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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
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新入社員の2人



「有名ブランド攻撃が酷い」

『大変だねー』

「親父は長財布、関さんはアタッシュケース、村岡さんは鞄、昇さんは腕時計、木村さんは二つ折れ財布、小林さんはなぜか傘……箔がつく箔がつくって自分で買うって言ってるのにじゃあ一緒に買いに行こうってもう1ヶ月以上続いてるよ。しつこいな……それにしても小林さんのチョイスって不思議なんだよな。なんで傘?」

『なににしようって迷ってたから傘ならコンビニにも売ってるから高くても1万円くらいだろうって思ってうっかりうんって言うかもしれないって教えてあげたよ』

「昴……お前なに加担してるんだよ」

『いやーみんなの隼人くんになにかしてあげたい合戦面白くって』

「楽しまないでよ。あと若菜に言ってないだろうね」

『服もだったけど高級品を買っても別に若菜気にしないと思うよ?』

「いや、馬鹿にしてくるに決まってる。ムカつくから言わないで」

『はいはい。言ってないし言うつもりもないよ』


 4月になって俺は社会人2年目。職場には2人の新入社員が加わって結構良い感じ。仕事は順調だけど先月竜二さんと眼鏡を買ってから親父やみんなから有名ブランドの雑貨を買ってあげる攻撃が止まない。

 竜二さんがあの後みんなに俺が眼鏡を壊しちゃったっていうからどこそこのブランドの眼鏡を買うように勧めたら買ってくれたよ、大人の男としての箔がつくって言ったらカードで支払っててあの小さかった俺がって感動した、と一斉にメッセージを送ったそうだ。なんでこんなに詳しくわかるのかと言うと昴が月曜日に聞いて小林さんにそのメッセージを見せてもらって俺に教えてきたからだ。


「母さんも面倒なんだよ。大切にしていた眼鏡が壊れちゃったなんて可哀想に、お母さんが慰めに行ってあげても良いのよって。もう新しい眼鏡を買ったから気にしてないよって言ったら親父みたいなこと言って可愛いんだからって。なんでだ?なんで親父はかっこいいのに俺は可愛くなってしまうんだ。俺はかっこいい男にならないといけないのに」

『だから美香さんは隼人くんがなにを言ってもなにしてても可愛いと思っちゃうんだってば。ちゃんと隼人くんはかっこいいよ』

「本当に?」

『本当だよ。だからそろそろ消耗品くらい自分で買ってよ。仕事も落ち着いてるんだから忘れないでしょ』

「えーそれとこれとは話が別でしょ」


 去年仕事を始めてからドタバタしていた俺は真夜中に食器を洗っていて洗剤がないことに気が付いて昴に買ってきてと電話したらしい。寝ぼけてて覚えてないけど。でもそれで実家にいた時みたいに夜中とか早朝に行けるはずないでしょと言う昴に俺はじゃあ買ってくるタイミングを教えてと言って電話を切った。そしてしばらくしたらそろそろシャンプーがなくなる頃かと思ってと最寄りの駅に着いたタイミングで電話が来た。よくわからなかったけどそのままスーパーで買って家に帰るとちょうどシャンプーがなくなっていた。お前はエスパーなのかと言ったら僕もなんでわかるのか不思議だよと返ってきた。やっぱり昴は俺の一番の理解者だな、この調子でよろしくと言ってそれがずっと続いている。


『自分で買ってこれないとか坂下さんが知ったら幻滅するんじゃないかなー』

「言わなきゃ良いんだよ」

『言っちゃおうかなー』

「昴、お前同棲始めたからって調子乗ってるんじゃないか?そんなはったりが俺に通用するわけないだろ。椿に俺のことはなにも話さないんだろうが」

『ふーんだ。いつか言うもんねー』

「あーあー考えておくって言ってたけど深夜に電話するの止めるのやめよう。若菜とイチャついてるとこ邪魔するの楽しいしー」

『ちょっと!!前向きに検討するって言ったのに!!』

「気が変わった。じゃ、また今度ね」


 なにか言ってる昴を無視して電話を切った。そして1時になる前に眠りについた。




 朝7時に起きてコーヒーを飲んでから支度をして家を出る。とにかく寝る時間を確保しないと疲れが取れないと思って起きる時間も朝ご飯を食べないのも変わらない。むしろこれに慣れてしまって用意するのも食べる時間も寝る時間に費やしたいと思ってしまう。母さんは煩いけど。

 就業開始9時の30分前に会社につくと新入社員の2人、大森くんという男の子と水口さんという女の子と津田さんが来ていた。いつもと変わらない穏やかな朝に安心する。この3人が入ってから忙しいのは変わらないけどかなり仕事がスムーズだ。まだ4月だから研修期間で来月から大森くんは俺に、水口さんは津田さんについて営業先に向かうから始まったばかりだけど2人ともすぐに慣れると思う。大森くんは字が大森じゃなくて大盛だなって感じの体格の大きい男の子で性格は少しおどおどしてるところもあるけどおおらかで礼儀正しい。水口さんは見た目はふんわりしてるんだけどハキハキしててきびきびとしていてなんとも頼もしい。女の子が入って喜んだ牧野さんにまとわりつかれても休憩時間なら付き合ってあげてるけど仕事中はピシャリとはね除けてる。

