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▲お題に合わせて・ツイノベ・掌編

【三題噺】ある冬の夕刻、浮沈する気持ちを投函しようと思う。

作者: にける

三題噺

お題「公園」「みかん」「電気」3000文字以内



 近所の公園の電気は丸くて、ほんのりみかん色をしていました。

 別に温度が感じられるはずもないのはわかってるのに、気まぐれに手をかざしてみました。

 きっと温かさを期待させる色のせいです。



 アラン模様の白い手袋が染まって、それがとてつもなく優しく見えて、それでなぜか急に心はしんと冷たくなりました。


 手袋のことを嘘つきなんて詰って、それからそんな自分を勝手だなぁと非難します。

 やっぱり、ちっともあったかくなんてなかったから。


 みかん色の電気も、染まった真っ白な手袋も、何も悪くなかったのに失望して、勝手に期待したのは自分じゃないかと心で辛辣に罵ったのです。




 心の内で、かつて何処かで凍えながら朝日に手をかざした時の温もりのことを思っていました。

 当たるところだけほんのり温くなるのは、太陽がちゃんと燃えているからですね。

 信じられないくらい遠い場所で、恐ろしいくらいの熱を発して、燃えているからです。



 気が遠くなるくらい長い間燃え続けている太陽は、温んでほっと生きた心地のした私のことなど知りません。

 知ったこっちゃないんです。


 けれど私の体表を縁取る光線は、私に輪郭と、僅かであっても確かな温度を伝えて、確かにここに私があることを知らしめました。



 朝になると温められた空気が、もやもやと動き始めます。

 それで私はほとんど開き直るような気持ちになって、朝を待つようになりました。

 明日を待つようになりました。




 公園のベンチでは、いつも同じネコが丸くなっていました。

 ネコは耳の動きだけで私を察していることを示します。

 最初は目が会うと逃げ出していたネコも、今では隣に腰掛けても知らん顔をしてくれます。


 腿にネコの尻が触れてほんのり温かい。

 ネコの隣でいると、私は冷たいみかん色の電気を許せるような気持ちになりました。

 温くもないのにあったかい色に染まってしまった、手袋のことも。

 それを嘘つきなんて詰った、勝手な私も。



 そんな私の気持ちなど、ネコは知ったこっちゃないだろうと思いながら、ネコを撫でました。

 ネコは不快そうに耳をくるりとして一瞥し、それでもどこにもいかないで側にいてくれました。

 私はネコの行為を勝手に個人的に解釈して、都合よく幸せになりました。

 側にいさせてくれると思ったからです。



 気分というのはそんな風に気まぐれで、根拠がないものです。

 だから勝手に冷たくなったり救われたり、振り回されるなんてバカらしい。



 しばらくするとネコは、伸びをして行ってしまいました。

 あっさり、太陽が沈むみたいに。



 もう一度みかん色の電気に手をかざし、私は公園を出ました。

 私の心を揺らした、あったかそうな色の電気も、行ってしまったネコも、私のことなど知ったこっちゃなく太古から出ては沈むを繰り返す遠い太陽も、勝手に許し、感謝したりしてごちゃっと胸の内に納めます。



 それからそれらみんなを投函するのにしっくりとくる封筒を選ぼうと思うのです。

 みかん色の手触りの良い封筒を。

 どこかへ放つために。

高速バスにてリハビリ的に。

単なる気分のあちらこちらについてでした。

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