表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
大陸横断編
6/71

クリムゾン


 俺達が面倒事に巻き込まれている頃······。

 魔邪の樹海では-

 

 「はぁ···。退屈っ」

 

 エトとルカが樹海を出てからというもの、退屈過ぎて、暇過ぎて、私はホームシックならぬ〝エトシック〟に陥っていた。さっきから溜め息ばかりついている。その内、体内の酸素が無くなるんじゃなかろうか···。

 

 「今何処かなぁ。······はぁ。私も行けばよかったぁ〜」

 

 この台詞なんて、もう十回は言っている。三年前の旅の時は、ここまでじゃなかった。多分、というか確実に去り際の〝大好き!〟のせいだ。厄介な置き土産をして行ってくれたものだ。

 

 「帰って来たら〝責任〟取らせてやるっ! 覚えておきなさい!」

 

 そう叫んでは、静寂が私を包み込む。こんなにもエトが居ないということが、寂しいとは思わなかった。どうにかして連絡をするとは言ってくれたが、それだっていつになるか分からない。······いつ帰って来るのだろう。一週間後? それとも一ヶ月? ······また何年も帰って来ないのだろうか。

 

 「···エトのあほぉ」

 

 行き場のない気持ちを必死に抑えながら、その時を待ち続ける。途方もない事だ。まぁ、駄々を捏ねても仕方のないことなのだが······。

 

 早く帰ってこーい-。

 

 そう言いながら私は、縦横無尽に樹海を消し去っていった。

 

 早く帰って来ないと、樹海が無くなるぞ〜。

 

 

 

 

 

 一方-。

 

 「っ-······気配は···無さそうだな」

 

 どこかに転移させられた俺達は、ゆっくりと瞼を開き、焦らずに『魔力感知』で辺りの気配を探ってみる。気配は無いが、この空間全体を何かしらの魔法が包み込んでいる。いわゆる結界という奴だ。

 一応、先程念話を試してみたが、通じなかった。魔力妨害の結界と見て間違いなさそうだ。

 

 「ご、ご主人様······」

 「ん? ミーア、大丈夫?」

 「大丈夫···では······そ、その···ひゃうっ!」

 

 ······ひゃう? 一体どうしたというのだ。というか、暗くて見え辛い。『魔力感知』で近くにいる事は分かるんだけど······。

 

 「す、すみません。あんっ···えっと······あ、当たってますぅ···うひゃっ!」

 

 ······うひゃ? なんだ。頭でも打ったのか? 悪いが、俺は何にも触れていないし、どこかに当たってる感覚もない。というか、『魔力感知』でそこまで至近距離に居ないことは、把握している。

 まぁ、大丈夫そうだし放って置くことにしよう。

 

 「明かりでもあればなぁ······ん?」

 

 なんて思っていると、突然複数の気配が一度に現れた。結構な魔力を発している奴もいる。人数は十五人だ。現れ方に違和感を感じた俺は、この気配の連中も転移して来たのだと気付いた。

 そして、パッ-と真っ暗だった空間が明るくなると、目の前にわらわらと武装した者達が現れた。中には女も混じっている。······なるほど。一番奥に控えている異常な気配を発している奴が、この連中のトップと見て間違いなさそうだ。

 

 「コラ、ミーア。いつまでも遊んでないでこっちに来なさい!」

 

 明るくなって分かったが、ミーアは転移した場所が悪かったようで、瓦礫と絡み合っていた。相当恥ずかしい格好になっている。

 

 「ひゃい!? あ、なんだ···。瓦礫だったんですね······。ショックです···」

 

 いいや、俺がショックです。あんな瓦礫と一緒にされただなん···じゃなくて!

 

 「やぁやぁ。キミが神獣を売りたいって言う人間かい?」

 

 ミーアが慌てた様子で俺に駆け寄る中、先頭の男が俺を見つめながらそう呟いた。

 

 「あぁ。そうなんだけど···ここは?」

 

 まるで洞窟のような空間。湿気った空気が体にまとわりついてくる。ここはシュトロハイムの地下なのか······それともロア王国ですら無いのか。俺の問いかけに男は嫌味ったらしく笑みを浮かべている。

 

 「ここは我々クリムゾンの〝交渉場〟さ。何せ神獣の取引だ。本当かどうかを確認しないと······だろ?」

 「なるほどね。そりゃそうだ。でも生憎だけど、こっちもクリムゾンさんをよく知らなくてね。信用出来るまで神獣を見せる訳にはいかないんだ」

 「ふはははっ。···食えない奴だ。いいだろう、気に入った」

 

