありありと「不快です」と主張されている。


ぱあっ、とはじけるように笑った神田。それから目を逸らして溜め息を零す小豆。

滅多に見れない、貴重な場面である。


「ネコタッ」


「…るせぇなぁ、もう」


小さく聞こえないように呟いた。

どうせバ神田は自分の声のでかさで聞こえないだろうから。


「何」


普段の教室での笑顔を消して小豆は面倒そうに答えた。

神田の顔がわずかに歪む。


「っ、、そ、そんな返事の仕方ないだろ!!」


「あーごめんね」


実に気の抜けた答えだ。


「教室でも全然顔あわしてくんねーし!!なんだよっ俺ネコタになんかしたかよ!?」


まるで自分は被害者だ、という口ぶりに小豆は思わず口をポカン、とあけてしまった。


いやいやいやいやお前何自分何もしてませんよ、みたいな態度なの!?

びっくりした、びっくりした!!

散々人に迷惑かけておきながらよく言えるなおいお前!


心中あらぶり方は半端じゃないがそこは俺だ、表に出さずゆっくりと神田に聞いてみる。


「心当たりないの?」


「そりゃ悪い事したと思ってるけど、、あれは謝ったし…それにさ、ネコタが俺の事避けてたのもチャラにしてやるからさ!!おあいこだろ?」


優しく、明るく笑う神田。


逆に小豆の額に青筋が出た。

やめておけばいいものを、神田はべらべらと自分論を繰り広げだす。


「俺も色々考えたんだ…ねこたがああやってきつい事いうのって、自分自身に言ってんだよな…ネコタ本当の友達が欲しかったんだろ?」


気付かなくてごめんな。

神田は優しく暖かな太陽のような顔で笑いながらそういった。


は?


まさに、「は?」である。



「でも俺はちゃんとネコタの事わかってるから、もうそんな気持ち悪い笑顔なんかやめてさ、一杯、一杯笑っていいんだからなっ」


(なぁるほど…この優しい言葉と屈託のない笑顔で生徒会とか美形がホイホイされちゃったわけね…ゴキブリホイホイならぬ美形ホイホイ。)


まったく、お門違いにも程がある。

無駄だと思った俺はへらりと笑うといつもの軽い口調ではっきりといった。


「神田君、僕だって友達くらい選ぶよ?」


「っ!友達は多いほうがいいんだぞ!」


「うん、そうかもしれないけど僕は僕の好きな人しか友達に選ばないから」


「友達を選ぶとか選ばないとか…そんな言い方するなよ!!」


自分より哲平を選ばれて悔しかったのか、神田は赤らめた顔で怒鳴った。

ズキリと頭が痛む。


きんきんと頭に響く声だ。


(……寝たいなぁ…ああでもここで欠伸すると面倒になるしなあ。)


ていうか、この状態が既に面倒だ。

顔に出ていたのか神田は益々声を荒げるし。

お前は何をしにきたんだ、といいたい所だ。


「っ~そんな最低な事言ってると誰からも嫌われるんだよ!!三山だっていつも俺の事冷たい目で見るしっいつも一人だし!!」


「……………んー?」


「っ、っ、だからっ、三山も最低な奴だ!!」


「………………」


小豆の表情が一変した。

馬鹿はどうやっても馬鹿なもので。


神田は地雷を踏んだ事にも気付かずにべらべらと口を動かした。

うっぜ。

これはまともな奴等なら神田と対峙したときにかならず感じる事だと思っている。


「なんでお前等は人の好意を素直にうけとんねえんだよ!!俺はっ俺は只仲良くしたいだけなのに!!」


先ほどから神田のぐだぐだとよくわからない話がされているが、一切理解できない。

内容的に言えば俺が最低だとか仲良くしてやってるが、まったく筋の通らないことばかりだ。


まあそれはいいとしよう。

俺の性格が悪いことなんて最近始まったばかりの事ではないし、別に俺の性格が悪いといわれた所で自覚済みだ。


だがこれはまた話が違う。


「だから三山だって友達がいないんだ!友達が居ないなんてかわいそうだろっだから俺が友達にって言ってるのになんでお前らはそれをわかんないんだよっ」



――お前みたいな友情の押し売りしてくるようなやつが…。


(哲平に文句つけてんじゃねぇよ。)



痛む頭に手を添えながら視線を外して喋りまくる神田に静止をかける。


「ちょっと、頭痛いんだけど声響くんだよ、もっとボリューム落とせ」


「そんな言い方ないだろ!!!!」


「だからうるさいってば…」


「さっきから馬鹿にしてんのかよ!?もういい、ネコタは最低だ。三山も最低だ。5円玉そうかなって思ってたけどやっぱそうだよな、、もう皆皆最低だっ!!」


5円玉だと聞こえたがまあいい。もういい。

俺は隠す事なく盛大に溜め息をついた。


ぼりぼりと頭を掻きながら俺はベッドを出る。

ぼさぼさの頭のまま気だるげに神田を見つめた。



「ごーちゃごちゃごちゃごちゃ、るせぇんだけど」


「!」


「ガキの癇癪みたいに喚いてみっともない、それでも17かよ」


「なっ」



「あのさあ、さっきから聞いてれば何?喧嘩売ってんの?」


「う、売ってんのはそっちだろ!!」



「はあ?勝手に勘違いして勝手に決め付けて挙句の果てに最低な奴、だっけ?全部自分の事いってどーすんですか」



うろたえる神田に畳み掛けるように俺は今までの鬱憤すべてを吐き出させてもらった。



「声もかけないで勝手にカーテンあけるわ頭痛くて寝てんのに声でかいわ、注意すれば逆ギレするわ、『してやる』だ?なぁんで上から目線なんだよ。

色々考えたって、脳みそ入ってない空っぽの頭で何がわかるわけ?最低?その頭から出てきた最低なんか知れてんだよ。人の親友最低呼ばわりしてまだ正義ぶんの?


で、俺はまだ体調が悪いんだけどそれでもお前はまだ何か喋りますか」


「~~っ??」


神田の目がぐるぐるとうずまきを作っている。

あれ、何?

理解されてない感じ?


それでも自分が馬鹿にされた、という所は理解したらしい神田は保健室を出ようとした俺の腕をがっちり掴んだ。


それはもう、ぎりぎりと音がするぐらいに。


「っ」


「ふっふざけんな!!ネ、ネコタが悪いんだろっ」


ひゅ、、と。

神田の顔の横を俺の拳が通った。チッと頬を拳が掠る。鈍い音と共に拳が壁にぶち当たった。


神田はぐりぐり目玉をさらにぐりっとさせて、固まる。



「うるせぇぞ」



息を呑む音が聞こえた。ごくりと喉を生唾が通る。


壁にぶち当てた拳をゆっくりと開きながら俺は未だに固まって動かない神田に、中途半端に開けたドア片手に呟く。


「俺…お前だいっ嫌い」


只のでろでろに甘やかされた我侭なだけの野郎が、俺の親友を馬鹿にすんじゃねーよ。

くしゃくしゃになった髪をさらにくしゃり、とさせた俺は保健室を出た。


神田の呆気にとられた視線を背中に受けながら。



(ああ、頭痛い。)


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