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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
社会人編
94/136

営業の仕事はハード



「昴……なんでこうなっちゃうんだろ」

『なんでだろうね』


 7月のとある金曜日、俺は仕事から帰ってきてソファに横になって昴に電話をしている。


「朝から夜まで息つく暇なく毎日毎日走り回るは週3で接待はあるは金曜日は毎週日付が変わってから終わって土曜日は夕方に起きてそこから掃除に洗濯日曜日は休日出勤かバスケ……いったいいつ椿を探せば良いのー!!」

『大変だねー慣れてくれば上手く立ち回れるんじゃないかな』

「いつ慣れるんだよー!!」

『もうすぐだよ。頑張りなよ期待の新人なんでしょ』

「仕事押し付けられてるだけな気がする!!きつねに!!」

『上原さんって人でしょ』

「飄々として調子よく俺に仕事振ってきてただでさえ忙しいのに!!」

『ってか隼人くんが商品の勉強しなきゃとか時事ネタに詳しくないと接待で話せないとか真面目過ぎるから余計に大変なんじゃないの?根詰めすぎなんじゃない?』

「だってそうしなきゃいけないんだよ。できる男にならないと」

『それで坂下さん探せないって……。まあでもいきなり支社の中で営業成績トップになったんでしょ?さすが隼人くんだね』

「うう……せめて通勤時間が半分の30分になれば……眠い」

『あーはいはい、じゃあ今日はもう寝なよ。で、明日こそ夕方になる前に起きて坂下さん探しに出掛けなよ。リフレッシュにもなるだろうし』

「んー……じゃあねー……」


 電話を切った俺はそのまま腕を降ろす。眠りにつく直前携帯がメッセージを受信してぼんやりする目でそれを見ると昴から今日こそベッドで寝ないと疲れとれないよーときていて寝ぼけながら寝室に行きそのまま倒れて眠りについた。




 翌朝目が覚めて時計を見ると針が12時を指していた。


「12?夜?昼?」


 俺は起き上がってカーテンを開ける。


「昼だ!!明るい!!なんて絶好の椿探し日和なんだ!!」


 げ、またスーツのまま寝てた。仕方ない。俺は急いでシャワーを浴びてから洗濯機を回して朝食兼昼食のトーストをコーヒーと一緒に食べてから洗濯物を干し掃除をしてアロハシャツを羽織りヘッドフォンを首にかけて家を出る。

 車に乗るとちょうど14時になった。


「やったやった、椿を探せる。いつ振りだろ」


 入社してから毎日毎日ドタバタしていて全然気が休まる時がなかった。休日出勤する時もあるけど日曜日にバスケをして教えながら体を動かしているから発散できてるけど一人暮らしは休みの日に作りおきしてないと平日に作ってる時間がないからバスケクラブに行ったあとはご飯を作らないといけない。土曜日は……それにしても昨日だか今日だかに昴と話した気がするんだけど気のせいかな?そう思って信号で車を一時停止させた時携帯を見てみると履歴が残っていた。やっぱりだ、先週は知らないうちに智也に電話してたしその前は拓也に電話してた。何を話してたか全然覚えてないけど。

 とにかく想像以上に営業の仕事はハードだし親父も母さんも毎日のように連絡してくるから本当に勘弁してほしい。誕生日に来ていたメッセージに3日後に返事をしたら拗ねられたしゴールデンウィークも帰れなかったから煩かったし、仕事だって言ってるのにどうしてわからないんだ。まったく……。

 仕事は面白いし充実してるけど日中外回りしてるから帰ってきて残業して資料を作ったり見積書を作ったり、5月までみっちり先輩営業についていたからできるのはできるけど量が多くて敵わない。それに加えて週3回は上司や取引先と飲みにいかないといけない。ただ飲むなら良いけどいろんな人に気を使って話をしたりしないといけないから大変だ。俺に仕事を教えてくれた人、上原さんが教えてくれた通り休憩時間や通勤時間、寝る前にネットサーフィンをしたりタブレットで新聞を読んだり本を読んだりして話についていけるようにしているけどそれもかなりハードだ。それに加えてというかこっちも重要なんだけど、商品の知識を覚えないといけないからパンフレットを読みこんだり担当者や上原さんに話を聞いたりしたことをまとめたり、家に帰ってもそうしているうちに夜中の3時になっていて慌てて眠って7時前に起きてコーヒーだけ飲んで家を出るというのが俺の平日のサイクルだ。初めはわからないことが多いからバタバタしてるけど徐々に慣れていくよと上原さんには言われるけど俺はすでに椿を探しにいけないストレスで限界だ。

