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十一話 回転迷宮


 姉は今日あまり乗り気ではない。基本的に動くことが好きだからだ。

 今日の装備は新素材アンダーシャツとスパッツの上に、黒竜ガンマの皮を加工した胸当て、手甲、短パン。武器は武器スポンサー提供の五十ソードとファイブタイガーの双剣。一方弟はノリノリで気合い充分。いつもの防具にダブルリッチのマント、武器はスマイルAOE、少し短めの刀だ。



 ここは回転迷宮。

 弟がダン調から最近出来た面白い迷宮があると聞きつけ、姉を連れ出した。


「いらっしゃいませーっ」

「らっしゃいっ」


 大声で出迎えてくれるが姉には苦手な部類だ。

 入宮手続きを済ませ入り口正面を見ると、大きなパネルにたくさんの部屋の写真が並んでいた。各写真の内、光っている部屋と光が消えている部屋があった。ここで部屋を選ぶのだ。

 光っている写真の部屋が空き部屋だと言われ、弟が選びそこをタッチすると光が消えた。

 中へどうぞと、通路に入ると脇にたくさんの小部屋がある。小部屋のドアの上にランプがあり、点滅しているのが弟が選んだ部屋だ。

 そこへ二人は入っていく。


 部屋に入ると椅子とテーブル、正面にはベルトコンベアーのような物が動いていた。そのベルトコンベアーを見ていると魔物が流れてきた。弟がすぐ反応し斬り捨てる。ドロップは無し。


 そう、ここは回転寿司チェーンを経営している人が開設した、魔物が回ってくる迷宮である。探索者は魔物を捜し回る必要がなく、また小部屋に別れているので魔物の取り合いもない。一人で探索していても恥ずかしくない。他人の目を気にせずに悠々とドロップ品を集めることが出来るのだ。

 体を動かしたい姉には不評だ。むぅっと口をつぐんだまま椅子に座り、腕を組んで弟を睨んでいる。弟はこりゃ楽だわと楽しみつつ魔物を狩っている。


 日本人は効率的、勿体ないという言葉が大好きだ。魔物を捜し回るのは非効率、時間が勿体ない。他人と魔物のことで言い争いになるのも同じく時間が勿体ない。自分の編み上げたスペルを試したいけれど、人の目があるとちょっと恥ずかしい。三十分だけ探索したい、などの要望をふまえた結果、出来上がった迷宮である。つまりここは日本人特有の日本人しか考えつかないソロ狩り対応迷宮なのである。


「姉ちゃん、楽しめよ。ほらそこにタッチパネルあるだろ? 魔物選べるんだぜ」


 弟の言葉に渋々ながらパネルを見ると、流れてくる魔物を選べるよう魔物カタログパネルがある。この魔物のドロップ品は何だっけと思いながら、高額ドロップ品を落としそうな魔物をタッチした。

 しばらくすると姉の選んだ魔物が流れてきた。立ち上がり斬り捨てるがドロップ品は無し。舌打ちをしつつまた椅子に座る。


 魔物ポップは管理者が任意の場所に設定出来る。手動ではあるが、注文を受けてからその部屋のベルトコンベアーにポップさせている。もちろん注文品以外のフリー魔物も常に流れてきている状態だ。ただそれは先に他の探索者が狩ると自分の部屋まで回ってこないという罠がある。


「まぁ、ここドロップ率は低めだってよ。その分、楽だしいいんじゃね?」


 姉は楽をしたいわけではない。探索して魔物を探し狩る、そしてドロップ品が出れば嬉しい。それを求めているのだ。動き回りたいのだ。これは何か違う。

 姉は考えた、そして閃く。


 弟の横を通り過ぎ、タンッとジャンプしてベルトコンベアーに乗った。そして逆走してその場で足踏みをして走る。魔物が流れてきた……狩る……走る……流れてくる……狩る。

 これだ!


「姉ちゃん、間違ってる。それ違う!」


 弟に引きずり下ろされ椅子に座らされる。何がいけなかったのかと言いたげに睨む。


「ここ! よく読んで!」


 弟が壁に書かれている注意事項を指さす。立ち上がって読む。


『ベルトコンベアーには乗らないでください』


 むぅ、と口をきつく結び椅子に座り直す。



「姉ちゃん、狩らねぇの? せっかく狩り放題にしたのに」


「狩り……放題?」


 回転迷宮のシステムは単品注文と狩り放題がある。単品注文の場合は入宮料無料、魔物一体を狩るごとに少額のお金がかかる。雑魚魔物で百円、大物魔物で五百円だ。三十分注文がないと退宮させられる。

 そして狩り放題は入宮料は高額だが、何体注文しても追加料金無し。ただし二時間経つと退宮だ。

 姉は、なんとか放題という言葉に弱い。貧乏性なので元を取らなくちゃと思ってしまうのだ。

 その言葉を聞いた姉の目が光る。スッと立ち上がりベルトコンベアーの前で構える。


「魔物、呼んでください。高額ドロップ品落とす魔物」


 弟に指示し、苦笑いしながらも姉の為に次々と注文していってあげた。

 どんどん魔物が流れてくる、どんどん姉が狩る。しかしドロップは無い。不機嫌になっていく姉。その内、魔物が流れてこなくなってしまった。首をかしげる姉が魔物カタログパネルを見ると、メッセージが来ていた。


『現在、注文が混み合っております。しばらくお待ちください』


 がっくりと肩を落とし椅子に座った。


「ま、まぁ、俺達だけじゃないからな。ちょっとのんびり待とうや」



 しばらく待つと魔物カタログパネルにあらたなメッセージが来た。


『ただいまよりこの部屋限定、三分間のドロップ率アップタイムです』


 姉の目がカッと見開き、再びベルトコンベアーの前で構える。注文の混み具合は解消されたようだ。

 弟がまた次々と注文する。サクサクと狩って行く姉。


 あっという間に三分が過ぎドロップ品がひとつ出た。丸いカプセルのようだ。姉が初めて見るドロップ品にわくわくしながらカプセルを開ける。中からは小さな紙切れが出てきた。


『狩り放題三十パーセント割引券』


 姉の不満が頂点に達した。カプセルを投げつけ、ジャンプしてベルトコンベアーに乗る。


「姉ちゃん、駄目だって! 降りて!」


「この先を辿ればフリーの魔物ポップ場所があるはずです。そこで狩れば大丈夫」


「大丈夫じゃないって! 怒られるから!」


 弟が止めるが姉は聞かずに全力で逆走していった。


 他の部屋では姉が逆走していく姿を見た探索者が驚いて武器を落としたり、座り込んだりしている。


「ここです!」


 管理室から出ているベルトコンベアーの出発点を見つけた。確かにそこにフリー魔物がポップしている。姉はニンマリと笑い狩り始めた。


 目の前でポップ……狩る……ポップ……狩る。



 管理者が通報により駆けつけ、姉を降ろす。


「あなた達、出禁ね」



 回転迷宮を出ると冷たい風が二人を駆け抜けていく。姉の手を引きながらゆっくりと歩き始めた弟が優しく言う。




「晩御飯、回転寿司にしような」


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