ステータス更新
魔邪の樹海にエトが帰って来てから一週間が経った。エトはというと、私の目の前でルカの修行に付き合っている。修行内容というのは、魔力値の最大許容量をアップさせるものだ。
というのも、ルカのステータスはこんな感じである。
名前:ルカ
年齢:-
種族:神獣
加護:守護主の加護【契約者との絆で魔力値が大きく上昇する】
称号:守護者
魔法:雷属性魔法・風属性魔法
魔力値:【105,000】
技能:『US神使の審判』・『US神使の判決』・『ES纏雷』・『魔力操作』・『魔力感知』・『状態異常耐性』・『風属性魔法無効化』・『雷属性魔法無効化』・『精神支配無効化』・『闇属性魔法耐性』
充分凄いのだが、魔力値がこの樹海を旅立った頃のエトの少し上というのは、守護者として不味いと思ったらしい。だからルカの修行を行うことにした。ポイントは〝守護主の加護〟だ。契約者との絆が深まるほど、ルカの魔力値が上がっていくらしい。
とはいえ、今のエトは〝すごい事〟になってる。凄いというか、異常だ。それ程までの死闘を経験したのか······。
「まぁ当の本人はこの二年で、ステータスが更新された事に気付いてないみたいだけど」
エトは旅の途中で、何度か更新をした-と言っていたが、旅の後半からは多分更新していないのだろう。ステータスは更新しないと体に反映されないのだ。どういう仕組みになっているのかは分からないが、様々な種族の中で人間だけはそういうものなのだ。
私が十年前に大幅なステータス更新が自動でされた事は、私の種族が人間から魔人に変化したからだ。まぁ本来は種族変化なんてありえないのだが。
「···うーん。言うべきかしらね······。多分エトは【80,000】のままだと思っているわよね。···というか、想像以上に強くなっててびっくりなのよね。樹海内なら負けないけど、樹海外なら私···きっと〝負けちゃう〟わね」
当然だが、私は『魔眼』でエトの現在のステータスが丸見えである。本当にちゃんとノルマをクリアしたようで感心している。神獣、ドラゴン、悪魔、精霊、異端児、吸血鬼······。全く、恐れ入ってしまう。
「おいコラ、ルカ。だからもっと絞り出すんだよ」
「し、しかし主。これ以上、魔力を使うと魔力枯渇で消えてしまいますよ!」
「だから消えるんだよ!」
「そ、そんな無茶苦茶なぁ〜」
先程からルカと行っているのは、単純な魔力だけの組み手だ。お互いに本気で魔力をぶつけ合う。とはいえ、流石に三時間もぶっ続けだ。ルカは疲れた様子を見せている。
というか、俺全然疲れないんだけど······。
「そう言えば、ステータスプレートってどこいった? すっかり存在を忘れてたぞ」
確か、俺の魔力値は【80,000】だった筈だ。多分、ルカと同じくらいだと思うんだが、どうも先程からルカばかり辛そうにしている。
「······まぁいっか。ほらほら! 次行くぞー」
「は、はい!」
結局、この日は一日中組み手を行っていた。「限界です〜」-と先程ルカは実体化を解いて消えた。しかし、全く俺の方は疲れていない。『魔力操作』はちゃんと働いている。······やっぱり気のせいなのだろうか。
「エト。こっちにいらっしゃい」
「え? あ、うん」
突然声をかけられたので、急いでイルミの元に向かった。というか、珍しくちゃんと服着てる!
「イルミ、ちょっといい?」
「なに?」
そう言いながら、俺はイルミのスカートを捲りあげた。そしてついつい涙が溢れ出てしまった。そう、あのド変態イルミンスールが〝女性用の下着〟を履いているのだっ!
