就職活動
「川口さん川口さん!!」
「はいはーい佐々木くん?あ、足治ったの?良かったね」
「ご心配をおかけしました。で、今日はこの辺りじゃないんですけど就職先を決めるの手伝ってほしいんです!!」
俺は月曜日の朝から大学のキャリアセンターに来た。急かすとはいはいと言いながら川口さんがノートパソコンを持って出てきてくれて椅子に座る。
そして俺は椿がいる場所で就職したいことを話す。
「またずいぶんと遠いところに行くんだねー。あんまりいないんだけどちょっと探してみるねー。職種は?」
「営業で」
「商社?メーカー?」
「商社で。調べてみたんですけどこういうとことかこれとかそういうの」
俺は休みの間に調べたサイトを携帯で見せる。
「なるほどねー……こういうとこって業績とか厳しいんだよねー。まずは支社に行かなきゃとか実績積まないと海外出張行けないとかー」
「はい。それでも自分がどこまでできるのかやってみたいんです。もちろん支社から本社に行きますしトップの成績を収めて海外にも出るつもりです」
「佐々木くんならできると思うけど大変だよー。でも佐々木くんが仕事の荒波に飲まれてクタクタになってるとこちょっと面白いかも」
「拓也みたいなこと言わないでください」
「ごめんごめん。ちょっと待っててー」
相変わらず仕事が早い川口さん。これで昨日締め切りのものを忘れたり堂々とサボらなければ上の人からもガミガミ言われないだろうに。川口さんは最初からよくわからない人だ。初めて会った時のことを思い出す。もう卒業だなんてなんだか早い気がする。いろいろあった大学生活だったな、と思っていると川口さんがいくつかプリントした紙を見せてくれた。
「全部上場企業で大手だよ。実力主義で実力があればどんどん仕事を任せてもらえる。僕的にはここはお勧めかな。ギスギスしてなくて実力主義って言ってもちゃんと上の人が下の人を育ててどんどん業績を上げてってる。僕の知り合いも営業じゃないんだけど働いてるんだ。ああ、それはこことここもなんだけど」
「川口さん……どこまで顔広いんですか?」
「いやー親戚がいるって言うのもあるし旅行が好きで社会人旅行同好会に入ってるんだけどいろんな場所に住んでる人たちとSNSでやりとりもするんだよ」
「そういうものなんですか?」
「そうだよ。今どき普通だよ」
「普通なんですか。あ、そしたらこことここ良いかもしれないです」
「うん、じゃあエントリーシートメールで送るから一緒に考えよっか」
「ありがとうございます」
そうして俺は川口さんに教えてもらいながらWebでエントリーシートを入力して企業に送った。
「一旦これで待っててくれる?」
「はい」
「メールが来るからチェック忘れないでね」
「大丈夫です。これが決まらないと始まらないので」
「例の女の子だね」
「そうです」
「そっかー。初めて会った時と顔つきが全然違うよ」
「椿がいるからです」
「そっかそっかー。じゃあ連絡来たら教えね」
俺は川口さんにお礼を言って部屋を出た。そして図書室に行く。筆記試験があるからその勉強をしたり企業のことを調べたりしてみた。試しに竜二さんに連絡してみたら知ってると言っていろいろ教えてくれた。竜二さんにはグルじゃなかったけどこっち側だってことは知ってたのにごめんねと謝られてしまった。とんでもない、マンションのこと本当に良いんですかと返したらばっちり年明けにでも住めるようにしてるよと言ってくれた。周りに恵まれてるとつくづく思った。と、そこで母さんに言ってなかったと思い出す。土日は塾講師のバイトに行ったあとすぐに調べものをするために家に帰ってこもっていたし。絶対不機嫌になってそうだ。今日は花束を買って帰ろう。遅くまでやってる花屋はあるかなと調べたり卒論をやって智也と拓也と合流してバイトに行って花屋に寄って家に帰った。
「母さん、はい」
「ふえ?わーい!!今日はなんでもない日!!」
「そうだね」
「わーい!!なんでもない日のプレゼント!!」
リビングにいた母さんにピンクのバラの花束を差し出すと両手を上げて喜んだ。
「可愛い!!ありがとう!!」
母さんは単純だなと思いながら俺は言う。
「知ってると思うけど椿の住んでる所に行くよ」
そう言うと母さんは泣きそうになったけど泣かないで頷いた。
「遊びに行って良い?」
「それは駄目」
「えー!?どうして!?」
「だって仕事で疲れてるのに母さんの相手なんてごめんだよ」
「酷い!!じゃあ隼人に会いたい時はどうしたら良いの!?隼人も寂しいでしょ!!」
「全然」
「なんでー!?」
「来ても良いけど仕事のない日は椿を探してるから母さんの相手なんてしないよ。適当に勝手に観光でもしてて」
「それじゃあ意味がないわ!!そんなの嫌ー!!」
「じゃあ来ないでよ」
「プンプン!!もうしらないんだから!!お母さんが恋しくなっても行ってあげないんだからね!!」
「それは絶対ないから大丈夫」
