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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
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確信



 考えてみれば家から1時間のこの辺りには来たことがなかった。俺は土曜日10時、気合いを入れて早く起きて水口さんが教えてくれた学校の近くに来ていた。その大学は部外者の立ち入りを原則禁止にしているみたいだったから外から眺めるだけにした。もう大学は卒業してるけどもしかしたらここが椿が4年間通った学校かもしれないと思って。そして近くにある公園に行く。地元の人しか来ないという公園とネットに書いてあったように人はあまりいなくておじいちゃんやおばあちゃんが多いと思いながら歩く。噴水がある場所に彫刻や絵画が展示されていた。そこで不思議な感覚がした。


『美術の授業中に突然虫が入ってきたんですけど』


 椿の言葉を思い出す。椿との思い出は全部覚えているけどこんな風に思い出すのは忘れたいと思っていた頃以来だ。椿の話が優しく俺の心に響く。そうだ、椿にかかればなんでも楽しいことに変わってしまいそうな気がしたのもこの時だった。椿の話はいつも楽しかった。それでいつしか俺も同じ時に同じように隣で同じものを見て感じてみたいと思うようになった。

 噴水広場の先には広場があった。ここには小さな子供連れの家族もいてピクニックをしていた。空いているスペースに座ってなんとなく仰向けになる。青い空を見ながらまた椿の話を思い出す。その時風が吹いてふんわり優しい自然の匂いがした。それに椿の隣で心地良くて心が安らぐ感覚がして心が温かくなった。

 そして俺は確信した。椿はここに来たことがある。おかしいな、俺は母さんみたいに涙もろいわけじゃないのに。こんなのかっこいい大人の男じゃないと思うのに涙が止まらなくなった。

 椿がいた証拠があるわけじゃない。椿に繋がるなにかを見つけたわけじゃない。だけど確かにこの公園に椿は来たことがある、それはなぜだか確信が持てた。理由を聞かれても説明できないと思う。ただの直感だ。


「お兄ちゃんどうしたのー?」


 仰向けになったまま目を手で覆っていると小さな男の子が2人俺のそばにいた。起き上がって笑いかける。


「なんでもないよ。2人はなにしてるの?」

「サッカーだよ!!」

「お兄ちゃんもやろうよ!!」

「うん、良いよ」


 俺は少しだけその子たちとサッカーをしてからまた歩く。緑道の途中にあるベンチであの頃を懐かしく思いながら座る。椿はここに来たんだ、この景色を見たんだ、この自然の良い香りを椿も感じたんだろうな、そう目を瞑りながら思う。

 穏やかに椿を感じていたら時間は14時になっていた。最後は花畑だったはず。そこで今度は椿との植物園デートを思い出す。可愛かった。いつも可愛いけど。リラックスして花を見るのを楽しんでる椿の姿を思い浮かべながら歩いて進み、そして駐車場に戻る。

 さあ、次はどこに行こうと思って昼を過ぎてるけどご飯にしようと近くにあるカフェに入った。洋食のメニューが並ぶ中オムライスを頼もうとしたら切らしてしまってると申し訳なさそうに言う優しそうなおばあさん。俺は慌ててカレーにします、カレーも大好きなんですと言った。


「恐れ入ります、ランチを過ぎてしまって。大盛にしますね」

「え、いえ、そんな、良いですよ」

「サービスですから」


 店内はモダンな雰囲気で夫婦とその子供らしき男の人で切り盛りしているみたいだ。人の良さそうなおばあさんはそう言うと厨房に向かった。

 そしてカレーはすごく美味しかった。なんだか優しい味がした。不思議だ。食後にコーヒーを飲んでいるとふと思い付いておばあさんに声をかける。


「ちなみにここって大学生もよく来たりします?」

「ええ、来ますよ。そこの大学の学生さんが」

「椿って黒髪の女の子知りませんか?」

「さて、1日にたくさんのお客さんが来ますし名前を知ってる子もいませんし」

「で、ですよね」


 それはそうだ。偶然椿がこの店に来ていておばあさんとも顔馴染みだったらなんて、そんな偶然があるわけないよな。


「ああ、けどあそこの学生さんはみんな落ち着いてて礼儀正しくて良い子たちなんですよ。今の若い子たちはあんまり好きじゃないと思うんですけどそこの子たちはこぞって近くの古本屋に遊びに行ったりしてここで読んでいってますね」

「古本屋……どこですか?」


 椿は本が好きだった。古本が好きだとは聞いたことないけどそんなに多くの学生が行くならそれに影響されて椿も行ったりしたかもしれない。いや、俺。そもそも公園に行ったと確信できたけどそこの大学にも通っていたかどうかはわからないだろう。けど可能性はある。古本屋にも寄ってみよう。

 そして古本屋の90才くらいのおじいちゃんに椿のことを知っているか念のため聞いてみたけど知らなかった。だけど古本屋の独特な匂いを椿も感じたかもしれないと思ったら胸が高鳴った。