「イルミぃ〜っ!」
「ちょっと。なんて声出してるのよ? というか、ものすごく失礼な事考えてたでしょ。スカートを捲るのはいいけど」
「あ、すみませんでした。というか、スカート捲るのはいいんだ!?」
捲っておいてなんだが、一発位は拳が飛んでくる事を覚悟していた。覚悟した上で、それでも尚気になったのだ。いや、待て。そう言えば、今日のイルミはいつもと違う。なんだが、昔に戻ったような······。
「イルミ、どうかしたの?」
「ん? いや、ちょっと十年前の事を思い出しててね」
「あぁ、なるほどね。急にキャラ変えるからびっくりしたよ」
十年前、俺とイルミは出会った。散々喧嘩しながらもここまでやって来れた。やっぱりイルミに感謝しなければいけない。とはいえ、ノルマのせいで妹の方は不完全燃焼感が否めない。近いうちにまた旅に出ようと思っている。
「エト、真面目な話ね」
「え? あ、うん」
イルミは俺を数秒見つめると、そっと俺を抱き寄せた。それに応えるようにイルミの事を抱き締める。
「近い内にまた旅に出るつもりでしょ?」
「······エスパーですか」
「こーら。真面目な話って言ったでしょ?」
「···ごめん。······うん、そのつもり」
驚いた。本当に真面目な話のようだ。口調も態度も昔に戻っている。まぁ昔のイルミも今のイルミも、どっちも大切なイルミに違いないのだが、この口調になると妹の事を、十年前の事件を強く思い出してしまう。
そしてイルミは話してくれた。今までの態度も口調も行動も、俺を強くする為であり、十年前の事を意識させない為であり、全てが俺の為であったと。薄々は感じていた。イルミは出会った頃から優しかった。
『どんな理由があったとしても人を恨んではいけない』-そんな聖女のような心を持っている奴は狂っている-この言葉を教えてくれたのもイルミだった。俺の復讐に反論すること無く協力してくれた。
そのおかげで、俺は目標を持って今までやって来れた訳だ。何度も言うが、全てはイルミのおかげだ。
「必ず妹さんを連れて帰っておいで。って言っても妹さんにとって、この環境は厳しいだろうから、三人と一匹で何処か静かな場所に住みましょ。争いなんて無縁の地でね」
耳元で囁かれた言葉。イルミの提案は、とてもいいと思った。つまりは家族としてこれからも暮らそう-という事だ。とてつもなく魅力的である。想像しただけで笑顔になってしまう。
「でも、それもこれも妹さんを助けてからよ」
「うん!」
「あと、絶対に何があっても生きなきゃダメ。わかった? 〝何があっても〟よ?」
二度も同じ事を言った意味は分かる。何が-の中には、妹が既にこの世にいない場合。そして、ありえないがイルミが死んだ場合。つまりは、大切な存在を失ったとしても-という事だ。
「···うん、わかったよ。そうなったら世界でも〝滅ぼそう〟かな! なんて······ははっ」
「······馬鹿」
やっぱりイルミには、誤魔化しは通じないようだ。イルミの言葉の中には〝大切な存在を見つけなさい〟という意味も含まれていたのだ。本当に世界を滅ぼしたところで、残るのは俺だけだ。多分···というか、確実に死にたくなる。
そんな気持ちを誤魔化したつもりだったが、イルミには完璧に悟られてしまった。でも······そうだとしても、大切な存在というのは作ろうとして作れるものでは無いと思う。だから本当の意味で首を縦には振ることが出来なかった。母親不孝で申し訳ないと思ってしまう。
「でも、大丈夫。散々失ったもの。これからはきっといい事があるわよ。···ね?」
「うん。だといいな」
久しぶりに真面目な話をして、昔のイルミと接して、安心したのか。俺の意識はそのまま遠のいていった。イルミの膝の上で寝るなんて十年振りだった-。
-そして、一ヶ月後。とうとう俺は旅に出る決意をした。
「エト、ちゃんと真っ先にステータス更新するのよ?」
「わかってるよ!」
「決して〝驚いてはダメ〟だからね!」
「······ん? え? どういうこと?」