 なんだ。案外、物分りがいいじゃないの。それとも、何かあってもすぐに消すつもりでいるのか。まぁとにかく話は通じるらしい。

 

 「とりあえず、その好戦的な方々に殺気を抑えるように言ってくれないかな? ここは〝交渉場〟なんだろ?」

 「いやぁ、失礼失礼。強引な手段を選ぶ輩もいるものでね」

 

 そう言うと、男は後ろの連中にアイコンタクトを取った。すると先程までの張り詰めていた空気が少し緩んだ気がする。とはいえ、一番奥の奴は未だにピリピリと気を張っているが···。

 

 「ミーア、『契約送還』ってお前も送還されるのか?」

 「いえ。私自身は送ることは出来ません」

 「そっか。分かった。この先、何があっても俺が許可するまでジッとしておいてくれな」

 「は、はい。了解ですっ」

 

 小声でミーアに呟くと、俺はゆっくりと歩みを進めた。すると、先頭の男もまるで鏡のように歩み始める。お互いの距離が縮まり、手が届く辺りまで近寄ると男は懐から紙のようなものを取り出し、俺に見せてきた。

 

 「うちが扱ってる商品と支援団体、それと取引先だ。これを見てくれれば信用出来ると思うが?」

 「······いいのか? 機密情報だぞこれ」

 「あぁ、そうだ。これをキミが口外すれば、うちにとって甚大な損害となるだろう。だが、それを覚悟で見せているんだ。誠意を示すには、まず己を不利にする。まぁ脅しと受け取ってもらってもいいがね」

 「······なるほどね。俺を殺す算段はとっくについてるって訳か」

 「それはキミ次第さ」

 

 とはいえ、これはラッキーだ。この中にシルフィーの妹がいれば、あとはどうにでもなる。一番厄介なのは、既に売られてどこかに行ってしまった場合だ。流石に商品がどこに売られたかまでは、言わないだろう。

 第一、それを聞くのは怪しまれる。これは最終手段だ。

 

 俺はゆっくりと見落としの無いように、紙に書かれた内容を確認していく。

 獣人から始まり、吸血鬼や魔獣はもちろん、精霊やオーガ、竜人まで記されている。正直驚いた。精霊は〝人界外〟の生命体だ。どうやって見つけたんだか······それに竜人。竜族の中で、稀に生まれてくる人の姿をしたドラゴン。純血のドラゴンに及ばないものの、その戦闘力は〝化物〟だ。それを奴隷として扱うだなんて······。

 

 「······凄いな」

 「はははっ。流石のキミも驚いたようだね」

 

 俺の驚いた姿が余程嬉しかったのか、男はめちゃくちゃ笑顔になっている。

 大方、支援団体ってのが力を貸しているのだろう。有名な王国や強大な軍事力を要する大国の名前が書いてある。取引先には、大体貴族や商人、ギルドや商業施設も記されていた。

 

 「······ッ!?」

 「ん? どうかしたか?」

 「あ、いや。この〝人族〟って欄。確か人間の奴隷売買は禁止されていた筈だろ?」

 「あぁそれか。知らないのか? ロア王国は一ヶ月程前まで奴隷売買が〝認められていた〟んだ」

 

 はぁ!? なんだそりゃ!

 

 「······ほんとか?」

 「あぁ。キミなら知っていると思ったんだがな」

 

 まさかの事実だった。ロア王国では一ヶ月前まで奴隷売買が合法的に行われてたらしい。全く知らなかった。という事は、この街に来て感じた違和感はこれのせいか。だから街の人間が一ヶ月前よりも明るいと思ったんだ。

 

 「なるほどな。······!」

 

 驚きながらも用紙の一番下まで目を通すと、一番最近の記録にエルフという文字が書かれていた。本当につい最近である。

 ······これじゃね?-なんて思いながら、視線を横にずらしていく。すると、その横の欄には、まだ取引先が書かれていなかった。なら、とりあえず買い取って、シルフィーに請求······とも思ったのだが、取引額が白金貨十枚もする。

 

 ···いやいや、高っ!? おいおい···リーフィアってエルフの貴族とかじゃねえだろうな!

