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まさか志摩にまでベクトルが向くとは思わなかったな。

ほんの少しあせった俺。


志摩を叩く事は誰も異論がないようだ。

と、いうよりも…。


(…性格悪いなぁ…。)


おそらくわざとだろう。森崎は何もいわないどころかいや面白がっているし。

和泉は生き生きと目を輝かせている。


優しく微笑む不動が酷く憎らしい。


「あ、あのっ、し、志摩君はむしろ被害者なんじゃ…」


「えーっ猫ちゃんは志摩君の見方?」


こて、と可愛らしく首を傾げた如月。大きなくりっとした目が鈍い光を宿す。

それに冷や汗をかきながら俺はゆるく首を横にふった。


(うわー息つまる…死にそう。)


ここで志摩を庇うのは俺にとって不利だ。元々接点がないという前提なのだから俺が志摩を庇えば庇うほど泥沼にはまっていく。


「じゃあ決定だね、各ファンの子達に標的は神田秋と志摩幸助だって伝えるように、次の集会の時に言っておくようにして」


「ああ」


「んじゃっ、猫ちゃんばいばーい!今度マタタビあげるねっ」


いらねーよ。


和泉の満足げな声に賛成したほか二人。

ばたばたと部屋を出て行った後に残ったのは俺と森崎だけだった。


ふいに聞こえた後ろからのため息。

首を回して窓際に立つ森崎を見上げる。


「面倒な事、してくれるよね」


「…それは俺の事ですかね」


それ以外に何があんの?、という視線を受けた俺はそれをそのまま右に流す。

痛い痛い、痛いよその視線!



「変な所から首つっこんで、いや…うーん巻き込まれた、とも違うし」


「……………」


ふわりと深緑の目が宝石のように不思議な色を放った。

ふ、と意識をもっていかれそうな程綺麗な瞳。


「君の言ったとおり、こんな学校じゃ普通の生活なんて無理だよね。無理なら、どうせなら暴れたいと思わない?」


「……なんの勧誘ですかそれ。フィニ先輩の話って怖そうだから嫌だなぁ~」


悪徳商売とか似合うよ。

俺鴨られそうで怖いし。


「あのさ、俺はお前によく似た奴知ってるよ?ま、誰よりも一番ぶっとんでて一番周りが見えてて、一番世界に絶望してる奴なんだけど」


「いやいやいやそんな危ない奴と一緒にしないで下さいな。何それ、すげぇ危ないよね、犯罪者予備軍だよねそれ」


あれ、それを似てるっていわれるという事は俺も予備軍?


そんな事を思ってしまって軽くへこんだ。

森崎は楽しげに口角を吊り上げるけどニヒルな笑いにしかなっていない。


「ためらう必要なんかない、ぶち壊せ」


甘く誘惑するような声に全身がぞくりと震えた。

恐怖じゃない、全身を甘く優しく撫でられているような感覚。

はっきり言って気持ち悪い。


俺は椅子を直すと元に戻し、いまだに綺麗な瞳を見つめた。


「煩い」


「…煩い?」


「何考えてんのかわかんねーけど。興味もねーし。だけど、俺の事巻き込むなって話。誰と似てようが誰と同じだろうが俺は俺でどこかの誰かじゃねーんだよ、勝手に重ねんな胸糞悪い」


「!!!っっ、ぶはっ!!ふっあははは!!ひっ、ふくっ、くくっ、面白!ちなみに誰と似てるか興味ないわけ?」


くるりと背を向けた俺に森崎は楽しそうに聞いた。


つーか。


「知りたくもないしそんなぶっとんだ奴の事なんか」


ばたん、とドアを閉める際に森崎ははじけんばかりの笑顔で俺に呟いた。


「はっ、どんなけ頭かくしたってなぁ。隠してるもんはいつかは見つかるもんなんだよ」


だぁから。

それがなんだよ、って話。

教室に戻ると俺のそばには人だかりが出来た。


「猫田君大丈夫!?」


「大丈夫だよっ僕達は猫田君の事わかってるからね!!」


「猫、今回は災難だったね…大丈夫だよ、ファンクラブの子達も猫の事を悪く言う奴等はいないからさ」


「猫田大変だったな、しっかし神田ってうっとおしいな!!」


一番最初が見上君で他がそのたもろもろ。

俺は大丈夫だよ、と眉を下げながら笑った。


少し視線を外せば後ろの方の席の神田は悲しそうに自分の机を見ていた。

神田はどうやら不良タイプじゃないようで、ぐちゃぐちゃに落書きがされた机を見て悲しそうに顔を歪めている。


そりゃそうだよな、平凡だし。

めちゃくちゃにされた机を見て悲しそうに、ただ悲しそうにしている。



(志摩はまだ来ていない、、か……。)



ふ、と視線を感じてそちらに目を向ければ哲平だった。

しかめっつらだ。これは怒っている。


「ありがとう、本当に僕は大丈夫だから…ごめんなさい…ぼ、僕は…っ大丈夫だから!」


後半、言葉につまりながら言い終えた俺は人をかきわけて哲平のところに駆け寄り哲平に抱きついた。


三山君に慰められている猫田君、の図だ。

下手すれば俺達がデキている、なんて見方もあるが別にそれは困らない。

そこらへんは個人の自由だし。



「哲平怖かったよー」


「棒読みで何言ってんだ馬鹿が」


机で隠れて見えないからと哲平は俺のスネをごすごす蹴ってくる。

ちょ、痛いって。


しかし今日の哲平はいつもと少し雰囲気が違うような気がした。

じ、と哲平を見つめる俺に哲平は「あ゛?なんだよ」といつも通り愛のない返しをしてくれる。



(……んー…?)


俺はその小さな違和感に内心首をかしげながらもまぁいいか、と置いておいた。

まあ、気のせいでしょ。


哲平から視線を外した瞬間次は神田と視線が絡む。

俺はすぐに逸らしたが神田は中々俺から視線を外してくれなかった。


馬鹿は馬鹿でも近づいてはいけないな、というオーラはわかるらしい。

動物的本能とでもいうのだろうか。


(つーかそれここで発揮すんなら他で発揮しろっての。)


視線をもう合わせる事はなかったが神田からの一方的視線は俺にまとわりつく。

俺はそれに多少不快な思いをしながら教室に入ってきた沙希ちゃんの呼びかけに席についた。


やはり、教室の空気も哲平も、違和感を感じた。


「先生志摩君どうしたんですかー」


一人の生徒が沙希ちゃんに質問をする。

それを面倒臭そうに、心底不快そうに、沙希ちゃんは答えた。


「志摩は……休みだ、」


しぶった言い方をする所、志摩になにかあったのだろうか。

D組に捕まっているのか、それか教室に入ってきたくないのか。


俺は赤井君の怒った顔を思い出しながら顔を顰めた。


(ああ、悪ぃな赤井君……ごめん。)


俺は今回、それはまずいんじゃね?、な事をしてしまった用だ。

でも俺のこの立場だと志摩を助けれない。



なんて楽なポジション。



だけどなんて狭苦しいポジション。



なんて、俺に不釣合いなポジション。

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