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10


背後からの視線にいよいよ俺は焦っていた。


この学園で関わってはいけない人物ナンバー3。ナンバー1、生徒会。ナンバー2、八重萌人、ナンバー3、佐藤都留だ。


人見も入っていたが奴は今はもう生徒会なので除外とする。

まあなんにせよ、ヤバイ相手だということだ。


「……赤井君、出ようか」


「あ?お前プリンはいーのかよ」


「プリン…いやプリンはいいよもう」


こういうところで肝っ玉の違いに力の差が出るのだろうか。平然としている赤井君に俺は尊敬すらした。


だが俺にそんな肝っ玉はない。あるのはせいぜい二つの袋に入った金玉ぐらいだ。


「また今度来て食えばいい、購買でもあるしそれに昼になったら午後の授業は出る。だから…」



――ガタンッ!!


赤井君を立たせ食堂を出ようとして席を引いた時、後ろで椅子をなぎ倒したような音がした。

突然の音に食堂の中に緊張が走る。


「……赤井君赤井君今誰が椅子を倒したの…」


強張った顔で赤井君に問いかけるが、赤井君はどこか好戦的な目つきで後ろを見ている。俺はこっそり、本当にこっそりと後ろに振り向いた。


「!!!」



後ろには、切れ長の眼を更に険しくさせてずかずかとこちらへ近づいてくる萌ちゃんが居るではなか。

その眼はただ俺を睨みつけている。俺だけを、だ。


(見るんじゃなかった見るんじゃなかった!!)


萌ちゃんと俺の面識は中等部以来だ。中等部、猫をかぶり始めた頃はいち早くこの学園の面倒さに気づいた俺は徹底していた。


そんなとき、面倒なことに一学期分だけ委員長になった事があった。いつもさぼってばかりいる萌ちゃんと探す役に抜擢されたこともある。


そのときに何を話したかなんて覚えていないが、萌ちゃんを不愉快にするようなことをいったのだろうか。


「赤井君いいからさっさ…と、お、おおっ!?」



「!」


早く出よう、と身を乗り出した俺と赤井君の間にコップが飛んでくる。音を立てて割れたそれは足元でばらばらのガラス片になった。


「よう」


あっけにとられている間に俺の後ろから地に響くような声が聞こえる。

ごくり、と喉が上下した。


「…なんでテメェがこいつと居るんだ、赤井」


「…へ?」


思ってもいなかった言葉に俺は間抜けな声を上げる。

顔を上げれば後ろには萌ちゃん、前には赤井と高身長二人に挟まれている。



(え、なに?知り合い…?)