「わーん!!意地悪!!隼人が意地悪するわ琉依さん!!」
そばにいた親父は優しく笑って言う。
「毎日電話するのは良いでしょ」
「えーせめてメッセージにしてよ」
「隼人電話の方が好きでしょ」
「それは電話の方が楽だから。でも忙しいのに電話で時間とられるのは困る」
「毎日メッセージを送ってたまーに電話をするのは良い?」
「面倒だな」
「良いでしょー?」
「わかったよ。煩いな」
「やったね、美香」
「そうね琉依さん!!」
「そうだ、明日と明後日また料理を教えて。怪我してる間はできなかったから」
「わーい!!良いわよー!!朝も昼も夜もずっと教えてあげる!!」
「昼は良い。昇さんの所に行くから早めに出て外で食べるから」
「なんで昇!?」
親父が慌て出す。
「今日エントリーシートを送った会社から金曜日に会社説明会と筆記試験をするって連絡が来たから行くんだけどそれに通ったら後日面接もあるでしょ。昇さんに面接の練習お願いしたら明日の昼過ぎなら良いって言ってくれたから」
「なんで!?聞いてないよ!!」
「親父が帰ったあとの時間に連絡したから」
「えー!?昇に電話する!!」
親父は慌てて携帯を操作し始めて母さんは楽しそうに聞いてくる。
「どんな会社なのー?」
「総合商社」
「なんのお仕事なのー?」
「営業。ってか母さんに仕事の話してもわからないでしょ」
「むー!!そんなことないわよ!!」
「隼人隼人!!その模擬面接酷いよ!!」
「なにさ」
少し離れて電話をしていた親父が携帯を持ったまま駆け寄ってきた
「昇も小林くんも木村くんもいるって!!」
「知ってるよ?役員面接かもしれないからそれっぽくしてくれるって。やっぱり仕事に支障あるの?」
「僕もやる!!」
「えー嫌だよ。なんで親父が模擬面接するの」
「やらせてくれないと仕事しないって言ったら良いって!!」
「昇さんごめんなさい……」
こうして明日も厄介なことになりそうだなと思っていると携帯に次々とメッセージが届いた。木村さんと小林さんから明日宜しくねとか関さんと村岡さんから自分たちも試験対策に付き合ってあげるとか、竜二さんからは一番に頼られてるってみんなに言ったらバッシングされたよ、とか。苦笑いしながらみんなに返事をした。
そして翌日、スーツを着て親父の会社に行く。9階建てのビルの3階にたどり着いて電話をした。
「隼人くーん!!」
すると出てきたのは昴だった。
「昴、お前こういうこともするの?」
「今日は特別だよ!!隼人くんを出迎えて案内する係に任命されたんだよー」
「なにそれ……」
「さ、こっちだよ」
昴についていって歩いているとちらほらと声が聞こえてきた。
「本物の隼人くんだ」
「生隼人くんだ」
「ありがたやありがたや」
小声で昴に話しかける。
「ねえ昴、本物とか生とかなに?拝まれてる気もするんだけど」
「琉依さんたちが隼人くんのことばかり話すからね。それに琉依さん今日の午前中だけで今週中に終わらせようとしてた仕事全部終わらせちゃって大助かりだよ。隼人くん様々だね」
「変なの……」
そしてドアの前に立つ。
「ここだよ。もう初めから模擬面接だって」
「わかった。ありがとね」
仕事に戻ると言う昴を見送ってからドアをノックする。向こうから昇さんの声がしてドアを開けて中に入る。覚えた通りにして椅子に座る。椅子の前には昇さんと小林さんと木村さんとニコニコして気持ち悪い親父がいた。
昇さんはちゃんと名前はとか聞いてくれて答えた。
「尊敬している人は誰ですか?」
親父がニコニコしながら聞いてくる。俺は冷静に答える。
「父の知り合いで貿易会社の社長をしている神崎竜二さんです」
「尊敬している家族は誰ですかー?」
納得いかないんだろう、続けて質問してくる親父にもうあとで仕切り直そうと思った。
「彩華さんです」
「他には?」
「……父です」
親父は分かりやすく喜ぶから俺は続ける。
「馬鹿なのに仕事はできるところが尊敬します」
「そうでしょう!!僕今日がん「おーい、もう良いか?」」
昇さんが遮る。
「ごめんね隼人くん、やり直そう」
「もうやっぱり琉依さん邪魔だよね!!」
小林さんと木村さんの言葉に頷いてもう一度部屋の外からやり直すことにした。そしてまた部屋に入ると親父は口をガムテープで止められていて苦笑いだ。事前に用意されてたんだろうな。だけどそのおかげでスムーズに進めることができた。
帰りに俺の部屋なるものを見たいと言ったら昴が来てくれた。
「ここだよー。見て!!隼人くんの手形!!隼人くんの秘蔵写真!!」
「昴……いつもガラス張りなの?」
元々俺のものなんだから持ち帰っても良いだろうと思っていたけど鍵のかかったケースに入っていた。
「なんでこんなに厳重なの?」
「お宝だからね。昇さんが金庫の鍵と一緒に保管してるんだよ。持ち帰ろうと思っただろうけどそうはいかないよ」
「あ……そう」
それならもう良いや。変な会社だなと思いながら会社を出た。