今、俺とイルミとルカは魔邪の樹海の北西に位置する場所にいる。ここから街道へ続く道を歩いて行く訳だ。
ちなみにこの一ヶ月でルカの魔力値は大きく上昇した。
名前:ルカ
年齢:-
種族:神獣
加護:守護主の加護【契約者との絆で魔力値が大きく上昇する】
称号:守護者
魔法:雷属性魔法・風属性魔法
魔力値:【302,000】
技能:『US神使の審判』・『US神使の判決』・『ES纏雷』・『魔力操作』・『魔力感知』・『状態異常耐性』・『風属性魔法無効化』・『雷属性魔法無効化』・『精神支配無効化』・『闇属性魔法耐性』
俺達はイルミと別れると拳を高々と突き上げて、歩みを進めた。······進めたのだが-
「······ルカ」
「どうしました? 主?」
「ちょっと待っててくれ」
「···なるほど。かしこまりました!」
どうやらルカは、俺の真意を見抜いてくれたようで、俺の背中を押してくれた。俺はルカに微笑みかけて、急いで来た道を戻った。そして、勢いそのままに後ろ姿のイルミの背に飛び付き、抱き締めた。
「っ!? え、えぇ? ちょ、ちょっとエト? どうしたの?」
「うん、ちょっと一言。すぐに帰ってくるからな。どうにかして連絡もするから」
「···ふふっ。はいはい。わかったわよ。ほら、早く行ってらっしゃい」
「うん! あ、イルミ?」
「なに?」
「〝大好き!〟」
そう言って、逃げるようにルカの元へと戻った。恥っずかしい!······が、言って後悔はしてないし、今までの思いを全部乗せたつもりだ。きっと伝わってる筈だ。······え? イルミの反応? そんなものは知らない! こういうのは言ったもん勝ちだ。つまりはこれで、俺の勝ち星は二つになった訳だ!
なんて思いながら、俺に手を振ってくれているルカの元に急いで向かった-。
-小一時間ほど歩いただろうか。流石は東方大陸最南端、人っ子一人居やしない。まぁ居たからと言ってどうと言うことは無いのだが。
「にしても魔力値結構上がったよな!」
「はい! 主とイルミンスール様のおかげです!」
「30万越えか〜。こりゃあ本格的に守ってもらわないとな!」
「ご謙遜を。しかし、任せてください! 必ずや守ってみせましょう!」
頼もしい限りだ。これからはルカの背後からサポートに徹するというのも悪くない。ルカの『纏雷』を使った時の速さは、まるで稲妻そのものだ。何せ空気を発火させる程の濃密な雷撃を纏っているのだ。普通の人間には捉えることは出来ないだろう。
「主······お気づきですか?」
「うん、お気づきだね。盗賊かな。人数は十人? まぁいっか。ルカ、よろしく」
「はい。直ちに-ッ」
バチバチバチッ!-と空気を発光させてから約十秒。
「おっ。おかえりー」
「お待たせしました」
「いやいや、全然待ってないよ?」
ていうか、早過ぎる! そして速過ぎる! そして、その身をイカヅチと化す『纏雷』···すっごくカッコイイ! 本当に雷そのものだ。カミナリ-とはよく言ったものだ。まるで〝神成り〟-なんつって。
「ところで、それは?」
「あ、はい。盗賊が持っていた物で、どうやら東方大陸の地図のようですね」
ほほう。これはルカのファインプレーだ。地図があれば相当動きやすくなる。前に旅に出ていた時は地図なんか持っていなかった。ただ人伝に歩みを進めていたのだ。今思えば、よく帰って来れたと心底思う。とはいえ、方向音痴ではないので、地図を一通り見ると大体の地形と道が把握出来た。もう東方大陸の地図は、不要と言ってもいい。
「よし。覚えた」
「えぇ!?」
「えぇ!? な、なんだよ急に!」
「すみません、覚えたと仰ったのでびっくりしてしまって」
「お、おう。なんだ、それでか。びっくりしたぁ」
どうやら俺は記憶力が良いらしい。あんまり気にしたことは無かったのだが。まぁ何はともあれこれで、ようやくスタートラインに立てたという事だろう。早速、一番近いウインドローラー王国に向かうとする。
「いいか、ルカ。目的は俺の妹の発見と救出。とりあえず、最悪の場合は考えずに、無事であるとして行動する。ウインドローラー王国は、俺が居たロア王国の親善諸国の一つだ。前に行った時は、情報が一切手に入らなかった。今回は二人いるんだ。頼むよ!」
