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おまけ 夢想の君ともう一度

ロイドの夢の話です。時系列は本編より数週間前です。

 

「…イド、ロイド、起きて」


 枕元で自分を呼ぶ声がする。高くもなく低くもないちょうど良い高さの声は誰のものだろうか。

 微睡みの中でロイドはゆっくりとその瞳を開けた。


「あ、やっと起きた」


 栗色の髪を結った女性が自分を見下ろして、優しく微笑んでいる。見覚えのある顔に、ロイドは少し驚いた声をあげた。


「…エリン?」

「そうだよエリンだよ。ようやく起きる気になった?」


 確かに目の前にいる女性は幼馴染のエリンだ。何故かそれをロイドは理解している。だが、何かいつもと違う。


(…あ、そうか)


 しばらく考えたロイドは、その違和感に気づいた。

 くるりと丸い栗色の瞳と目を合わせて問う。


「エリン、どうして髪を結ってるの?」

「髪?」


 ロイドの問いに、エリンが目をパチクリと瞬かせる。そして、ころころと鈴の音がなるように口元を押さえて笑った。


「やだロイド、どうして髪を結ってるかなんて、私がロイドの奥さんだからじゃない」


「そんなことも忘れたの?」と幸せそうに浮かべた笑みは、あまりにも綺麗で。思わずロイドは息を飲んだ。

そして、笑ってクッと上がったその頰にどうしようもなく触れたくなって、手を伸ばした瞬間──


「………」


 目が覚めた。


 ロイドはぼんやりと、虚空に伸ばされた自分の手を見る。手の向こう側には見慣れた自分の部屋の光景が広がっていた。窓から入った光が部屋を柔らかく照らしていて、辺りに舞っていた埃がキラキラと輝いている。ピチチチと小鳥のさえずる声がなんだか憎らしい。


「夢……」


 寝起きで回らない頭で、先ほどの夢のことをゆっくりと思い出す。

 何故か枕元に髪を結ったエリンがいて、ロイドを起こして、しかもロイドと結婚していて…


「……っ!」


 一気に目が冴えたロイドは飛び起きた。ぐわっと全身の体温が一気に上がるのを感じる。


 ロイドは幼い頃からエリンのことが好きだ。もちろん異性として。だが、まさかここまでとは自分でも思っていなかった。恋人を飛び越して夫婦になっている夢を見るくらい強く想っているとは。


「………」


 しばらく恥ずかしさから黙っていたロイドだが、冷静になるにつれて、とある思いがムクムクと彼の胸に湧き上がってきていた。


(…もういっかい、見たい)


 目を閉じれば夢の中のエリンが瞼裏にぼんやりといる。だが、それでは足りなかった。


「……寝よう」


 ひとり、小さな声でつぶやく。ロイドはのろのろと上掛けを被り直すと、少し硬めの枕に顔を埋めた。

 もう一度、会えるだろうか。もし、会えたならば今度こそ。

…薄れゆく意識の中で、ぼんやりとロイドはそう思った。







 数週間後に起こることを、彼はまだ、知らない。

ここまでお読み頂きありがとうございました!

以下、蛇足の登場人物紹介です。興味ある方のみお読みください。




登場人物紹介


エリン(16)

栗色の目と髪のどこにでもいる町娘。普段は町の女学校に通っている。割と活発で人見知りとかはしない性格。恋愛に疎く、好きな人を自覚した瞬間に失恋するという恋愛下手さを発揮する。悩むこともあるが、だいたい頭よりも先に身体が動く。


ロイド(18)

金髪碧眼のどこにでもいる青年。普段は町の高等学校に通っている。絵がすごく上手いが、本人は画家になる予定はないらしい。曰く「不安定な収入じゃ奥さんや子供を養えない」とか。エリンのことは子供の頃から好きだった。最近見たある夢のせいでそれが加速して、未来のエリンを絵に描き始めるという拗らせ具合を発揮する。ヘタレかと思いきや偶にグイグイ行ったりもする。

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