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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
大学生編
83/136

社会科見学



 アメリカに来て4日目、今日は関さんと会う日。お店があるという場所の近くの駅で待ち合わせだ。時間ちょうどになると携帯に着信が入る。


「もしもし」

『隼人くん右』

「え、右?」


 関さんからで、言われるままに顔を右に向けると車の前に関さんがいてそばに行く。


「こんにちは。車ですか?」

「レンタカーだからね」

「あ、そうなんですか?」


 関さんはアメリカに家や車を持ってるのかと思ったけど違った。


「そうだよ。さ、乗って」

「あ、はい」


 車に乗ると一息つく。と、あることに気付く。


「電話以外で久しぶりに日本語で話してます」

「ずいぶん自然に馴染んでるみたいだね。どう?アメリカの生活は」

「だいぶ楽しいです。いつもは母さんとか優菜さんとか若菜とか、騒がしくて鬱陶しい人たちがいるからですかね。そのストレスがない分楽です」

「そっか。でもこっちで浮気してるんだって?」

「え!?なんですか!?してないです!!」

「若菜ちゃんに似てるっていう子」

「なんだ、メアリーのことですか?メアリーは違います。おばあちゃんだって浮気にならないって言ってたので安心して可愛がってるんです。父親になった気分です」

「多分その子は違うと思うけどね」

「まだ6才ですからないですよ。けど昨日の夕方にメアリーに父親になった気分だって言ったら俺みたいな父親は嫌って言われてしまいました。道のりは遠いですね」

「へぇ……。隼人くんってやっぱり面白いね」

「え、俺面白いキャラじゃないんですけど」

「まあ良いや。良いと思うよ、苦労したら」

「苦労……?」

「はい、着いたよ」

「あれ?もう着いたんですか?」


 着いたそこは日本より少し小さめの店舗だった。


「なんだか思っていたのと違います」

「まあ来てごらんよ」


 お店の中に入るとお客さんと店員さんが数人いた。


「ここはショールームなんだよ」

「ショールーム?」

「そう。オーダーメイド専門の。実際に注文するのはインターネットでね。でもどんな質感なのかとか試してみるためにここがあって。それから店舗でも簡単にタブレットから注文できるんだ」


 関さんは近くにあったタブレットを見せてくれた。


「オーダーメイドなんて高そうで難しいイメージがつきやすいけどこれなら簡単だよ。案内に従って入力するだけ。店舗では店員がサイズを測ったりサンプルを見せてくれたり、あんな風にね」


 ちょうど接客しているところでそれを眺めてみる。


「でも、普通のサイトでも同じようにできるからわざわざお店に来なくても良いんだ。こいつがちゃんとお客さんの好みに合わせてアドバイスもするからね」

「これはなんなんです?」


 タブレットに映る茶髪のスーツを着たアニメキャラみたいなのを指して聞く。


「彼はハワードだよ。サイトを作った時に入社してきたんだ」

「……という設定のキャラクターなんですね。ちなみにこのシステム作ったのは……」

「琉依だよ」

「ですよね」

「察しが良いね。さすが隼人くん」

「だってなんとなく俺に見えないこともないし名前もどことなく似てるし」

「大丈夫。ハワードのおかげで着々と広まってるんだハワードさまさまだね」

「……すごい似てるってわけじゃないしまあ、良いか。それで?ファッションショーはいつなんですか?」

「へ?ないけど」

「え?ファッションショーがあるから連れてくって言ってたじゃないですか」

「言ってないよ。それってショールームの間違いじゃない?それからこのあとにパーティーに一緒に来てよって言ったんだけどそれ忘れてた?」

「……ん?そう言われてみるとそんな気がしてきました。パーティーなんてわちゃわちゃしてめんどくさそうだなって思った覚えがあります」

「なんとなくなんでそう変換されたのかわかったよ。まあ良いか。それじゃあこれに着替えてくれる?」

「ええ?なんですか?」

「これを使ってオーダースーツを作ったからぴったりなはず。それ着てパーティー出てくれればあとは好きにして良いよ。普段から使えるからバイトにでも着ていってよ」

「え!?またそんな無駄遣いを!!この前くれたばかりじゃないですか」

「あれは成人式とか披露宴とか特別な時用だから」

「そりゃあんな悪目立ちするスーツを普段から着れないですけど」

「良いから良いから。で、パーティーまでまだ時間があるから社会科見学だよ」

「はい?」


 俺はわけがわからないまま着替えをすると関さんの運転でスーツの生地を作ってるところとかデザインをしているところとかいろんな場所を見に行った。行く先々で関さんの普段見ない顔を見て改めて仕事ができる男の人ってかっこいいなと思った。


「さて、そろそろ良い時間かな。隼人くん仕事だよ」

「え、今度はなんですか?」

「隼人くんは俺の横に立ってるだけで良いんだ、簡単でしょ。で、そのスーツの着心地とか聞かれたらちょこっと答えてくれたら嬉しいな」

「……宣伝のために呼んだんですね」

「いやー、勉強になるかなとか職業選びの参考になるかなとかいろいろだよ」

「まあ、でも興味深いと思いましたしそれくらいなら良いです」

「ありがとう、隼人くんなら良いモデルだと思ったんだよ」

「……」

「あー隼人くんのためになることができて良かったよー」

「いや、良いですけどね」

「良かった良かった。あ、そうだ、それから先に言っておくけど俺の下の名前宗一郎って言うから」

「そうなんですか?なんで今?」

「だって隼人くん俺らの名字とか名前とか普段と逆の方聞くといちいち反応する傾向にあるから」

「そ、そんなことないですよ。なんだか馬鹿みたいじゃないですか」

「面白いなってだけだよ。けどパーティー会場で初めて聞いて誰のことだろうってなったら一旦中断しなきゃでしょ」

「しないですけどね。でも宗一郎さん……なんだか不思議な感じですね」

「あんまり呼ばなくて良いよ」

「嫌なんですか?」

「ほら、関宗一郎ってSSでしょ。小さいみたいで子供の時はちょっと嫌でね」

「そうなんですか?……竜二さんといい関さんといい、なんか嫌って多いですね」

「別に今はそこまで気にしてないんだけどね。日本じゃ名字しか知らない人も多いし」

「そういうものなんですねぇ」


 そしてパーティー会場に入ると俺は関さんに言われた通り、むしろそれしかしないぞと思いながら関さんの隣にいてたまに英語で着心地を説明するというのを繰り返した。






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