 

 いや、その前に強引に奪われたものを買って取り戻すというのは無しか。第一、クリムゾンは潰すって決めてたし。······となると-

 

 「この白金貨十枚のエルフ、見せてくれないか?」

 「······それは〝無理〟だな。いくら信用を得る為とはいえ、それは出来ない」

 「エルフが白金貨十枚はありえないだろ。コイツ、〝エルフの王族〟じゃないのか?」

 「······旦那。それの詮索は無しだ。わかってくれ。じゃないと、こちらも〝手を打たないと〟いけなくなる」

 

 これは確実に黒だな。ご丁寧に、このエルフに至っては支援団体の欄も空白だ。怪し過ぎる。

 

 「······分かった。ちなみに、俺が買うと言っても見れないか?」

 「あぁ。それには既に買い手がついてる」

 「そうか。······なら諦めるよ。神獣を連れてくる。ここから出る方法を教えてくれ」

 「あぁ、それなんだが、そこにいる奴隷は置いていってくれ。あと、ステータスプレートも預からせて貰う」

 「······なに?」

 「当然だ。これだけの情報を見せたんだ。そちらも相応の誠意を見せてもらわないと」

 

 ···そう来たか。逃げられないように手を打つつもりなのだろう。逃げるつもりなんて毛頭ないって言うのに。だが、ステータスプレートとミーアを置いていくわけには行かない。ステータスプレートは最悪作り直せばいいが、ミーアを置いていくのは却下だ。

 

 「······はぁ」

 「どうした? 酷く表情が崩れているようだが?」

 

 呆れてるんだよお馬鹿さん。

 

 「悪いこと言わないから、見逃しときなって」

 「···何? お前、頭大丈夫か?」

 

 俺の言葉が癇に障ったのか、男はコメカミに怒りマークを浮かび上がらせ、背後にいる連中に視線を送った。どうやら、やる気満々のようだ。

 

 全く······どうなっても知らねーぞ?

 

 「分かった。ならこっちも実力行使するけど、問題ないよな?」

 「はっ。多少は賢いと思ったんだがな。···あぁ、問題無いとも。交渉は決裂だ! 死んで後悔するんだな!」

 

 そう言い放つと、男は一瞬で連中の辺りまで後退した。意外に速くてびっくりしたが、それでもルカの『纏雷』に比べれば、止まって見える。

 そして連中は、全員で魔法名を唱え始めた。この洞窟ごと壊す気か-と思ったが、防護結界も張ってあるのだろう。そこまで馬鹿だとは思えない。

 

 とはいえ、喰らってやる義理は無いので、一方的に蹂躙させてもらうとする。

 えっと···。ミーアは攻撃魔法の耐性が無かったよな。『自己再生』もあるが、こんな連中の攻撃を馬鹿正直に喰らう必要も無いので-

 

 「ミーア、こっちにおいで」

 「はいですっ!」

 

 ヒシッ!-と俺に抱きつくミーア。···何故そうなる。寄ってくれるだけで良かったのだが···。まぁいいけど。

 どうせならちょっとだけ、真面目にやってみよう。ということで、俺は抑えていた魔力を解放する事にした。

 

 その瞬間、異様な気を放つ高密度の圧力が洞窟内を包み込んだ。たったこれだけで五人も気を失ってしまったようだ。

 

 「え···えぇ!? えっと···エト···様?」

 

 俺にしがみついているミーアが完全に萎縮してしまっている。とんでもないものを見てしまったような目だ。

 

 「す、凄い······。こんなのって······」

 

 ごめんねミーア。まだまだ本気じゃないのよ。

 

 加えて俺は、加護の『竜化』を使い、『反魔法障壁』を発動させた。どうやら頭でイメージするだけで、付与スキルは使えるようだ。意思疎通や耐性なんかは、常時付与されているらしい。

 

 「ぬっ。な、なんだこの圧力はっ!」

 「構うな! 全魔法発動っ!」

 

 先頭の男が、号令のように声を荒らげると、連中が一斉に魔法を放った。一斉に放たれた魔法は、空気を振動させ轟音を発しながら俺とミーアに向かって来た。

 その瞬間、青色の鮮やかな魔法陣が、俺の前に展開した。···うん。これは凄い。美しさもそうだが、魔法陣に込められた魔力の密度が想像の遥か上をいっている。こんな代物にその辺の魔法が束になっても傷一つ入らないだろう。

 

 「エト様···? その···姿は······〝ドラゴン〟?」

 

 そう。ミーアの言う通り、『竜化』をした俺の体には超硬質の鱗がまとわりつき、まるで竜人のようになっている。

 

 「エト様···、姫様だけじゃなくて竜族とも友達なんですか!?」

 「友······まぁそんな感じかな」

 

