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志摩視点



どうしてだ。何故だ。


右手に双子。左手に会長。


「何この状況!!!」


思わず叫んでしまった志摩は両端から鋭い視線を飛ばす会長と双子に気付き肩をすくめた。


「幸助!ほらこれ!!!」


パタパタとキッチンから戻ってきた秋は俺の元へ犬のように駆け寄ると手に持ったコップを手渡してきた。


「えーと…これは何かな」


「気分悪いときはホットミルクに蜂蜜入れたやつと生姜湯がいいんだろ!あと汗いっぱいかくように唐辛子とかいろいろ入れて混ぜてみた!!」


キラキラと大きな眼を輝かせる秋に俺は頬をひきつらせる。


「ああそう混ぜてみ……混ぜたの!?」


危うくズズッと口に運んでしまう所だった。

いやたしかに気分は悪いけど!!気分が悪いのは確実にこの状況のせいだ。


(……これはまたなんか違う気がするのは何故。)


こんな状況になってしまった理由がなぜか俺はわからない。ただ昨日は赤井の部屋に泊めてもらって、今日は朝からこそこそと登校しただけだ。


なぜかその道中で俺を探している秋と生徒会御一行に見つかってしまい、あれやこれやの間に拉致された。拉致された。

大事なことなので二回言わせていただいたが、拉致された。


(…三回言っちゃった…。)


得体のしれないカップに入ったどどめ色の液体から出てくる湯気を顔に浴びながら俺は死んだ眼で微笑んだ。


物凄い刺激臭だ。


「テメェ秋の用意したモンのめねぇわけねぇよなぁ?あ?」


「「当たり前だよねぇ」」


「……あたり、ま、え」


「……当たり前ですかね…」


よくも図々しくこの場に現れれたなぁ、と視線が語る。


(うう……。)


もちろん志摩自身が望んできたわけではないのだが。

そんな事知ったことか、とでも言うように両端と後ろは容赦がなかった。


『あっ幸助!!やっと会えたああ!!』


『ぐふっ!!あ、秋…!?』


廊下の角を曲がった瞬間見えた人影は俺に突進してきた。もろ鳩尾に入ったその頭に俺は胃が口から飛び出るかとさえ思った。


今までどこに居た、から始まり今からお茶を飲むからと何度も断る俺を引きずっていった。

今からお茶を飲む、いやいやあんた授業はどうしたよ!!


ぎゃあぎゃあと飲め飲め進めてくる先輩たちと秋を眺めながら俺はため息をついた。


(悪い奴じゃないんだけどなぁ…。)



ちら、と秋の顔を見つめる。



「そっそんなに見つめんなよっ恥ずかしいだろ!」


「いや…まぁ、うん。ごめん」


大きな黒目がキョドキョドとしているのはなんとなく可愛い。


「ごめんな、秋。ちょっと俺腹痛くてさ、今飲むとはいちゃいそうだから飲めない」


「えーっだって俺せっかく!!」

「ごめんな、吐いちゃうから。嫌だろ?俺が吐いたもんがぶっかかんの」


「う、うん」



神田に詰め寄る志摩、その襟首を双子が思い切り引っ張った。



「ぐっ」


「秋君に何してるの」


「何してるの秋君に」


「梅っ桜!!!」


締まる気道に呼吸困難。

後ろから伝わる痺れるくらいの嫉妬の念が俺に襲い掛かってきた。にこにこと人懐こい笑みを浮かべてはいるがその色素の薄い眼が強烈な色をしていることを俺は知っている。


「コラッ!!!梅も桜も駄目だろ!!幸助は俺の親友だぞっ仲良くしろよな!」


「うん!わかってるよ秋君。これが俺達なりの仲良くの仕方なんだ」


「うん、これが俺達なりの仲良くの仕方なんだ。わかってるよ秋君!」


「ぐぅっ」


なんだー、なら大丈夫だな!!なんて的外れにも程があるぞ秋。よく見てくれ二人の手は未だに離されていないんだぞ、親友が死に掛けてるぞ!!


