俺の立ち位置
食堂で二回もえったらこったらあってから数日。
「小豆、さっさと用意しろよ行くっつってんだろ」
「………面倒だからやだぁ」
俺はごねていた。
ぐいぐいと制服をひっぱる哲平から逃れようともそもそ逃げる俺。
寝れないししんどいし絶対今日一日も面倒くさい事だらけだし。
俺は哲平に縋るような視線を送ったが哲平は「知らん」、とばっさり切り捨てた。
酷いよ哲平!!もとはというと哲平が副会長なんかに喋りかけられるからなんだからさぁ…。
いや元凶はバ神田なんだけど。
というより俺なんだけども!
結局俺は哲平には何も喋っていない。
哲平は別に知らなくてもいいし、知って変に神経逆撫でされても困ると思ったからだ。
なんだかんだで友情を大切にする男、三山哲平だ。
「ほら行くぞ」
「もーいいじゃんさぼってもさー」
誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだから、とへらりと笑って誤魔化そうとする俺に哲平は大きくため息をはいた。
「…中学以来の自由人が戻ってきたな」
「ふはっ、何それ」
「高校上がってからは性悪さが全面的だったけど根っこは中学と変わってねぇっつってんだ!」
(あれ、それって俺暗に成長してねーんだよって言われてない?)
どうしようもない、なんて顔をする哲平。
俺は笑いながらソファから立ち上がりドアに向かった。
「小豆?んだよ結局行くのかよ」
「ん。見上君にノート返さないといけないからね」
ぐー、と伸びをした後部屋を出る。
その後ろを哲平がついてくるのを確認して俺はまた笑った。
斜め下降下中だったテンションが頭をちょっともたげた。
やっぱりあれだよね、傍に癒しがないと疲れるもんね。
唯一恥も外聞もなにも気にしない真っ裸の付き合いが出来る哲平は俺にとっては他の奴等と換えがきかない存在だ。
そんな疲れるほど猫被る必要あんのかって話だけど、ないんだよね実は。
ただ猫かぶっていた方がこの学校では生活しやすいって事だ。
(…これ以上面倒なことになるなら…まあそれも考えなきゃいけないことなんだな。)
まぁそれはまだ先の話になるのかね、と考えながらカードキーで鍵をしめた。
「んあーちょっと今日俺臭い」
教室に続く廊下を歩きながら俺はすん、と肩口に鼻を埋めた。
毎回ギリギリの俺達の後に生徒はいない。
「は?臭いって何が?」
「ちょっとこれ臭って臭って」
首を傾げる哲平に俺はほれほれと顔を近づけた。哲平が俺の首付近に鼻を近づける。
そして一瞬で離れていった。
「おまっくっっさ!!!!」
「あっちょっと胸にグサッときた!!」
ないないそれはないわ、と顔の前で手を振る哲平に俺は苦い顔をする。ないのは十分承知しているがこうはっきり言われてしまうともごごとなってしまう。
「チワワとゴツイのには受けがいいんだよねこの匂い」
俺自体香水は元々つけない性質であるから、たまにきついのをつけるとくらくらしてしまう。
「俺はそんな匂い無理だな、くさい」
「……なんだか哲平の臭いは俺に向けられてる気がしてならないんですけど」
ぐさぐさきてる、きてますよ。
俺がよろよろ、と歩くとバシッと頭を叩かれた。
「はあ?お前が無臭なのは知ってるから。お前と寝たことあんだから」
「寝たって響きがやぁらしー」
けらけらと笑う俺の頭に鉄拳が飛んできた。
痛い。
「お前もうほんとう黙れ」
「ぼこり愛は俺好きじゃないからね!」
「黙れ馬鹿、黙れエロ、黙れおしるこ」
「おしるこ言うな~」
小豆だけども。
俺おしるこって好きじゃないんだよね、小豆が好きじゃないから。
あんこは好きなんだけど。
殴られた際に乱れた髪を手で直しながら教室のドアをあけた。
あ、眼鏡忘れてきた。
「猫田くんっ」
「あ、見上君。おはよう」
ぱたぱたと走ってきた見上君。
焦っているのかしどろもどろに言葉を零しながら視線を彷徨わせる。
哲平はとっくに席についているし。
跳ねた見上君の髪を直してあげるとようやく落ち着いたのか見上君は俺の手をにぎって真剣な目で言った。
(見上君って将来絶対可愛格好いいになるタイプだよなー。)
こう、、キリッとしている時は格好いいタイプだと思う。
「あのね、っファンクラブの皆様が猫田君を視聴覚室に呼んでおいでって…」
「!」
「よっ、よかったら僕もついて…」
「ううん、大丈夫だよ。見上君は教室で待ってて、それから沙希先生に伝えておいてくれるかな?」
「…うん」
納得のいかない、という顔をする見上君にごめんね、と苦笑しながら俺は席に鞄を置いた。
(思ったより随分早いな、呼び出し。)
生徒会の奴等のファンだろう、ほとんど入っている俺だからどうせなら全員で話つけるか、的な。
森崎先輩もいるのだろうか、とふと思い出した顔に内心どんよりとした気分になった。
もう裏の顔みたから癒されないね、無理だ。
なにやら見上君からの心配となにやらおかしなものが混ざった視線を背中に受けながら俺は入ったばかりの教室を出る事になった。
入って出て、忙しい奴だなと客観的に自分を見ながら、笑った。