 おぉー! と感動して瞳を輝かせているミーア。······言いづらい。ティアもドラゴンのアイツも〝ぶっ飛ばして無理矢理契約させた〟-なんて。

 ミーアの純粋な目が心に突き刺さって、めちゃくちゃ痛い。『痛覚消失』も『反魔法障壁』も効果がないなんて! まさか、これが『一撃必殺』!? なんて馬鹿を言っている間に、ようやく連中の攻撃が終わった。

 

 「はぁ···はぁ······っ!?」

 「なっ······ど、どういう事だ! 何故貴様如きが『反魔法障壁』を使える!? それは竜族固有のエクストラスキルだぞ!」

 

 さっきまで白々しく身構えていた一番奥の人間が大声を上げた。というか、人間じゃないのだが。

 

 「···貴様、人間ではないな?」

 「れっきとした人間ですとも。おたくこそ、上手く紛れてるみたいですね。魔人さん」

 

 俺の言葉に連中が一斉に言葉を失っていた。どうやら連中は知らなかったようだ。魔人の男は焦ったように後ずさっている。

 俺は『竜化』を解くと、くっついているミーアを優しく引き離した。

 

 「エト様、気をつけて下さい。あの魔人はやばそうですっ!」

 「確かにやばそうだね。···ルカに匹敵する勢いだ」

 

 そう。目の前の魔人は、魔人の中でも位の高い上位魔人だ。流石に魔力を全開にしないと不味い?-なんて思ったが、まだまだ試してみたい事があるのだ。言ったはずだ。ここから先は〝蹂躙〟だと······。

 

 「ふんっ。まぁいい。大方、竜人と契約でもしているのだろう。その程度···どうとでもなる」

 「···レ、レイズ様」

 「お前達では荷が重かろう。俺が〝殺す〟」

 

 レイズと呼ばれる魔人が、一歩前に出た途端、大きな歓声が上がった。さっきまで魔人だってビビってた癖に。都合のいいこって。

 

 「レイズって言ったね。俺が勝ったらいろいろと教えてくれる?」

 「あぁ。いいだろう。勝てたらな!」

 

 そう言うと、レイズは魔法を発動し始めた。見るからにやばそうな闇魔法。漆黒の高密なエネルギー体をまるでジャグリングのように空中にいくつも浮かべている。

 

 「これは貴様を追尾する。逃げられるといいな。『反魔法障壁』とて絶対ではない。いつまで耐えられるかな?」

 

 ···残念だけど加護無しでも『超即再生』があるから、当たった瞬間から再生するんだよ。さてと···ここは攻める事にしよう。

 俺はレイズが魔法の威力を高めている間に加護の一つである『纏雷』を発動した。

 

 -刹那···。一瞬にして俺の体は雷と化した。

 

 バチバチバチッ-と雷鳴を轟かせながら、周囲の空気を発火させていく。青白い雷光が輝きを放ちながら体に纏まりついている。

 

 「おぉ···。カッコイイ!」

 

 自分の姿に感動していると、容赦なくレイズが魔法を放って来た。そのタイミングを計り、地面を軽く蹴り上げて光速で移動する。まるで瞬間移動だ。

 一瞬にしてレイズの懐に入ろうとした。···のだが-

 

 「うぉ!?」


 俺が先程の場所から姿を消した瞬間、レイズの背後で爆発音に近い衝撃音が響き渡る。目で追えなかったレイズは、驚愕の表情ですぐさま背後に視線を移している。

 

 「っとと。勢い良すぎた···。難しいなこれ」

 

 そう。恥ずかしながら、今さっき壁に衝突して爆発音を響かせたのは俺だ。『纏雷』の速度に体がついていかなかった。見るのとやるのでは、全然イメージが違っていた。ここまで速いとは思わなかった。

 

 「雷属性の魔法···。風属性の上位属性とは······。流石に厄介だな」 

 

 俺がゆっくりと起き上がると、レイズは先程の魔法から、別の戦法に切り替えた。全身に魔素を纏っている。これはエクストラスキルの『魔装』だ。加えて『身体強化』も重ねている。速さには速さを-という事らしい。

 

 「捉えてやる···!」

 

 レイズは、ものすごい形相でこちらを睨みつけている。

 

 「···ならっ!」


 だとしても速度で雷には敵わない。しかし、あの重ね掛けの防御力は厄介だ。一撃で倒す事は出来ないだろう。あまり長引かせたく無かった俺は、『纏雷』で瞬時にレイズを捕らえた。