「はい! お任せ下さい!」
「あ。あと、もう大丈夫だと思うけど、今のルカは人間だ。そのつもりでね? 下手な事して揉め事を起こさないように。約束できる?」
「はい。主の命とあらば!」
うん。大丈夫そうだ。魔力値だけじゃなくて、全体的に成長している。やっぱりイルミに感謝だな。シゴキが効きまくった結果だ。
-街道を進んで二日。ようやくウインドローラー王国が見えて来た。というか、今更だがルカに獣型になってもらって運んで貰えば······いや、こんな街道に白麒麟が走っていたら怪しまれるか。というか、存在がまず見えないんじゃ······。ということは俺が座った状態で空を飛んでいるという珍百景を晒す事になるのか······うん。却下だ。羞恥心で死にたくなる。
「主、そろそろ入国審査場です。吾輩達は旅人···という事でいいのですよね?」
「旅人···というか、商人ね。冒険者登録してないから一般のステータスプレートだけで大丈夫な筈だし」
一般人が利用するステータスプレートというのはこういうものである。
名前:ルカ
年齢:二十歳
種族:人間
出身:ロア王国
職業:行商人
冒険者登録:-
ちなみにこのルカの一般ステータスプレートは、イルミが用意してくれた。ちゃんとロア王国の刻印が刻まれている。一体どうやって作ったのか。流石は師匠。抜かりが無い。
「次の者!」
審査官に呼ばれた俺達は、平然を装い自分達のステータスプレートを手渡した。審査官は慣れた手つきで情報を写し出している。これは王国の行政府へ提出する為のものだ。そして、俺達は手渡された紙に滞在期間と滞在目的を記入していく。
「おぉ。ロア王国の方ですか。滞在期間は三日···と。滞在目的は市場視察ですか。ご苦労さまです。明日は丁度朝市が行われます。是非とも見ていってください」
「ありがとうございます」
無事に入国審査をパスした俺達は、大きな鉄の門をくぐった。流石は、ロア王国に次ぐ大国だ。活気で溢れている。ルカも思いの外落ち着いている。もっとキョロキョロすると思っていたのだが、ちゃんと空気を読んでくれているようだ。
「よし。とりあえずは聴き込みだ。お腹も空いたし、ついでに昼ごはんにしよう」
「はい!」
という事で、俺達は近くの店に入った。
この店は、海鮮系の料理を取り扱っているらしい。そして一番人気と言われているのが、シードルと呼ばれている甲殻類の一種。言わばデカい海老である。値段も銅貨十枚と、良心的である。
ちなみに、銅貨百枚と銀貨一枚が同価値で、銀貨百枚が金貨一枚と同価値。そして、金貨百枚と白金貨一枚が同価値といった具合だ。
「んじゃ、食べようか」
「はい。頂きましょう」
そう言いながらも耳は、周りの客の会話に集中させる。しかし、大した話は上がってこない。どうやらここでは、めぼしい情報は手に入らないようだ。
食事を終えた俺達は、長居すること無く店を出た。ダラダラと居座っても効率が悪い。どんどん聴き込むしかない。
とは言ったものの-
「だぁあぁっ! 覚悟はしてたけど、ほんっとに大した情報がないのなー。やっぱりあの聖騎士を探すっきゃないのかよっ!」
やはり、そう簡単には情報は手に入らない。ましてや十年も前の話なのだ。加えると、連れ去ったのは国の騎士たる聖騎士。当然、揉み消しなんかもされている可能性が高い。顔はハッキリと覚えているのだが、それだけだ。素性なんて当たり前のように分からない。
「主······。大丈夫ですか?」
「あ、うん。ごめんね」
「何を仰います! お気になさらないでください」
どうやらルカに気を使わせてしまったらしい。まだ探して一日も経っていない。諦めるには早過ぎる。初めからすぐに情報が手に入るなんて思っちゃいない。根気強く行くしかない。隣にいるルカは、文句一つ言うことなく頑張ってくれている。有難いものだ。
-と。ある事に気付いた。
「あ。そう言えばステータスプレートの更新をしなきゃいけないんだっけ」
