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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
95/136

実家へ



「おかえりー……」

「た、ただいま」


 なんだあれは。8月中旬木曜日、俺は夕方に実家に帰ってきた。玄関を開けて家に入るとリビングから顔を覗かせてくる母さんがいたけどとりあえずスルーして2階に少ない荷物を置いてリビングに行く。


「あれ?なんで親父も?仕事は?」


 まだ6時だから仕事から帰ってこれない時間のはずなのに親父がいた。


「早上がりしちゃった」

「しちゃったじゃないよ、駄目な社会人だな。まさか昴に仕事を押し付けたんじゃないだろうね」

「僕もいるよー。一緒に今日どころか今週のノルマこなしてから帰ってきたんだよ」

「なんだ、昴ももう来てたの?」

「ふーん、意地悪な隼人くんが4時には着くって言うから2時間前からいるよーだ」

「たった2時間でしょ。だいたい4時頃って言ったんだよ」

「お?おおお?仕事はできる期待の新人じゃない」

「いったいな……なんだよ優菜さん」


 リビングに入ってきた優菜さんに背中を勢いよく叩かれた。


「背後から攻撃なんて卑怯だ」

「卑怯ねー?ゴールデンウィーク初日に帰れない報告してくる方が卑怯だと思うけどー?」

「連絡するのちょっと遅れただけでしょ」

「楽しみにしてたのー!!」

「わっ、もう暴力的なんだから」


 黙っていた母さんがいきなり叫びだして突進してきたから避ける。


「疲れてるんだから攻撃してくるんじゃなくて労ってよ。昨日出張から帰ってきたんだよ」


 海外にはまだ全然いけないけど国内の出張は何度か行っている。それでも朝早く起きて車を運転してここまで来たんだ。


「俺は偉い。なんて親孝行なんだろう」

「メッセージも返してくれないし電話も出てくれないし隼人なんて嫌い!!」

「あー本当?やったね、じゃあもうしつこく連絡してこないでね」

「むー!!なんて意地悪なのー!?」

「ちゃんと食べてる?仕事なんてほどほどにしなよ。倒れちゃうよ」

「もう親父も煩い。食べてる食べてる」

「隼人くん朝ご飯食べてないよね」

「朝食べない人なんてたくさんいるよ。それになにも口にしてないわけじゃないよ、コーヒー飲んでる」

「佳代子さんに朝ご飯「あー良いってば、余計なことしないで」」


 親父が携帯を触りだしたから慌てて止める。


「ちゃんとやってるから大丈夫だよ。それに佳代子さんにはお惣菜わけてもらったりしてるから」

「例のごとく約束は守らないしレスポンスは遅いしそんなんでよく仕事ができるわね。仕事は、よくできるわね」

「もう、そんなに強調しないでよ。仕事だけじゃないでしょ。あーあ、歓迎されてないから明日行く予定だったけど村岡さんのとこ行こうかな」

「えー駄目よ!!今日は家族でって言ったもの!!」


 リビングから出ていこうとすると母さんが腕にしがみついてきてべりっと剥がす。


「まったく、騒がしいんだから。彩華さんたちいつ帰ってくるの?先飲んで良いよね、飲むよ」

「19時に帰ってくるけど先に飲んで良いよ。はい」


 親父にビールを注いでもらって半分くらい飲む。


「あ、そうだ。お土産だよ。椿を探しに行った時の。ピヨピヨ」


 お土産にしようと買って持ってきた鳩の形をしたお菓子を昴に向ける。


「鳩はピヨピヨ言わないよ」

「冗談だよ。それよりこれを買う直前に椿が好きそうな場所を見つけたんだよね」

「えーん……」


 苦笑いする昴に渡しながら話していると母さんが泣き出した。


「なんで今泣くの?ほんと意味わからない」

「だって隼人が可愛いんだものー……」

「嬉しくない」

「赤ちゃんの時にヒヨコの帽子かぶってみた時みたいー」

「そんなのかぶったことないよ」

「あるのよー……」


 俺は呆れながらティッシュを母さんに渡す。


「隼人くんありがとう」

「ん」


 なぜか急に機嫌が良くなった昴を不思議に思っていると優菜さんがお腹空いてるなら食べて良いよと言ってきたからそういえばパーキングエリアで朝だか昼だかわからない時間に食べたきりだと言ったらすぐに母さんがビーフシチューを出してきた。