 部長もまともな人で良かったと安心している。だけど俺は大森くんがこっそり俺に確認しに来て休憩室の冷蔵庫にアイスを入れて毎日帰る前に食べているのと水口さんがあの触れられなかった羽田さんの好きなアニメの話で羽田さんと話して意気投合しているのを知っているからこの2人も変わってると思ってる。結局ノーマルなのは俺と津田さんだけですよ部長、と思っていると水口さんたちの話が耳に入る。


「なので奨学金返済しないといけないんですよねー」

「そうなんだー。僕……じゃなかった、私の友達にも貸与型の奨学金で大学通ってる人いたよ」

「私が通ってた学校地方から来てる子も多くてその上奨学金もあったり大変そう。ちなみにこの会社って残業代とかって出るんですよね?」

「ちゃんと出るから大丈夫だよ」


 水口さんの言葉に反応した俺は慌てて3人のそばに駆け寄る。


「水口さん!!」

「へ!?ど、どうしたんですか?」

「佐々木さんが慌ててるの初めて見ました……」

「結構わりとあわてふためいたりするよ。好きな子の話で特に」

「ねえ!!その友達の中に坂下椿って女の子いない!?」

「い、いませんけど」

「本当に!?同じ学年にその名前の子は!?大森くんも!!」

「いないと思います」

「えっと、えっと……私の大学にもいなかったはずです。学部が違ったら知らないかもしれないですけど」

「……そっかー」

「どうかしたんですか?」


 そういえば2人は椿の同級生ってことになるんだから知っているかもしれないと思ったけどそう都合よくはいかないか。でもちょっと、いやかなり期待した。落ち込んでいると津田さんが水口さんの問いかけに代わりに答えた。


「佐々木さん好きな子を追いかけて遥々来たらしいよ。探してるんだって」


 俺の地元を聞いた水口さんが驚く。


「佐々木さんってすごい一途なんですね」

「大学の卒業アルバムがあるんですけど探してみましょうか?他の学部にいるかも」

「あ、それなら私卒業アルバム買ってないから友達に見せてもらいますよ!!坂下椿さんですね?」

「ありがとう。そうだよ」


 なんて良い子たちなんだ。若菜と同い年とは思えない。





 そして後日大森くんと水口さんにいなかったと聞きまた落ち込んだ。


「学費免除じゃなくて奨学金でって可能性もあるよね。奨学金って返さないといけないんだよね」

「もらえるものもありますけど私みたいな貸与型だったら自分で返さなきゃですね」

「返済するの大変なんだよね」

「そ、そうですね。なんか佐々木さんいつもと違いません?」

「彼女のことになるとこうなるみたいなんだよね」

「返済に困ってたらどうしよう。あー代わりに払ってあげたい。学生時代に貯めてた貯金も親父が密かに俺が使ってなかったお年玉貯金してたり収入だって大手商社の営業だから結構稼いでるし。あ、いっそ椿が他の人と付き合ってたらそこをアピールして……」

「佐々木さん、それはアピールポイントになり得るけどそこで惹かれるとは思えないですよ、今までの坂下さんの話聞いてる限り」

「で、ですよね。ここに来て金にものを言わせるなんて。いろいろ駄目です。今のはなしで」

「なんだか佐々木さんもおかしな人ですね」

「うん、いつもみなさんのこと変な人たちって言ってるのに」

「なんだか一番まともな人って津田さんだけな気がします」

「そうかな」


 ああ、椿が学費免除の特待生で通っていたか給付型の奨学金で通っていますように。


「あ、そうでした、佐々木さん。私の学校はないんですけど特待生制度で1年間学費全額免除とかあるところがありました」

「佐々木さん、きっとそれです。そうだと思いましょうよ」

「え、それで大丈夫なんですか……?」

「そうですよね、借金に苦しんでないですよね」

「……大丈夫なんですね」

「そうだ、佐々木さん。私の友達の友達の知り合いに佐々木さんの地元から来てる女の子がいた気がします」

「え、それ遠い……」

「試しに聞いてみましょうか?あ、今携帯大丈夫ですか?」

「良いよ!!就業前だから!!聞いて!!」

「……さくらって子でした」


 肩を落とす俺に津田さんが言う。


「惜しいですね、佐々木さん。花違いです」

「うー……」

「あ、でもさくらって子の知り合いの知り合いの知り合いに椿って子がいたようないなかったようなって」

「もうそれ他人……」

「名前はわからないし誰の知り合いだったかもわからないけど偏差値高い私立大学に通ってたらしいです。あ、ここですよ」


 水口さんが携帯で見せてくれたのはその大学のホームページ。


「見てください。特待生制度1年間学費全額免除。それに成績次第でそのあとも半額免除になるみたいですね。きっと多分おそらくここですよ、きっと」

「わかった。週末行ってくる」

「行くんですねー……」

「というか大森くん、あなた意外とツッコミなんだね」

「え、そ……そうかな?」

「その調子で自分の個性を出してみよう。そしたら営業の仕事にも生かされると思うよ」

「が、頑張ります」




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