そろそろ意識が薄れだしたかな、なんて思う頃。

部屋のドアが乱暴に開かれた。


「失礼します、志摩幸助君は居ますか?森崎といいますが…」


ゆっくりとあけられたドアから白くなめらかな手が覗き、そして赤毛が甘い匂いをつれてきた。


水を打ったかのように静まる部屋の中に、とろりとした笑みを浮かべた男に全員が固まる。ドアを閉めたバタリという音に漸く俺たちは我にかえった。


綺麗な深緑の宝石、エメラルドをはめ込んだような瞳に白く陶器のような肌。


「も…りさき先輩…」


思わずもれた声に森崎の眼が志摩へ向いた。

その瞬間また体がなにかに締め付けられているように動かなくなった。


精密に作られたフランス人形のような美しい顔にただ見つめられるといたく恐ろしい。

弧を描くその唇も元からその形に作られていたのかというほど、歪むことがない。


「君が…志摩君?僕のことは…知っているのかな?」


綺麗なはずなのに何故か蛇に睨まれた状態になる俺はたまらず何度も首を立てにふった。


「あーっフィニ!!」


「こんにちは、秋君」


突然大きな声が右方向から弾丸のごとく飛んできた。その相手はもちろん秋だが、驚いたように、そして嬉しそうに指を刺しながら森崎に近づく。


森崎は先ほどの拡声器で話しかけられたような声にも動じず近づく秋を一度軽く抱きしめた。


「なっ」


「ちょっ!!」


あっけにとられていた先輩たちは目の前で行われた熱い抱擁にぎょっとした。森崎といえば学園でも生徒会や風紀の次に力のあるファンクラブ会長の中でも人気を争うほどの容姿だ。


ファンクラブ会長にしては一番穏便な派閥ということで生徒会役員もとるにとらない相手と思っていたのだろうが、それでも秋に関わるのは許せないらしい。


「貴方、一体誰の許可を得てここに…なんの用です」


べりっと副会長が森崎と秋を引き離す。案外その力は強かったのか、森崎は数歩よろめいた。


「すいません水城様、僕は志摩君に用事があって…」


困ったように眼を伏せる森崎に副会長はふ、と鼻で笑った。


「穏便派と聞きましたが…制裁のお誘いですか?」


「そんな!!」


「あっそっか…フィニってファンクラブの会長なんだよな?」


副会長の腕の中で秋は一瞬不審の眼を向けた。怪訝そうに眉を潜める秋に森崎は突然、眉をきゅっと寄せた。


「秋君…友人の僕を疑うの…?」


ほろ、と。


「「!?」」


秋と俺はぎょっとする。先輩たちですら驚いたように眼を見開いた。

ほろ、と、その陶器のような肌を伝うのは涙だ。エメラルドの瞳からま

「そうだよね、ごめんね取り乱しちゃって…」


あわてて訂正をした秋に森崎は秋の手を握り健気に笑って見せた。今明らかに秋の胸できゅーんと音が鳴っているに違いない。


(あれは…卑怯だよなぁ…。)


ハーフ独特の顔立ちや不思議な魅力の瞳。それら全てが触れてはならないような、傷つけてはならないとても神聖なものに見えてしまう。


森崎フィニアンという生徒は温厚で優しく、学園の天使だといわれている。


と、言うのが表向きらしい。三山曰く、『あれは亀のふりをしたスッポン』らしい。


そう、三山の言った先輩とは森崎先輩なのだ。

たしかに、ファンクラブに狙われている俺がファンクラブ会長の部屋になんて行かないだろう。


(だけど…。)


「ほら志摩に用事だって秋君!」


「邪魔しちゃ悪いよ!!」


双子に挟まれながら秋は渋るが森崎はにこにことしたままだ。だが肯定もしないところを見るとなんだか黒いオーラが出ている気がしないでもない。


「じゃあ、またね秋君。いこうか志摩君、ね」


す、っと伸ばされた白魚のような手に俺はつかまる。

そのままドアへと引っ張られる際、すれ違った会長に耳打ちをされた。


「秋にこれ以上近づくとD組もろとも退学だ」だそうだ。


なんとも最低な置き土産だ。


生徒会室を出た後、俺はおずおずと前を歩く森崎に声をかけてみた。知らない相手を部屋に入れるなんて、本当にいいのだろうか?


「あ、あの…俺本当にいいんでしょうか…?」


「なに、楽しい事が僕は大好きでね…だから志摩君、君は大歓迎だよ」


振り返った森崎の笑みに、俺は本当に固まった。


「精々僕を楽しませて、ね?」


「は……はひ…」


俺がそのとき何を見たのか、それは生涯秘密だ。


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