 あとは大学だ。その大学だってもしかしたら椿が通っていたかもしれない。


「ということで翔太くん、これに行こう。俺はどうしても椿の母校である可能性が高いこの大学に行かなきゃいけないんだ」

「……オープンキャンパスー?僕まだ高2なんだけどー」

「良いじゃない。あなたのんびりしてるんだから今から行ったって。1年生でいく子もいるって聞いたわよ」

「佳代子さんの言う通りだよ。翔太くんの進路選択のために!!」

「嘘じゃーん、隼人くん最初に椿ちゃんの母校に潜入するにはこの方法しかないって言ったじゃん」

「頼むよ、翔太くん、いや、翔太さま。高校生の翔太さまにしか頼めないんだよ。ね、お願い!!」

「んーでもーこの日軽音楽部のライブがあるんだよね。8月でも良いなら良いよー」

「本当に!?やったー!!ありがとう!!」


 これで椿の母校である可能性が高いあの大学の中に入ることができる。古本屋を出てから車に乗って帰る前にこの大学のホームページをもう一度改めて見てみた。そしたら7月、8月のオープンキャンパスで高校生とその保護者なら大学内に入れることがわかった。保護者じゃないけど兄ポジションでいけば問題ないだろうと思ってそのまままっすぐ竜二さんの家にお邪魔してリビングにいた翔太くんにオープンキャンパスに行こうと頼み込んで見事行けることになった。


「でも隼人くん、大学見に行ってどうするの?眺めるの?」

「それもあるけど進路だよ、進路。椿が別の場所に就職してあの場所から遠く離れちゃってるかもしれないでしょ。地元に戻るって可能性はないけど。昴もそれは教えてくれなくてね。だから進路で卒業生は県内で就職してるのかとかどんな業種の職業につくのかとかだいたいで良いから聞きたい。見つけるヒントがあるかもしれないからね」

「えーそうかなー?そうなの母さん」

「良いじゃない。小さなヒントでも見つかるなら手がかりになるわ。頑張ってね隼人くん」

「ありがとうございます」

「ねー私も隼人くんとお出かけしたいんだけどー」

「洋子ちゃんはまだ中学生だからね。今度遊ぼうね」

「ねえ隼人くん。なんでも良いんだけどー話聞く人に椿ちゃんのこと聞いたりしないでね。怪しいと思われるから」

「さすがにそこでは聞かないよ。個人情報を教えてくれないだろうし。ちゃんと遠回しに聞くから」

「まあ良いかー」


 ついでに夕食もご馳走になった俺は良い気分で家に帰る。

 シャワーを浴びてリビングに戻ると携帯がメッセージを受信していた。見るとメアリーから。メアリーはついこの前携帯を買ってもらえたみたい。いろいろ制限があるけど。例えば電話は月に1回15分だけとか。向こうはまだ早朝だろうと思ってメッセージを送ったら電話がかかってきた。


『もしもし隼人ー!!』

「今大丈夫だったの?」

『平気よー!!』

「そっか。コンクール入賞おめでとう」

『ありがとう。けど入賞よ。優勝じゃないわ』

「でもすごいよ。写真もありがとう」

『可愛かった?』

「もちろん。ドレス可愛かった」

『ドレスが?』

「ドレス姿のメアリーが可愛かったよ」

『ありがとう!!』


 メアリーからのメッセージには昨日あったバイオリンのコンクールの結果が書かれていた。3位入賞という結果に残念がっていたけどそれでもすごい。一緒に送られてきた写真も可愛かった。


「若菜も小さい頃は普段着でああいう服を着ていたよ。母さんたちの着せ替え人形みたいにね。全然可愛くなかったけど昴はそれを見てお姫様だと思ったみたい。びっくりだよ」

『昴には素敵なお姫様に見えたのよ。最近は実家に帰ってるの?』

「年末年始に帰ったよ。けどゴールデンウィークはバスケのクラブチームの合宿に付き添うことになったんだ。だから一昨日帰れないって連絡したら母さんがまた拗ねたよ。当日に言うなって言うから事前に教えたのに事前に言っても駄目じゃないか。まったくもう」

『あらあら、隼人のママは相変わらずね。隼人に会いたかったのよ』

「そんなことないよ。最近は自分でもう頼まれても行ってあげないんだからって言ってるよ。あと用事もないのにメッセージ送ってくるなって言ったら用事があるから送ってるのにって騒いで煩かったよ」

『昴には電話してるんだからママにも電話をしてあげたら良いのに』

「母さんは面倒だから嫌なんだよ。ちゃんと食べてるのかとか、ちゃんとベッドで寝るのよとか」

『隼人が心配なのよ』

「面倒なんだよ。ああ、母さんの話なんてどうでも良いんだ。昴に話したら若菜に邪魔されるかもしれないしうんとも違うとも言ってくれないだろうから言わないんだけどね、今日椿が来たことがあるって思う公園に行ったんだよ。上手く説明できないんだけどピンときたんだ。椿がここに来たことがあるって。すごく嬉しかった」


 俺は今日の公園での不思議な体験をメアリーに話す。


「椿が隣にいる感覚がしたんだ。穏やかで幸せな感じ。いつものじゃなくて本当にいるような気がして気のせいかもしれないけど椿の匂いもしたよ。ドキドキするけど心がじんわりと温かくなって」

『そっか、良かったわね』

「うん、椿には会えないままだけど幸せな時間だったんだ」


 15分という制限時間があるからそのあと日本語勉強中のマーガレットとジョンの話やついに来年に決まったおばあちゃんとおじいちゃんの1年間里帰りの話をした。







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