「······え? 主、もしかして忘れてらしたんですか? そんな訳ないですよね?」
「······あ、当たり前だろ!? よし、街の雰囲気も掴めた! 教会に行こうじゃあないか!」
「···主。苦しいのでは······。街の雰囲気を掴む必要がどこに···」
おやおや。反抗的な態度を取るじゃないのこの子。そうだよ! すっかりバッチリ忘れてたよ! 盗賊の登場らへんから綺麗に消えてたよっ!······ったく。少しは主をフォローして欲しいものだ。こりゃ減点だな。
不機嫌気味に教会へと進む俺の背を、ルカは必死に宥めている。そんな事をしたって減点は減点である。理不尽? んなこたぁ知らん! ······あれ。この感じ。うん、どうやら師匠に似て来ている気がする。そう考えると、少し自重しようと思ってしまう。
「ここですね」
「だな。そう言えば、三年前にステータス更新したのもここだったっけ?」
「主、更新は約二年ぶりですよね」
「あぁ、そういえばそうだな」
ステータス更新は何度かしたが、やはり出発の日の印象が一番強く残っている。なんて思い出に浸りながら、ステータスプレートを片手に列へと並ぶ。教会の聖堂に入ると、様々な模様の入ったステンドグラスが四方で鮮やかに輝いているのが自然と目につく。そして、主祭壇の後部にあしらわれた石像画。これは、遥か昔にいたと言われている聖母エイラをモデルにされている。
主祭壇を正面に右側の奥、その扉の向こうが聖母の祭壇と呼ばれている部屋だ。そこで、ステータス更新が行われる。
ちなみにステータス更新の方法だが、ステータス更新は別名『才能開花』と呼ばれ、真魔鉱石と呼ばれる超希少な大きな鉱石に魔力を流す事で、魔力を流した者に更新された能力(蓄積才能)を送り返すらしい。
どういう仕組みになっているのかは分からないが、これによって人間はステータスの更新を行う事が出来るようだ。人間以外の種族は、この仕組みを自身の体内で行えるようなので、こんな手間をかける必要はないらしい。
つまるところ、魔力の適性値が関係しているということなのかもしれない。
「おっしゃあ! 魔力値【6,300】だ。これで、俺もBランク冒険者だぜ!」
「マジかァ······。俺は【4,800】だったよー。もうちょいだったのになぁ」
何やら盛り上がりを見せている。が、冒険者という言葉が出るだけで、俺の表情は酷く険しくなってしまう。やはり、俺は聖女のような考えは出来そうにない。
-と、そんな中、一際野次馬達を盛り上がらせた少女がいた。
「おい······。なんだお前、魔力値···【36,000】!?」
「マジかよ···。あんな可愛い子がSランクだって?」
「ちょ、ちょっとやめて下さい! パーティー内でお互いの個人情報には触れないって···言ってたのに······」
なんだが、大変そうだ。パーティーメンバーにステータスを覗かれでもしたのだろう。まぁ、ああいった輩はどこにでもいる。単にからかったのか、Sランクという事に嫉妬したのか、はたまた何か思惑があるのか···。
まぁ俺には関係のないことではあるが。
「ささ。主、次は主の番ですよ?」
「おっ。やっとか! いやぁ。長かった···」
ルカに招かれて、聖母の祭壇へと向かう。先程のSランク少女は、男達に囲まれてその場にヘタりこんでいる。そんな少女を気にすること無く、俺は少女の前を横切った。
その一瞬······
「ッ!?」
大きく見開いた目。必死に口元を抑えている。そんな少女と目が合ってしまった。
少女の瞳から感じ取れたのは〝恐怖〟だった。一体何に怯えているというのか。まるで目の前に自分を殺そうとしている奴がいるような怯え方だ。···失礼な。俺はこの少女とは初対面の筈だ。
という事は-
「なぁルカ? 俺の顔に何かついてる?」
「はい? 顔···ですか? ······いえ。美しいお顔ですよ?」
「ん。だよな」
違ったらしい。もしかして顔に何か!?-なんて思ったが、的外れだったようだ。まぁ驚いていたのは、彼女だけのようなので別段気にしないでいいだろう。
-そして。