 

 そして- 

 

 「ぬおっ!? き、貴様は······何者なんだ!?」

 

 レイズは己の肩を掴まれて、動揺している。しかし、動揺しているのは、何も速さで敵わなかった事でも、肩を掴まれた事でも無かった。そう···。俺は『吸血鬼化』をして吸血鬼の固有エクストラスキルである『魔力吸収』を使い、レイズの纏う魔素を吸収してやったのだ。

 

 「へへっ。これで防御力は激減だな。···『怒槌』っ!」

 「うぉああああっ!?」

 

 レイズの防御力を奪い、すぐさま懐に『纏雷』時の付属魔法である『怒槌』を撃ち込んだ。これは、『纏雷』で纏った雷を拳一点に集中させて撃ち込む雷撃だ。シンプルだが、その威力は凄まじい。

 衝撃波と雷撃がレイズを貫通し、後方の防護結界をも打ち砕き、岩壁を粉砕してみせた。

 

 ······凄いなこりゃ。

 

 あまりの威力に、自分でも驚いてしまった。

 攻撃を受けたレイズは、体内を超高熱の雷撃に焼かれ、全身が灰のように真っ黒になっている。これはもう決着が着いたと言えるだろう。

 

 肩を握っていた手を離すと、レイズは力尽きたようにその場に倒れ込んだ。

 

 「ま、魔人を一撃······」

 「嘘だ···ありえねえ!」

 「ど、どうすんだよ···どうすんだよ!?」 

 「ちょっと、私に聞かないでよ!」

 

 レイズが倒れた事で、後ろにいた連中の動揺が激化している。まぁ分からなくもないが···。中には「俺達は利用されてただけなんだ!」-なんて助けを求める輩もいる。だが、そんな事は知らん。

 

 「見逃したら、俺の事ペラペラ喋っちゃうでしょ?」

 

 俺の問いかけに連中は、気持ち悪いくらい全力で首を横に振った。とはいえ、誰がそれを信用出来るかって話だ。こんな奴がいる-だの、顔はこんな感じで-だの、公にされると後々面倒になる。やっぱり全員消すことにしよう。

 そう思った矢先、俺の足首を必死に掴むレイズの姿がそこにはあった。

 

 「···凄いな。よく生きてたもんだ」

 「頼む。見逃してくれ。お前の事は誰にも話さない。クリムゾンも潰す。コイツらにも強く言い聞かす···。だから······頼む」

 「レ、レイズ様······」

 

 うーん···。そう言われても全然信用出来ないんだけどな。

 

 「信用出来ないんだけど」

 

 俺がそう言うと、一人の女性がゆっくりと俺の前に歩み寄って来た。

 

 「あ、あの······」

 「ん? 何?」

 

 結構若い。イルミよりも歳が下のように見える。そんな女性は自分のステータスプレートを俺に掲示してきた。

 

 「わ、私···ユニークスキルの『記憶操作』が使えます。私が今、この場で全員に『記憶操作』を使います。それじゃあダメ···ですか?」

 「えぇッ!?」

 

 これは流石に驚いた。なんだその反則級のスキルはっ! 横たわっているレイズも驚いている様子をしている。当然だ。そんなスキル、聞いた事も見たことも無い。使い方次第で、ものすごく危険なスキルだ。······身内に欲しいとすら思ってしまう。

 

 「······うん。分かった。その条件なら見逃してもいい。ただし、キミは俺と来てもらうよ? 当然、キミなら記憶を戻す事も出来るんでしょ?」

 「······わかりました」

 

 よっしゃあ!-と心の中でガッツポーズをしてしまった。身内にこんなとんでもスキルを持っている奴がいれば心強い。ちなみに俺には『支配操作無効化』のスキルがあるから裏切られる心配もない。けど、まぁ一応伝えておこうと思う。

 

 「ちなみに俺には、その『記憶操作』は通じないからね」

 「はい。そんな気はしてました」

 

 おぉ、そうだったんだ。まぁひとまずは、これでいいとするか。

 

 

 

 

 -その後、『記憶操作』のスキルを持つ、アヤという女性により、レイズ以外の連中が今日起きた出来事の記憶を抹消され、レイズの転移によってこの場から姿を消した。

 

 一連の流れを見届けた俺は、聞き取り調査の為にレイズに歩み寄ると、レイズは「お前は一体······」-と問いかけながら俺を見つめてきた。

 竜族の力を使い、吸血鬼の力も使う···。そんな俺を異質に思ったのだろう。しかし、俺は別に何者でもない。

 