「別に関係ねぇだろ?」


「…志摩といいこいつといい、目障りだ」


「テメェにいわれる筋はねぇよカス」


緊迫した空気に食堂内は次第にざわついていった。有名な二人が今まさに対立し合っているのだ。

血の気のおおい生徒にはいい見物だろう。


「…いい度胸じゃねぇか、テメェとはいつ」



「ちょ、ちょ、赤井君も萌ちゃんもバトるのは結構、ただし外に出よう、な?」


「萌…?」


俺は視線が集まる中二人の腕を引っつかみあわてて外へと飛び出した。


後ろには殺気立った四つの眼。

赤井君は自重ってものを覚えたほうがいい。



「で、八重君は僕に用事でも…」


「あ?別に今更取り繕わなくてもいい」


「え」


「だからその萌ちゃんっての…よぉく教えてくれよなぁ?ああ゛?」


容姿端麗にふさわしい笑顔を見たのに何故か目の前に居るのは牙を噛み鳴らす猛獣の姿でした。 


萌ちゃんの指を鳴らす音が恐ろしい。


「えーっと八重く…」


「あ゛あ!?聞こえねぇなあ!!」


ゴッ、という音と壁に打ち当てられた拳。壁と拳の間から砂埃がパラパラと落ちていく。


何故だかは知らないが萌ちゃんはしべ手知っているようだ。俺はあきらめたようにため息をついた後、改めて萌ちゃんを見上げた。


「…ええっと萌ちゃんは一体なんでそんなに怒っているのかな?」


元はといえば俺は何もしていないわけでやましいことなんて何もない。


ただ萌ちゃんからの強烈な殺人ビームを背中に突き刺して歩いていただけで、突き刺していた萌ちゃんに非はあれど俺には何もないのだ。


「その萌ちゃんってのはなんだおい」


「八重萌人、略して萌ちゃん。お好みなら萌君でもいいけど…」


「お好みもクソもあるかボケ!!!」


ぶん、としなる腕に今度は萌ちゃんに殴られるのか、と思った瞬間。

後ろで物凄い音がした。


萌ちゃんの後ろで赤井君が同じように壁を殴っていた。ただ違うのは、赤井君の殴った場所は思い切り凹んでしまっている。



「猫田は俺のもんだ、さっさと返せよ萌ちゃん?」


「…上等だ」


(俺はいつから赤井君のものになったんだろうか。)


明らかに挑発している赤井君に気をとられている萌ちゃん。


俺は二人から距離をとった。

野次馬精神は刺激されるけどあの二人に近づいて巻き込まれ怪我でもしてみろ、今度こそ哲平に殺される。


にらみ合う、というより一方的に萌ちゃんが赤井君を睨んでいる。



(不憫なフラグが立ってんなー萌ちゃん。)


「ちょーい、そこのお二人さん」


「「あ?」」


いい加減俺は腹が減っている。

時間も少ない。


小豆は若干なで肩気味の肩をさらに脱力させながら地面を蹴った。


「腹が減っては戦も出来ぬ。……購買いかね?」


「……っ俺はお前のそのノリが死ぬほど嫌いだァ゛!!!」


「おい猫田テメェ約束忘れてんじゃねーだろうな」


「だから全部飯食った後ね。萌ちゃんにも色々聞きたいし、あ、萌君でもいいよ」



「普通に八重っつえ!!」


「だが断る」



(あーよかった…。赤井君と変な約束しててよかった。)


実は萌ちゃんが近づく前、購買奢ってもらうかわりに一発殴るという話をしていたのだ。

しかし金と銀とは…笑えない。


そして…辺りどうやら俺のこの雰囲気というかのらりくらりとした空気は萌ちゃんには通用するらしい。


(やっぱ赤井君だけか…。)


後ろからやはり犬のようについてくる赤井君に笑いながら俺は八重に視線を向けた。


八重もムスッとはしているがついてくる気らしい。

どうやらこの学園、犬のような奴が多いようだ。


「そういえばさ、萌ちゃんはなんで俺の事知ってんの?」


斜め後ろを歩く八重に俺は振り向かずに聞いた。

残念ながら斜め後ろを見ながら見上げる程俺の首は柔軟でもなんでもないのだ。


(俺も一応背は高いんだけどなー…。)


今時170もあれば十分だ。


「屋上」


「屋上?家政婦は見た的なノリで覗き見た?」


ポツリと呟かれた言葉に小豆は首を傾げる。

八重の姿であのお決まりな家政婦のポーズでドアから除いている姿は、想像するだけで面白いのだが…まぁ有得ないと分かっている。


「んなわけねぇだろが!!屋上の二階で寝てんだよ!そこをお前等が勝手に入ってきやがって…!!」


「え、俺等?」


「あ゛ーなんか聞いた事あるよーなないよーな。だってよォ、あんなもん早いモン勝ちだろが」


「お前等より早く居たから聞きたくもねえ話聞いてたんだろがああ!!」


実に萌ちゃんの血管が可哀想な事になっているがそれは俺の知ったこったじゃない。

が、萌ちゃんはきっと俺達の中で一番の不憫な一匹狼になるだろう。


あーあーうるせぇな、と耳の穴をほじくる赤井君のふてこらしさと言ったら…。


「屋上かー…それは考えてなかったなぁ」


「ほとんどの奴等は知ってんだよ!!」


「いやごめん俺例えそれが萌ちゃんでも興味ない事忘れる性質なんだよねえ」


ふるふると全身を震わせる八重。

なんだ、と小豆と赤井は歩みを止めて振返った。




「お前ら…死ねっっ!!!!!」



咆えられた。


「赤井、君…俺今まで生きてきてこんな全身全霊の死ねは聞いた事なかったわ」


「同感だ」

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