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「お前となんか居たら小豆が」
「ハッ汚れるってか」
「馬鹿が、元から小豆は汚ねぇんだよ」
「んじゃなんだってんだよ」
「お前と居たら小豆に変態移るだろが」
「馬鹿かテメェ、野郎はもう立派な変態なんだよ。舐めんじゃねーぞ鬼畜でサディストなんだよ猫田は俺とまず拘束プレイをやるってきまってんだ」
「はん、小豆に責めれるわけないな」
「これだから素人は…今は鞭とか縄とかバイブがあんだろが。それに攻めんのは俺だ」
「一回死んでこい。戻ってくんな、天に召されろこのチンカス野郎」
「テメェが逝けクソカス」
「口ピ引きちぎって唇半分にされたいかクソミソカス」
近すぎる距離で睨み合う二人に俺は声をかけた。俺が神田に眼をやってるうちに何、何やってんのこいつら。
「ちょいちょい待って下さいお前等俺の扱い酷すぎるでしょ。赤井君俺拘束プレイどころかSMなんかしないからね?あと哲平、俺は純心無垢だよ汚くない」
神田に掴まれている反対の腕を伸ばせば睨み合う二人に綺麗に無視をされた。無視すんじゃねーよコラ。
それに、と必死で俺の腕を握る神田に顔をしかめた。
ぎりぎりと力のこもった手に掴まれてるのは二回目だが、神田は無駄に力が強い。
「神田君手、離して?痛いよ」
「ネコタ…俺と友達になってくれるか?」
「あんのねぇ…神田君には仲の良い生徒会の皆様という友達がいるじゃない」
(所詮自分に靡かないから攻略したいんだろ?それに付き合わされるこっちの身にもなれよ…ったく。)
あーあ、うぜ。
八重は心配そうに神田を見つめていた。
「……んで……」
「は?」
神田の唇が震えた。
「揚羽達と友達だったら他に友達作っちゃいけねーのかよ!!??」
「っっ」
ビリビリ、と声のでかさに耳がダメージを受ける。
萌ちゃんの「死ね」といい所だ。
その声に罵りあっていた二人は漸く顔を上げた。じんわりと目に涙を浮かべる神田にギョッとする。
「……、…」
キラキラと光に反射した涙が、綺麗だった。
「なんで揚羽達と友達になったからって他に友達作っちゃいけねーの…?」
ぼろりと大粒の涙が零れる。
「あっ秋っ」
おろおろと神田に声をかける萌ちゃんの声がどこか遠く聞こえた。
(………なんで、か…。)
そんなの、お前の友達になった奴が危ない目に合うからじゃん。
生徒会からのいびりに、神田に手出しできないファンクラブの奴らからのイジメ。
怖いから誰も神田に関わろうとしない。
それが当たり前。
それなのに、キラキラと光る涙に揺らいだ。
なんでそこまで誰かを求めるのか意味がわからない。
なのに涙は綺麗だ。
――ポンッ
「「らしくねぇ」」
「……んで被んだ」
「こっちの台詞だ被るな」
両肩に置かれた手。
右に哲平、左に赤井。
小豆はハッ、としたように顔を上げると勢いよく腕を振り払った。
「それが此処のルールみたいなもんだから。神田君さぁ、もうちょっと周り見た方がいいと思うよ」
「っっネコタの馬鹿!!もう知らねぇっ」
メイの馬鹿!!もう知らないっ。
トトロか。
バタバタとでていった神田を追いかけでていった八重を見つめながら小豆は小さい呟いた。
「だから…猫田だっつの」
ばたばたと出ていった二人に俺は深いため息をついた。
「はーあーあ、やってらんない」
ぐたりとソファに凭れながら俺はぽてりと重い頭を預けた。
時計を見るともう昼も終わる。
「俺は授業行くけど、お前どうすんの」
頬をタオルで冷やしながら哲平は俺に聞いた。咄嗟に行かない、といいかけたが口をつぐむ。
和泉の言葉が引っかかる。
何を思ってそんな行動にでるのか。冗談でもそんな事を言うとは思えないし冗談さえ言うとは思えない。
と、なるとだ。
水城は本格的に俺達を敵と見なしたという事だろうか。
哲平を狙うという事はそういう事だろう。
ただの制裁ならいい、哲平は強いし多少の嫌がらせなら倍に返してやり返すような奴だ。
だがもしファンクラブ会長が直々に三山哲平を潰せと命令したら…。
「や、俺も授業出るよ」
「そうか、一緒に西田から課題受け取ろうな」
「一緒に?」
沙希ちゃんからの課題がどれだけ恐ろしいかは周知の事実だ。
哲平は肩をすくめながら結局今日も遅刻した、と言った。
「えー」
「まあ志摩よりましだけど」
「んーまあ仕方ないよなー、赤井君」
「あ?」
暫くソファで座っていた赤井君に声をかける。さっきの神田の反応だと、もしかしたら志摩に神田がまたくっつきにいくかもしれない。
神田はどうやら志摩が居なかったら俺、俺が居なかったら志摩に行くようだから。
だからそう伝えて、と言えば問題ないと返された。
「志摩さんなら今日からあいつん所に行ってる」
「あぁ!ちゃんと行けたんだ」
そういえばフィニ先輩の所に行くんだっけ、哲平の計らいで。
哲平を見ればけろりとしている。俺はまた小さく笑った。
「さ、授業行きますかー」
「…らしくない」
「らしくないねぇ」
不機嫌そうに言う哲平に俺は笑って答えた。
神田が少し羨ましく見えるなんて、らしくない。
俺は赤井君と哲平を連れ、部屋を出た。




