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15


綺麗に整理された自分のスペースの中で、カリッと爪を噛んだ。


「………邪魔だ…」


人を小馬鹿にしたような態度。

優位なのはこちらのはずなのに、悠々とした態度をとる。

秋とは違う、濁っていて、透明感低い眼。



全てが、俺の神経を逆なでする。


胸の中から、あるいはもっと体の奥から黒なんて綺麗な色じゃないものが沸き上がり、体を包み込む。その感覚が嫌で、せめて秋に癒して貰おうとおもっているのに…。


「……ネコタ…ネコタは本当に俺が嫌いなのかな…?哲平は俺の友達だけど…俺哲平よりネコタと友達になりたいんだ…なのにっ」


生徒会室のソファに座りながら悲痛な顔の秋に、他の役員達が慰める。


(秋までもアレを望む。)


「っ」


「「水城先輩ー?」」


―――ぎゅぅ。


書類の上に置かれた手は、薄っぺらい紙をグシャリと握りしめていた。

双子の不思議そうな声に顔を上げて、いつものように笑顔を浮かべた。


「「……先輩ちょっと最近おかしいねー」」


「そんなことありませんよ」


そうかなぁ、と呟きながらぐるぐると周りをうろつく双子に、自然と水城の眉間にシワがよった。


(嫌いですよ…彼なんて。)


悲しい顔を見せる秋に視線を向ける。


――大きな大輪の花が咲くように、


窓際に置かれた既に枯れてしまった花。


――太陽のように笑う君が、決して沈まないように。



「邪魔者は…消さなければ…」


全ては、秋の為に。

それが正しい、彼の笑顔が曇るならばそれは相手が悪い。


俺は視線を手元に落とした。

俺をただ見つめる目。

媚びもなにもない、ただ俺という人間に向けられた目。同じような目で、口端を吊り上げる三山哲平。


容易に想像できる、猫田小豆と三山哲平の絆。


(…何故……俺は…。)


きゅ、と唇を軽く噛む。

双子が左右から顔を覗き込んできたので俺はパッと顔を上げた。


「鬱陶しいですよ」


「「えー酷いなぁー」」


ぷぅ、と頬を膨らませる二人に薄ら寒さを覚えながらソファに手をかけた。


(何も間違ってはいない。)


「秋…俺の相手もしてくださいよ、妬いてしまいますよ?」


「吟!それどころじゃ…」


「お前は俺様だけ見ときゃいーンだよ。他人の事で悩むんじゃねぇ」


上を見上げる秋の額に優しく口づけを落として、騒ぎ立てる敷島を適当にあしらう。

顔を真っ赤にさせる秋に加えてちょ

っかいを出す敷島。


何度も秋の愛らしい唇から紡がれる「ネコタ」「哲平」。

その二人に酷く汚い感情をたぎらせながら、枯れた花を握り潰した。


俺達が渇望するものを与えられているくせに虫の分際で秋を傷つける。

俺達から秋を奪う害虫だ。



「……虫唾が走る」






「楽しそうですね」


「そう見えるか?」


「ええ、とても」


奇抜な色をした髪がゆらりと揺れるのをレンズ越しみ見た。

デスクにおかれた書類の山の向こうから立ち上るコーヒーの湯気。


拡散された香りが部屋の隅まで行き渡る。


隣に用意された角砂糖がぽちゃりぽちゃりとコーヒーに飲まれていく。


―――ザラザラザラ


「無駄な金を使ってしまったと、てっきり後悔でもしてるんじゃないかと思いましたよ」


欧米人特有の白い肌に東洋人の透きとおるような肌質。

翡翠色の目はせわしなく動くわけでもなく、山積みの書類を一概してクスリ、と笑っただけだった。


じゃり、じゃり、と砂糖の溶けきっていないコーヒーを口に含む。


舌に絡まる砂糖を生暖かい温度で溶かしながら喉に通す。


「頑丈な箱に入れられていたわりには普通の情報だった。特に面白くも無い…まぁ良くて30点という所が妥当だろう」


「じゃあ、どうして上機嫌なんですか?」


「相変わらずお前の敬語というものは気色が悪いな…書記が哀れだ」


全くそんな事を思っているようには見えない笑みで桐島は言った。


「ふふ」


「そうだな……漁夫の利というものを狙ってみている」


「漁夫の利?」


赤毛よりも薄く、ミルクティーといえばそれよりも赤い。

紅茶のような色をした髪はここ最近の湿気を帯びて毛先が柔らかく丸まっていた。


根性の悪さがよく出ている。


「逃げ道が無い相手に対して逃げ道をこじあけてやる。権力というものは有効に、且つ最小限に使うべきだ。生徒会の馬鹿共のようにつねに振り回していれば効力は意味をなさない」


「そして、手駒に?」


「もちろん、全ては俺の手に」


あいも変わらず強欲で高慢。男、森崎フィニアンはそう思った。


それが許されるだけの器量と力を持っているからこそ、厄介この上なかった。


「逃げ道の無い中手を差し伸べて鍵の開いた檻に入れる…根性が現れてますよね」


「心外だ、お前には言われたくない」


「ふふっ僕なら檻は頑丈に、鎖に南京錠に、雁字搦めで手に入れますがね。本当、貴方と僕は合わないですよね」


ニヒルな笑みを浮かべる森崎に顔を顰める。


人を根性が悪いといいながら自分の根性には触れない。


「腐った根性が素敵だな、森崎」


「ふ、そうでしょう?でも腐ってるとは口が悪い…発酵してると言ってもらえませんかね?…

桐島さん」


顔の前で手を組み、森崎はデスクに体重をかける。


結われた赤毛がまたしても柔らげに揺れた。


「僕の手駒は神田秋、そして…和泉君」


「ほう…水城でなく和泉か」


桐島の声に森崎は微笑んだ。



「賭け物は猫田小豆…さぁ、今回はどっちが勝つかな」


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