2
#
ひとしきり笑った志摩は目尻にたまった涙を掬った。
「は、ははっあー腹痛い…さて…これからどうしようか」
「あ?」
「そういえば…志摩最近学校来てなかったな、どうしたんだ?」
思ったままの事をポツリ、と呟くと志摩と赤井から「え?」という反応が返ってきた。
哲平は眉をひそめながらお互いに顔を見合わせる二人を待つ。
「なに」
「あ、あーそうか…三山はそうだったな…俺さ、……」
言ってもいいのか、というような顔をする志摩。
それにじれた赤井が喋りだした。
「食堂で生徒会とD組が神田と志摩さんの事で揉めて、今志摩さんはD組に軟禁状態だったんだよ、それを猫田が志摩さんを助けたわけ」
「…は!?志摩軟禁されてたのか?」
呆れたような赤井の物言いに哲平は志摩に目をやる。志摩は肩をすくめながら「まぁ」と頷いた。
「猫田だって人の事いえねぇぞ、昨日役員と喋ってたし神田と揉めてたからな」
「あ……あ~も…赤井なんでそんなぺらぺら喋っちゃうかなあ」
「あ?あ、え?すいません?」
(なんだ…それ。)
俺は何も聞いていないぞ、そんな話。
噂として耳にも入ってきていない。小豆が生徒会と接触?神田が小豆に絡んだ?
そういえば今朝小豆は登校するのをしぶっていた。
哲平はバツが悪そうな顔をする志摩がおずおずと、言った。
「ね、猫田はさ、三山にあんまりそういう話がいかないようにしてたみたいなんだ…俺は佐藤先輩が楽しそうに喋ってたから知ってたけど…」
「どういう意味だよ」
思ったより自分の出した声が低くて哲平は驚く。
そして志摩を怖がらせる事がないようにぐっ、と顎を引いた。
「きっ、きっと三山に無駄な心配かけたくなかったんじゃない、か?ああっいや俺もそんなはっきり知らないから言えないけどさっっ」
「……………はぁ」
思わずため息が漏れた。ズキズキ、と足が痛む。
靴を履いた瞬間ズブリ、といやな感触と激痛。
見事に綺麗に足の裏に画鋲が根元まで。
何で気付かないんだって、思い切り足突っ込んだからに決まってんだろ。
ご丁寧に画鋲はひとつじゃなかった。
(なんでかと思えば……そういうことかよ。)
それは今朝の出来事だ。
小豆に今のところ被害がないという事を見れば容易に想像できた。
標的はこの俺。
小豆の痛い所を突こうという魂胆が見え見えだ。
「あの野郎…どうでもいい事には誰でもかれでも巻き込むくせしやがって…」
いざとなると、自分ひとりで済ませようと考える。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが…まさかここまで馬鹿だとは。
「仕方…ないんじゃないかな…猫田って、そういう性格なんだろ?」
「っ…はぁ、志摩も十分変な奴だよ」
小豆との付き合いがそんなに無いくせに、しっかりと相手の本質を見抜いてる。
そしてその本質を理解しながら、相手が許すまでその中に入ろうとしない。
「?」
何が?と首を傾げる志摩に苦笑した。
(…俺の周りってなんでこう…一癖も二癖もある奴等ばっかなんだろうな。)
哲平はきょとりとしている志摩の肩を軽く叩いた。
「ありがとな、教えてくれて。あいつ俺には何も言わねぇから、志摩が教えてくれて助かる」
「あっ、うん!!」
「志摩は赤井…の部屋は無理なのか」
「俺は久木さんのチームだからな、んなの簡単に足がつく」
どうしたものか、と考えていると突然頭にひらめいた。
「志摩、俺が知り合いに頼んでおいてやるから、嫌じゃなかったらそいつん所行け。先輩だけどな」
「え?」
にやり、と笑う哲平を見て志摩が頬を引き攣らせた。
案外、小豆のそばに居るため感化されてきているのかもしれない、と。