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頭が右へ左へとふらふら、ふらふら、というか全身ふらふらふにゃふにゃしている。


まさに軟体動物。もうあだなは軟体動物でいいでしょう。


「んでぇ、舎弟君逃がしちゃったぁ?なぁんでぇ?俺が竜也に怒られるんだけどぉ」


「あははー…やー志摩が泣くから」


「舎弟君泣いても君には関係ないでしょぉ?それにぃ、竜也に見つかったら怒られるよぉ?」


「んまあ、、そうだけど……俺は怒られる必要ないかなーって。だって泣いたのは久木先輩のせいだし?それに―…」


ふいに、垂れ目と目があった。

あれ、意外。目が綺麗だね、軟体動物。


「嫌がってるやつ監禁するようなしょっぺぇ男、大した事ないっしょ」


「へぇ、単純な話だねぇ」


「単純な話の方が好きでしょセンパイ」


ふにゃふにゃと動いていた体が動きを止めた。


「なにやってんだ猫田ー!!」


窓の外から赤井君の声が聞こえる。上で今何が起きているかさえ知らないでのんきなものだ。


ふ、と苦笑がもれた。ずんずん、と前に進む。

すると当然窓の前に立つ佐藤都留にも近づく事になるわけだが、足は止まらない。


「うん、面白い。変な奴。猫田小豆、」


「ワォ。フルネーム?…最近ね、もういいかなーって思うんだよね。神田うぜぇし、うぜぇ思いしてまで、いらついてまで自分隠して、隠すような大層なもん持ってないのにね」


「フィニから聞いた通り。ふふっ舎弟君とまた違った面白さ」


「だから最近思うんだよね、もうこの状態ぶっ壊してもいいかなーって…だるいし、面倒だし、何より…猫かぶってる自分に反吐が出そうになるし」


「竜也には言わないでおこぉー、興味もたれちゃもったいないもんね」


まったく、見事なほど互いの言葉を無視した会話。いっそ清清しいほどかみ合わない会話に感動すら覚えるが、その時初めて繋がった。



「「じゃ、また今度」」



にー、と笑った俺。

にー、と笑った佐藤都留。


――ガッ!


俺の体は窓から飛び出た。

腹部の衝撃が背中に突き出るのと同時に、窓から落ちた。


「ぐふっ」


(いってぇえ!!)


落ちていく中、青空バックで佐藤都留のにやけた顔が見えた。

なんか、腹立たしかった。


そしてフィニ先輩の言う相手が誰か理解した俺はもうそれだけでげっそりだ。あれと似ているなんて相当ぶっ飛んでる上にもはや犯罪者。


「ああ!?チッまたかよ!!!」


「ぐっ」


背中にくる強い衝撃と、嫌な音。


「猫田っ猫田っ!!!!」


いやいや大丈夫大丈夫、骨折ってないし。

ただ、ちょーっと。後頭部強打?


視界一杯に志摩のはれぼったい顔が映りこむ。俺はそのまま瞼を閉じた。


(…くそ…怒られる…。)


ゆらゆら、ふわふわ、揺らめく意識がゆっくりと浮上してきた。差し込む日光が眩しくて眉をひそめる。


ぼそぼそとカーテンの奥で話す声が聞こえるが、話の内容まではわからない。俺は布団を抱え込むようにして寝ながらカーテンの奥から聞こえてくる声に耳をすました。


「ちょっ!!怪我人には手を出さないでくださいよ!?」


「出さないよ、それに彼ノンケでもなさそうだし。僕は涙目の君に手を出したいんだけどね」


「あ゛?あいつはノン」

「あーーーっっ!!!あ、あー、、ま、また頭が痛くなってきた、、なぁ」


「?」



聞こえる声は志摩、、か?

そうか、そういえば俺気絶したんだけ。


ズキ、と腹が痛んだ。


「あれ、彼目を覚ましたみたいだよ」


「えっ!」


目前に広がる白一色。

どうやらここは保健室らしい。カーテンを開く音が聞こえたと思えば志摩が視界に入った。という事は先程から聞こえる声は保険医だ。



「大丈夫か猫田!!」


「一応受けとったんだけどよぉ、志摩より少しでけぇし重いからこぼれちまったんだけど…まあ大丈夫だろ」


うっすらと瞼を開くと志摩の泣きそうな顔が見えた。


「……大丈夫…じゃないから寝てんだけどね。あと赤井、受け取ってないしょ、丸々零したでしょ」


頭を動かすのもおっくうだ。ふいに、動く気配に気がついた。


「こらこら、生徒が勝手に判断しないの。ほら、どきなさい」


「あっ!ちょ、させるか!!」


「おっ、とと…どきなさい志摩君、保険医は怪我人を見なくちゃいけなから」


「じゃ、じゃあその手はなんですか」


志摩が保険医の前に立ちふさがった。

偉い、その手は危ない。


(今坂…雫だっけ。雑食で有名な…。)


「何って、別に?」


「ノンケ以外興味なかったんじゃないんすか!?」


「もちろん、だけど彼は少し面白そうだから。はは、この前とは違うね、神田君が君を守っていたのに今は君が彼を守っている」


今坂の楽しそうな声が聞こえた。


(あーあ……休めるわけねぇし…。)


「いったた…」


俺はゆっくりと体を起こした。それに手を伸ばしてくれた赤井。


お前腕に包帯巻いてるじゃないか。

俺そんな太ってねぇのになぁ。


俺は赤井の腕に手を伸ばして這わせると赤井は驚いたように目を瞬かせた。


「悪いね、ありがと。ま、俺が病院で入院なんて事なってないのは赤井がキャッチしてくれたおかげだし…腕痛てぇよなぁ、ありがと」


「……すっげ鳥肌たってんだけど」


「酷いね赤井君」


ふ、と笑う。

赤井が目を見開いたその約十秒後、俺がそれに気付く前に保健室のドアが乱暴に開かれた。



――バアアアンッ!!



「こんの…糞猫がぁあああああ!!」



あっ、やっぱり怒られた。

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