さくっとステータスの更新を行った俺は、聖母の祭壇から出る事にした。待ってました!-と言わんばかりにルカが嬉しそうに歩み寄ってくる。まるでペットだ。まぁ爽やか系のイケメンに笑顔で歩み寄られるというのは、悪い気がしない。勿論、恋愛対象は女性だが。
「さてと。おっ、さっきの子は居なくなってるな」
なんだかんだ言って、ちょっとは気になっていた。妹位の歳の子だろう。つまり、二つ程歳が下だ。まるで妹を見ているような感覚になってしまったようで、涙を浮かべていた姿が頭に焼き付いていたのだ。
そりゃあ多少は気になるってね。
教会を出た辺りで、早速ステータスプレートを確認する事にした。どれだけ上がっているのだろう。いろんな奴と戦ったので、ある程度は上がってて欲しいと切に願う。じゃないと悲しくなる。
せめてルカと同じくらいには-なんて思ったが、それは欲張りかもしれない。【80,000】から【300,000】なんて急激な上昇はしないだろう。良くても【150,000】くらいなものだ。
そんなことを思いながら、ルカと共に更新されたステータスプレートを仲良く覗き込んだ。
-が。その瞬間、俺とルカの頭は〝真っ白〟になった。
「あ、主······。こ、これは···と、とんでもない···ですよ!?」
「···············何これ」
更新されたステータスプレート。そこに記されていたのは-
名前:エト・リエル
年齢:十八歳
種族:人間
加護:神使の加護【意思疎通・神獣使役・纏雷】・竜の加護【意思疎通・竜化・反魔法障壁】・熾天使の加護【意思疎通・上位悪魔召喚・闇属性耐性】・精霊の加護【意思疎通・上位精霊召喚・聖属性耐性】・異端の加護【異空間魔法・時間魔法耐性】・真祖の加護【意思疎通・魔力吸収・吸血鬼化】
称号:世界を歩む者
魔法:身体強化
魔力値:【800,000】
技能:至高の力【神羅万象】・『US超即再生』・『US即死回避』・『ES覇王圧』・『魔力操作』・『魔力感知』・『痛覚消失』・『状態異常無効化』・『支配操作無効化』
だった。······いや、だったじゃねーし。
スキルはほとんど変わっていない。『覇気』の進化系であろう『覇王圧』が増えたくらい。それは、まぁ良しとする。次に加護だ。なんだ、このスキル並みの加護のオンパレードは······。ノルマで戦った敵のスキルが、加護として俺に付与されている。その中には『纏雷』までもが付与され······いや、これは正直嬉しい。だってカッコイイから!
というか、『竜化』や『吸血鬼化』ってなんだ? 竜や吸血鬼にでもなれるというのか···。うん、ちょっと複雑な気持ちになる。というか、『超即再生』があるから『吸血鬼化』はあまり使いそうにない。
いや···もしかしたら、その種族特有の固有スキルを使う為に必要なのかもしれない。なるほど。納得だ。
そして、一番のとんでもは魔力値だ。凄いな。我ながら化け物じみている。まさか三年前から十倍になっているとは······。しかし、俺は決して自惚れないし驕らない。イルミにそう教わって来たからだ。
どんだけ強くなろうが、必ず俺の上には師匠であるイルミンスールがいる。あの人は〝最強〟なのだ。それは俺の中で不変である。
「あー。イルミが驚いてはダメって言ってたのってこれか······」
いや、流石に驚くぞコレは。
「いやぁ。驚きました。しかし、主ならば納得です! あれ程の死闘をされたのです」
「ま、まぁね。今思えば、よく生きてたと思うよホント」
「さて。それでは調査に戻りましょう!」
おっ。意外と切り替えが早いね。流石は神獣だ。ルカの言葉通り、俺達は頭を切り替えて旅の目的である妹探しを再開した。
「す、すみません!······た、〝助けて下さい〟」
「·········はい?」
再開したのも束の間。突然に呼び止められ、袖口を掴まれた俺は歩みをピタリと止めた。そして、振り返ると聖堂で涙を浮かべていた少女の姿がそこにはあった。
この少女の介入で、俺達はまたも道草を食う事になるとは、この時の俺には想像もつかなかった-。