 強いて言うなら······

 

 「ただの復讐者さ」

 「ははは···。それは恐ろしい」

 

 笑顔混じりにそう言うと、レイズは困ったように微笑んでみせた。続け様にレイズに、リーフィアについて問いかけると、ロア王国の東の森にクリムゾンが管理している古い遺跡があるらしい。そこに匿われているようだ。

 

 「なるほどな。ついでに聞きたいんだけど、十年前のロア王国で行われてた人間の奴隷売買か人身売買の記録って残ってないか?」

 「十年前か······。悪いが俺がクリムゾンのトップとして活動し始めたのは五年前からだ。その前の事は当時仕切っていた、アズールという人間が知っていると思う。確か今は西方大陸のイシュタル法国に身を寄せている筈だが···」

 「······なるほど。···遠いな。分かった」

 

 聞きたいことは聞けたので、そろそろおいとまする事にする。俺はアヤにレイズの記憶を消すと共に、クリムゾンの解散をさせるように『記憶操作』をさせた。そして、自らレイズは転移を行いこの場から姿を消した。もう、会うことも無いだろう。

 

 「なぁアヤ?」

 「···はい?」

 「······そんなに警戒しないでよ」

 

 まぁ無理も無いのだが、アヤは未だに俺と距離を置いている。嫌々感が凄い。

 

 「···俺が怖い?」

 「正直に······お答えしても?」

 「うん。いいよ」

 「怖いです。···でも、純粋に〝凄い〟と思いました。あなた程の人なら、この場にいた全員を殺す事も出来たんじゃないですか?」

 「······どうかな」

 「···いえ、出来たでしょう。でも、しなかった。それどころか、レイズ様以外は傷一つ負ってはいません。···多分、お優しい人なんでしょうね」

 

 あれ? 意外と高評価だった。もっと軽蔑されていると思っていたんだけど···。

 

 「買いかぶり過ぎだよ。俺は面倒事は避けたいだけ」

 「···そうですか」

 

 ともあれ、もうすぐルカと約束していた一時間が経ってしまう。早々と立ち去る事にしよう。

 

 「ミーア。終わったから戻ろう」

 「あ、はいです! ···むっ。エト様、誰ですか? この女」

 「ま···まさか、吸血鬼ですか!?」

 「えっ! どうして分かったの?」

 「私の友人に同じ真紅の瞳をした吸血鬼がいるので、もしかしてと思って」

 「へ、へぇ〜」

 

 吸血鬼と友人とは珍しい。いや、俺が言えた口では無いのだが。

 

 「エト様は〝わ・た・し・の〟ご主人様なんですからねっ! 取り入ろうったってそうはいきませ-ふぎゃっ!」

 

 なんだか余計な事を言いそうになっていたので、ミーアを黙らせる事にした。さてと、ミーアを抱き抱えてこの場から立ち去るとしよう。

 

 「······慕われているんですね」

 「ありがたいことにね」

 「うふふっ。あなたについて行くと言って良かったかもしれません」

 「おいおい、敵だった奴に言うセリフじゃないぞそれ」

 「ですね」

 

 そう言うと、アヤは初めて笑顔をみせてくれた。まだ完全に信用していないが、その笑顔は悪くは無い-そう素直に思った俺だった-。

 

 

 

 

 「ところで、ここからどうやって出ますか? 私は転移系の魔法もスキルもありませんけど」

 「あぁ、それなら-」

 

 俺は脱出策として考えていた、加護の付与スキルである『異空間魔法』を使う事にした。頭の中でイメージすると、脳内に『異空間魔法』の付属魔法が浮かび上がる。『纏雷』の時もそうだったが、固有のスキルじゃない場合は、イメージした時に付属魔法が浮かび上がる。『怒槌』もその内の一つだった。

 そして、今回は『異空間魔法』の付属魔法である『異界門』を使ってみた。

 

 「『異界門』。おぉ···」

 

 目の前に現れたのは、円状の空間亀裂だ。色は紫と黒が混ざったような感じ。確かにこれは、一度行ったことのある場所に空間を繋げる『異界門』で間違いないようだ。〝見たことがある〟。

 

 「······凄いですね。こんなスキル、見たことがありません」

 「んー。だろうね。〝この世界のスキル〟じゃないだろうし」

 「え······?」

 

 こうして、俺達は『異界門』を使い、シュトロハイムの店に無事辿り着く事が出来たのだった-。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