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「っあだ!!!!」


俺は窓からソファに座り背中を向ける志摩へと10円玉を投げつけた。丁度後頭部に当たったそれはころん、と床に落ちる。

俺はまじでスナイパーになれると思う。


「な、なんだよぉ…10円?」


「よ!」


「うわあっ」


後頭部を撫でる志摩。

涙目で頭をさする後姿に可愛いなー、とか思いつつ俺は志摩の肩に手をおいた。


驚きの声と共に振り返る志摩、そして志摩の目の中に俺がはいりこむと体は硬直した。


あ、いい反応。


「ななななななっっねっねこっむぐっ」


「しー!!声でかいよ志摩君」


いい反応をしてくれた志摩だが騒ぎ出しそうだったので口を塞ぐと、くぐもった声がわずかに志摩の口に押し当てられた俺の手から漏れ出る程度におさまった。


志摩の腫れぼったい瞼を見れば何度か泣いていた事は一目瞭然。


「んぶはっっ、は、は、やっぱり食堂で秋に五円玉投げつけたの猫田だったんだな…」


「ご名答ー、優等生の志摩君がさぼりなんてするから心配で見にきちゃったよ僕」


「……感動するところなのかこれ」


「いや違うんじゃない?感動したいなら僕のAAの胸をかすけど」


「いらんわ!!」


ブレザーを脱ぎかけた俺の手を志摩が慌てて止める。

俺はそれににやつきながらソファだけがぽつりとある奇妙な部屋を見渡した。


「妙ちくりん」


「みょ…ちくりん?なんだそれ」


ははっ、と笑う志摩。

なんだ、もっとへこんでるのかと思ったけど。


ぽつりと、ソファだけ。


「猫田、もうそのキャラいいって!そろそろ…」


「あーはいはい、改めて自己紹介とか」


「いらないって」


「…ま、とりあえず座りなさいよ」


「…なんで猫田にすすめられてんだ俺……」



はぁ、と溜め息をついて顔に手を当てた志摩に俺はニッと笑った。


ぼす、と座った俺の隣に志摩は座る。その一瞬の隙に俺は志摩の首に腕を回した。ソファに座ると重みで志摩の体がこちらへ偏る。


「うげっ」


「あー志摩髪サラサラねー、うちのダーリンと張るんじゃね?」


「わ、わ、わ、」


わしわしわしわしわし…ぶちっ。

頭を抱え込むように志摩の頭を撫でていると数本、髪が抜けた音がした。


「いっっ!!!猫田いい加減に…」


ば、と顔を上げた志摩。俺と志摩の距離わずか14cm程度。


「俺はよくわかんないけど、まあなんつーの志摩君」


「な、なんだよ?」


「今度部屋に夕飯食いにきなよ、ダーリン料理上手だからさ」


大きく目を見開いた志摩。見開かれた目がゆっくりと閉じると同時に段々志摩の目に水がたまっていった。


俺はそれに笑いながら制服の袖を志摩の顔に押し付けた。


制服のざらざらで顔赤くなったって、ごまかしとけばいーよ。

たまっていくだけだった志摩の目の水は次第にぽろぽろと零れ落ちていった。

俺はそれを流石に制服で拭うのは嫌だったから傍に何かないかと見渡す。

だけど本当にソファしかなくて。

まるで、檻だ。


優しさを含んだ乱暴な言葉で志摩を招いて、いざ中に入れると鍵をかける。

純粋に、同情した。


周りに何もないから俺は仕方なく手で志摩の涙を拭ってやる。


「泣くなよー、俺の手が汚れる…っつかしょっぱくなるし」


「じっ、じぶ、自分でなか、せといて、、薄情者!!」


「その薄情者の本性みたがってた奴が何を言う」


強く擦りすぎた目元は端が赤く染まってしまっていた。

まぁ、適当にごまかせばいいさ。


「そういえば……佐藤都留がいるって聞いたんだけど…」


「ぐすっ、、あの人は今は外だけど……直ぐに帰ってくるから、、猫田も危ないと思う」


「ふむ、、そりゃ危ないさな…どうしたもんか」


普通ならこのまま帰って、おわりだ。

だけど。


ふ、と志摩を見た。ずび、と鼻を啜りながらえぐえぐと泣いている。

高校生男子にあるまじき光景だ。別に可愛くはないんだけど、このままにしておくのも泣かしておいて忍びない。


そこで俺はピーン、とひらめいた。


ソファから立ち上がり、窓へよる。

そこに下でまだ赤井が居る事を確認して窓へ志摩を呼び寄せた。


「志摩志摩、ちょっとこっちおいで」


「なん、ひっく、だよ?」


「ちょっとここ立って、そんで後ろむいて」


窓の外へ向けて志摩を立たせる。

俺は志摩の後ろに立つ。


そして一言。


「赤井君赤井君、ちょっと上向いて。そんでキャッチしてね」


「「は!?」」


――ドンッ!


「どっわあぁぁああああああ!!」



「うおおっ!?」


俺は三階から志摩を、突き落とした。

窓がでかいからやすやすだ。


ぶわりと体が外に投げ出され、叫び声を上げながら落ちていく志摩。

下から怒声が聞こえてきたという事は、どうやら赤井はちゃんと志摩をキャッチできたようだ。


(よかったな志摩、病院にいかなくて。)


チラ、と俺は檻のような部屋のドアを見つめる。先程の叫び声できっと誰かが部屋に入ってくる。

それが佐藤都留だ、なんて事にならないようになって欲しいけど、、まぁそれは無理だろう。


「うし、俺も降りるか…」


「ちょーと、ちょっとちょっとちょっと。もういっちゃうのぉ~?」


「っ!?」


背後から聞こえてきた甘ったるい声。ば、と後ろを振り返る。


誰もいない。


「…………はぁ?」


見間違いか、と思い踵を返し前を見る。


「はぁ~い」


「居たよ!!」


にこんっ、と目の前で笑う前髪だけ茶色くて、他が黒髪ウェーブ。ゆるい笑みとふにゃりとした柔らかな体の動きに俺は鳥肌が立った。


「ど、どうも…」


「どぉもぉ」


へらへらと笑みを浮かべる佐藤都留に俺も同じようにへらりと笑みを浮かべる。その笑みは偽りか、志摩を逃がしたことに怒っているのか。


だが俺は目を細めた。


(…どー…みてもこれは楽しんでるよなぁ…。)


音も気配もなく動くこの目の前の人間、、鳥肌が立つ程気持ち悪いんだけどなんでだろう。嫌悪感がない。


「あ、今俺の事気持ち悪いって思ったでしょぉ?」


「アハハハ、そんな事思ってませんよお佐藤様」


「アハ、ぜぇんぶ話聞いてたからそれが猫かぶってる事ぐらいわかってるよぉ?」


あははは、とさわやかに笑いあいながら俺たちはお互いのへらりとした顔を見つめあった。誰か鳥肌止めてええ!!

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