 この上原さんというのは5年目のベテラン。俺が配属されたのは本社に一番近い支社でかなりきついことで有名らしい、主に部長が。営業部長は確かに仕事に厳しいけど聞きたいことを質問したら時間を作ってくれるしすごく優しいんだけど上原さんの下の人たちはみんな辞めてしまったそうだ。

 だから仕事は多いのにそれに対して人が少ないから覚えないとって言われて俺にばかり押し付けられてしまう。きっちり期日までに終わらせられるし先月の営業成績はいきなりトップになって上原さんにはやっと骨のある新人が来てくれて助かったよ、この調子でどんどん働いてね期待の新人君と調子の良いことを言われてしまった。そんなこんなで働きづめであっという間に7月になってしまった。


 俺は前から行こうと決めていた公園にたどり着いて眼鏡を外して車を降りる。車を運転する時に必須なこの眼鏡にすっかり愛着が湧いてしまった。通勤も仕事中も電車移動だからバスケクラブに行く時くらいしか最近は車に乗っていないけどいつ椿にこの眼鏡をかけた姿を見てもらえるかわからないから綺麗に磨いていたら自然と愛着が湧いてしまったんだ。

 来たのは穴場スポットだと言う花の咲き誇る公園。本当は5月に来たらバラの見頃だったんだけど今でもたくさんの植物が咲いている。花の香りを楽しみながら歩く。椿もこの景色を見たかな。椿ならバラの咲いてる時期に合わせて来るかも。事前にどこがお勧めなのか調べたりして、それでそこのトンネルをバラを見ながら潜るんだ。……ストップ、なんて絵になるんだ。可愛すぎる。俺は椿の姿を思い浮かべて衝撃を受ける。バラと椿……素晴らしいコラボレーションだ。

 俺は椿と一緒にトンネルを潜りしばらく歩くとベンチがあった。すぐ隣で椿が俺に笑いかけてくれる。なんてことだ。周りのどの花より美しく可愛らしい。椿は可愛い。俺は目を瞑って椿との時間を楽しんだ。



 そして夕方家に帰ると4月からたまっていた鬱憤が消え去っていた。夜ご飯にオムライスを作って食べて椿にすごいと思われるように頑張ろうと本を読む。

 気付いたら夜の1時になっていた。そうだ、昴に聞こうと思っていたことがあったんだった。


「あ、もしもし昴、あのさ」

『隼人くん……なんでいつもいつも夜中に電話かけてくるの昨日も』

「そうだった?ごめん今思い出したんだよ」


 電話をかけると不機嫌そうな昴が出た。


「あ、わかった。若菜とイチャついてたんでしょ?来年までもう少し待ちなよ、そんなにがっつく価値もないけど若菜なんて」


 どうやら昴は大学を卒業したら若菜と同棲するらしい。今でもすぐ近くにいるだろうに、と思うけど2人だけで生活してみたいそうだ。なんていかがわしい。


『もう、煩いなー。そんな話なら切るよ?』

「ごめんごめん。でね、来月夏期休暇だって休みもらったんだ」

『え!?本当?やったー!!いつ帰ってくるの?どれくらいいられるの?』

「それが椿を探そうか家に帰ろうかどうしようと思って。母さん5月に帰らなかったからいまだに怒ってるし」

『……何日休みもらったの?』

「2日。木金って。だから4連休なんだ」

『じゃあ木曜日と金曜日帰ってきて土日に坂下さん探せば?』

「そうだね、そうするよ。母さん煩いからね。あ、そういえばまたメッセージ返すの忘れてた。明日でいっか。ああ、もう今日だね。じゃあ今日もバスケクラブがあるから切るよ」

『隼人くんのばーか』

「え、なん……切れちゃった」


 また反抗期かな。一方的に切られてしまったから携帯をベッドに置いていつもより良い気持ちで眠りについた。





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