「隼人くん最近は落ち着いてるの?」

「7月よりはね、でも忙しいのは忙しいよ」

「そうなんだ」

「昴はどうなの?親父に迷惑してるでしょ。すぐに昇さんに言うんだよ」

「大丈夫だってば。琉依さん仕事早くて完成度も高くて本当にすごいんだから。そばで見られてすごく勉強になるし面白いし楽しいよ」

「それなら良いけど。じゃあこのまま就職するんだね」

「んーでもなぁ……縁故で就職するのってなぁ……それが悪いっていうわけじゃないよ?でも周りの友達が就活で大変そうにしてるのに良いのかなーって」

「それは「昴ー!!」親父なに?煩いな」


 昴の正面に座る親父が急に立ち上がった。


「こんなに立派に育ててあげたのに!!小さい時から一生懸命頑張ったのに!!」

「る、琉依さん……頑張ったから他の会社でもやっていけるくらい僕も技術を身に付けたんだけど」

「そんな!!ここまで頑張ってあと少しだったのに!!」

「昴、どうして琉依さんと一緒に働きたくないの?」

「み、美香さん……だからそういう問題じゃないんだけど」

「昴にうちにきてほしいんだよ!!」

「そ、それは社長たちにも言われてるからわかってるって」

「すばるー!!ずっと琉依さん昴と働くのが夢だったのよー!!どうしても嫌なのー?」

「わかった、わかったよ。美香さん泣かないで。別に嫌ってわけじゃないから。就職するよ、社長に聞いてみないと本当に良いのかわからないけど」

「駄目なんて言うわけないよ!!やったね!!」

「良かったわねー!!琉依さん!!」


 俺は黙ってご飯を食べながら思う。なんだこれ、なんなんだこの茶番は。ワインを飲んでから呟く。


「……飼い犬に手をかまれるって言うのかな?」

「馬鹿ねぇ、琉依兄必死すぎ……」

「母さんも全然親父の考えわかってなくて馬鹿だし」

「ほんとねぇ……」


 優菜さんと同時にため息をつく。

 しばらくそのまま親父と母さんの茶番劇を眺めていると早番だったという若菜が文句を言いながらやってきて喧嘩をしてそれからまた少しして彩華さん、一輝さん、浩一さんが帰ってきた。





 そして翌日、俺は村岡さんのところに行って美織と遊んだら関さんのお店と向井さんのお店に行ってそのまま帰ることにしていたからまた母さんを振り切って車に乗った。




「美織ー!!」

「はーくん!!」


 村岡さんの家にお邪魔して美織を呼ぶとすぐに反応して歩いてきた。


「美織ー!!歩くの上手になったねーすごいすごい!!」


 目の前まで来た美織を抱き上げると前よりも重くなっていて成長を感じる。


「隼人くんいらっしゃい」

「沙織さんこんにちは」

「こんにちはーこんにちはー」

「そうだよ、こんにちは」


 美織は言葉を話すのが好きみたいだ。俺たちが話す言葉を繰り返したり最近はあれはなにこれはなにとずっと話してるそうだ。

 俺の名前はまだ上手く言えないみたいだけどそれもまた可愛い。村岡さんも沙織さんも美織の前で俺のことを話しまくるから覚えるのも早かった。


「美織の最近のブームは絵本なんですよ」

「じゃあ俺が絵本を読んであげて良いですか?」


 村岡さんとそう話していると美織は読んでほしい絵本があるみたいで俺に教えてくれてソファーに座って読んであげた。


「美織はお姫様が好きなの?」

「すきー」

「そっか、可愛いね」


 美織もお姫様に憧れるんだな、女の子はそういうものなんだと思っていると美織は絵本の王子様を指差す。


「はーくん!!」

「王子様は俺?ん?お姫様は美織……?ねえ沙織さん!!まずいですよ!!」


 俺は慌ててのんびり村岡さんとお茶してる沙織さんを呼ぶ。


「どうしたんですかー?」

「これはパパのお嫁さんになりたいっていうやつですか!?」

「えーまだそう言う時期じゃないと思いますよー?」

「そうですよ。ただお姫様が好きっていうのと王子様が隼人くんに似てるっていうことが言いたいだけだと思います」

「そうですか?そうなの、美織?」

「はーくん!!」


 確かに絵本の王子様は金髪碧眼ではなく茶髪で茶色の瞳をしている。美織に問いかけると村岡さんが言う通りと言うようにもう一度王子様を指差して俺の名前を呼んだ。


「ふー安心した。美織は大好きだけど美織をお嫁さんにはできないから」

「はーくんすきー」

「そうだ、椿が美織と会ったら絶対に椿も美織のことが大好きになるよ」

「つー?」

「つばき、だよ」

「つー……きー」

「うんうん、椿も美織のこと可愛いって言うよ」

「みおかわいー?」

「可愛いよ。椿も可愛いって言ってくれるよ」

「だーれ?」

「椿は俺が世界で一番好きな女の子だよ」


 俺は椿の話を美織にする。絵本じゃないけど美織は楽しそうにちゃんと聞いてくれた。


「つーちゃんもみおのことすき?」

「絶対好きになるよ」


 椿がどんな女の子かわかるように最初に椿に似ているお姫様が出てくる絵本を持ってきて話をした。話している途中に美織がたくさん質問をしてきたから結構な時間が経ってしまったけど。


「つーちゃんどこー?」

「今探してるんだよ。美織も椿に会いたい?」

「あいたーい」

「早く美織にも会わせてあげたいな。頑張るね」


 椿と美織が会ったら可愛い同士でとびきり可愛い化学反応が起こりそうだ。美織は椿に興味を持ってくれたからこれからも椿のことを話してあげようと思いながら少し時間が遅れてしまったけど関さんのお店に寄った。


「どうだった?オーダーメイドで作ったスーツ」

「ぴったりですよ。すごく軽くて肩がこらないです」


 俺は半ば強制的に関さんのお店のサイトでオーダーメイドスーツを頼むことになった。そしたらここまで来なくても家で受け取れるからと。そのスーツを着て仕事をしている。


「お、でもだいぶ凝ってるよ」

「もー親父と母さんのせいですよ。短時間で疲れました」


 さりげなく肩を揉んでくる関さんに親父たちの文句を言って、ここを押すと和らぐよと教えてもらう。


「そうだ、マッサージ機をプレゼントし「やめてくださいね」そうだよね」

「みんななんでもすぐ買おうとするんですから……」

「ごめんごめん。隼人くんだって美織ちゃんになんでも買ってあげたくなるでしょ」

「まぁそれもそうですね」


 そして美織が今日も可愛かったと話したあと向井さんのお店に行ったら事前に連絡していたから向井さんが来てくれて勧められるままに服を買って帰った。



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