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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
大学生編
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マンション



 また月日は過ぎて10月初め。あのあとみんなに試験対策をしてもらい筆記試験を通ったあと翌週に面接をして最終的に2社のうち川口さんが勧めてくれた方に決めた。シラン商事という総合商社で国内にも海外にも拠点がある大きな会社だ。先日内定式もして100人いる同期と少しだけ交流した。

 そして無事に就職先が決まった俺は7月までで終了になった家庭教師のバイトを辞め、8月から塾講師のアルバイト1つになった。一人暮らしすることになって家賃を下げてくれるという竜二さんに甘えさせてもらったものの生活費とか諸々お金も必要だからバイトはむしろこれまでより増やした。月曜から木曜までフルで入り金土日は椿のところに行く。と言っても往復してるとお金も時間もかかりすぎるから月に1度だけ電車で行ってる。泊まるのは安いビジネスホテル。ここでも親父たちが世話を焼きたがったけど新生活に必要な家具で手を打った。やたらとでかいテレビとかやたらと高性能な炊飯器を買われそうで怖い。椿を探しにいかない日は美織と遊んだり高校生の時に行っていた小学校のバスケクラブにたまにだけど行ってる。あの頃見ていた湊たちが今ではチームの主体になっていて不思議な感じがした。すごく久しぶりだったけどみんな俺のことを覚えてくれていてすぐに打ち解けた。というのも湊のお母さんたちと母さんとの交流は今でも続いているから話を聞いていたらしい。

 肝心のマンションだけど、今日これから見に行くことになっている。普通こういう時は別の部屋を見るものだと思うけど竜二さんの親戚が住んでいるということで元々綺麗にしていたから出掛けてる時に自由に見て良いよと言われてしまった。ちゃんとハウスクリーニングした後の空き家もちょうどあるからそっちも合わせて見たらどうかと言われてすごく申し訳ない気持ちになったから荒らさないでささっと見させてもらいますと連絡した。

 そういうわけだから引っ越しの内見に必要だというメジャーとメモ帳を持って来た。内見とはちょっと違う気がするけどネットで調べてこれが普通だというならやらないとと思った。


「竜二さん、宜しくお願いします」

「メジャーなんて俺がサイズとか教えたのに」

「いえ、やりたいんです」

「そっか」


 最寄りの駅で待ち合わせをした竜二さんと話しながら歩いてマンションへ向かう。


「そこにスーパーがあるからだいぶ便利だよ。自炊するんでしょ。偉いね」

「偉くないです。するものだと思って教えてもらってたらおばあちゃんとおじいちゃんに親父は外食だったって聞いてちょっと後悔しました」

「琉依は食べることに無頓着だったからね。パソコン弄ってて朝から夜までなにも食べてないとかもあったよ」

「え、そうだったんですか?」

「外食だとは言ってなかったでしょ」

「そういえばそうだった気も……」

「美香ちゃんがお弁当作ってくれる時は喜んで食べてたし美香ちゃんが美味しそうって言うお店に行ったり、昔はそんなだったよ。知り合いに飲食店やってる人もたくさんいたからね、さも普段からよく行ってます風に。でも昔の話だよ」

「へぇーそんな時があったんですね。って、騙してるじゃないですか」

「俺たちの共通用語、嘘も突き通せば真実になる」

「そういえば親父たちの話聞いてると全然健全じゃないですよね。ナンパ勝負したり」

「若かったね」

「俺はそんなことしないですよ」

「あはは、そうだね。俺たちが馬鹿だった。ああ、ここだよ」

「……わーどこかの高級ホテルみたいですね」


 すごくお金持ちの人が住んでいそうな高層マンションを見上げる。予想はしていた。


「中は普通だよ。一人暮らしだから充分だと思う」


 そう言いながらオートロックを開けて中に入るとやっぱりホテルのフロントみたいなエントランスだ。


「本当に普通なんでしょうね。普通って言うのは竜二さんの普通じゃなくて世間一般的な普通のことですよ?」

「大丈夫大丈夫。高級が嫌いな隼人くんの嫌がるとこに住まわせるわけないよ」

「高級が嫌いってわけじゃないんですけど」


 そしてエレベーターに乗って7階に行き3つめのドアで止まる。


「ここだよ。さ、入って」


 竜二さんに促されて中に入ってみる。


「あれ?なんだか普通な気がする……」

「だから言ったでしょ」


 普通の玄関に普通の廊下、うちと同じような感じにほっとする。大理石とかじゃなくて良かった。

 そのままリビングに入るとそこもうちのリビングと同じくらいの大きさ。


「あ、でも一人暮らしのマンションって考えるとやっぱり普通じゃない気も……」

「良いと思うよ。将来椿ちゃんと住むかもしれないでしょ」

「は……それもそうですね。カウンターキッチンで椿が料理しているところを見る……最高ですね」


 俺は椿とここで生活する想像をする。


「でしょ。2LDKだけどそれを考えたらやっぱりこれくらいあった方が良いよ」

「そうですね。すごく良い感じです」


 俺は持ってきたメジャーであらゆるところのサイズを測りながら他の部屋も全部見せてもらってしまった。


「調子に乗って本当に隅々見ちゃって良かったんですか?」

「平気平気。ここで友達呼んで泊まりでパーティーとかもしてたからそれと同じだよ」

「そうなんですね。それにしても綺麗ですね」

「ちなみに掃除してもらうサービスがあるんだけど」

「そういうことですね。コンシェルジュ……はいなかったはずですけど」

「いないいない。そういうのもあるから言ってくれれば手配するよってだけ」

「良いです。なにもしなくて良いです」

「そう言うと思ったよ。荷物の宅配ボックスがあるとかは普通のマンションでもよくあるから使って。多分琉依とか送ってくるだろうから」

「ああ、それはそうですね……。それは使わせてもらいます」


 そして俺は竜二さんと別れて椿を探すことにした。昴に聞いてからあの中華街で上手くいけば見つかったかもしれないのにと少し落ち込んだ。就職先が決まってさすがに若菜に昴に聞いたことがバレたけどそれでも広くて見つかりっこないよ、運命だったら中華街に行った時に見つけられたはずだと言われてさらに落ち込んだけど若菜を罵倒したら少し清々した。

 中華街を始め観光地や、穴場スポット、もちろん椿の好きそうな公園や庭園も探す。見つからないけどここのどこかにいる、近くにいると思うだけで心が落ち着く。早くこっちに住みたいな。そしたらずっと椿のそばにいられるのに。

 卒論を提出した俺は年明け1月の中旬に引っ越すことになっている。こっちに来たらシラン商事で研修がある。それに参加しながら4月まで竜二さんに紹介してもらった塾講師のバイトをしながら椿を探す予定。

 今年最後のイベントは12月に行く智也と拓也とのスキー。これが大学の卒業旅行というものになるんだろう。

 と、思っていたんだけど11月、相澤から突然の結婚宣言がメッセージで届き急遽12月に早めの結婚祝いと同窓会をすることになった。俺たちが高校3年の時の1、2年にも声をかけ男女含めて総勢30人。レンタルスペースなるものを女子たちが借りたそうだ。



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