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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
高校生編
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会えないなら


 そのまた翌日水曜日、昼休みは人が多いと思った俺は授業の間の10分休憩から動いた。といってもその時間に行っても時間がない。見るだけだと決めていた。だがしかし、なんで今日に限ってクラスメイトにノートを見せてくれ、ここがわからなかったから教えてくれと捕まってしまうんだ。

 仕方ないと、昨日と同じく昼休みに3階へ上った。よし、3組までもう少しと2組に差し掛かった時後ろから俺の名前を呼ばれて振り返った。


「谷本先生、こんにちは」

「佐々木が1年の階にいるなんて珍しいな。結城に用事があるのか?」

「ええと……まあ、そんな感じです」

「あ、そういえばお前に話があったんだよ。ちょっと良いか?」

「ええ。良いですよ」


 全然良くない!!と内心思いながら谷本先生についていった。3組から離れて一番端の社会科の準備室につれてこられた俺は先生に言われるままにキャスターのついた椅子に腰掛けた。


「生徒会のことなんだが」

「その話は先日お断りしましたよ」


 谷本先生は生徒会の顧問で俺は去年からことあるごとにこうやって生徒会に入ってくれと頼まれてきた。もちろんそんな面倒なことはしたくないから毎回断っている。


「そうか。やっぱり駄目か?」

「何度お声かけいただいてもお返事は同じですよ」


 俺は困った顔をして答える。早く切り上げて椿の所に行きたい。


「そうか。佐々木なら適任だと思うんだけど、生徒会長」

「俺にはそんな大役務まりません。それに部活で副部長も任されていますし」

「そうかー。いやー残念だな」

「そこまで俺のことをかっていただけているというのは嬉しいですよ」

「はあ。お前は本当にできたやつだな」


 ふと先生の机の上に目を向けると"SHRでの連絡事項"と書かれたメモが貼ってあった。


「先生ってクラス担任もしていたんですね」

「知らなかったのか?まあ、先生も多いとわからないか。そうだよ、1年3組。佐々木の従妹がいるよな」


 1年3組!!なんという偶然!!俺は興奮を表に出さずに答える。


「そうでしたか。従妹は昔からヤンチャで、先生にもご迷惑をかけているでしょうね。すみません」

「いやいや、まあ少し困ることもあるが……小西の友達に坂下って生徒がいるんだけどな、そいつが佐々木みたいに真面目で良いやつなんだ。だからいつも助かってるよ」

「そうなんですね。良い友人に恵まれたようで良かったです」


 これはチャンスなのでは?昼ご飯を食べてから来たから残り時間はあとわずか。もう今日も諦めて間接的に椿の話を聞こうと思った。


「高校時代にできた友達は一生の友達になりやすいからな」

「そうですね。それで先生、若菜はどんな迷惑をかけているんですか?今度よく言って聞かせます」

「そうか?でも迷惑というかなー、さっきも言ったがその坂下がいるから助かってるんだよ。ああ、そうだ。この前も授業中に寝てる小西を起こしたら先生の授業がつまらないから寝ちゃうんだ、先生が悪いって言ってきて」


 あの馬鹿若菜め。そこは素直に謝って事なきを得ないと長々と説教されるというのがわからないのか。これだからあいつは馬鹿なんだ。


「だけど後ろの席の坂下が小西に注意してくれてな。そしたら小西が、思ったことを言ってなにが悪いんだって言うから先生が怒りそうになったんだけどな、坂下が先生の授業はわかりやすくて面白くて私は好きだなーって言ってくれて。先生は感動した。小西も坂下がそう言うならちゃんと聞くって言ってくれてな。小西も思ったことをなんでもはっきり言うのは良いことなんだけどな」


 はは、と笑う先生に俺は従妹がすみませんともう一度言いながら思う。やっぱり若菜は椿に迷惑をかけてる。なんてやつだ。それになにより、やっぱり椿はすごく良い子だ。俺でも退屈だと思う谷本先生の授業をわかりやすいと言うなんて。先生に気を使ったんだろう。心優しい女の子だ。ますます魅力的だ。


「おっと、もうこんな時間か。結城に用事があったんだったよな。悪かったな」

「いえ。昴にはいつでも会えますから大丈夫です」

「そうか。じゃあ先生は次の授業の支度をするな」

「はい。失礼します」


 俺は準備室から出てすぐに自分の教室に戻った。結局またしても会えなかったが収穫はあったから良しとしよう。





 そしてその日の放課後、練習の途中で招集がかかり顧問が話し始めた。


「明後日の練習試合のことだが「練習試合?」先週から言ってるだろうが」


 練習試合と聞いて思わず聞き返してしまった。と、同時に閃いた。会えないなら呼び寄せれば良いのではないか。そうだ、向こうからきてくれれば会えるじゃないか。絶好のチャンスだ。


「先生、佐々木のことは放っておいて大丈夫です。話を続けてください」

「そうか?まあ木下が言うなら良いか」


 しかしどうやって誘おう。いや、それは昴に誘ってもらうに決まってるんだが。いきなりバスケの練習試合に来てくれと言って来てくれるだろうか。バスケがなによりも嫌いだと言われたらどうしたら……。いや、よりにもよってそんなことはないだろう。

 そう考えてる間に顧問の話が終わった。練習に戻る俺のそばに木下が走ってきた。


「佐々木、今の話聞いてた?」

「聞いてたに決まってるだろ」

「だって考え事してるみたいだったよ。じゃあなんて言ってた?」

「参加チームが増えたって話だろ」


 続けて顧問が話してた内容をつらつらと話していく。


「俺は考え事をしててもいくつも同時に話が聞けるんだよ。それに答えるか聞かなかったことにしてスルーするかは別だけど」

「……さすがだね。で、考え事の方は?」

「会えないなら向こうから来てもらえば良いんだと」

「ああ、昨日の彼女の話?なんか佐々木っぽいね」

「そうか?」

「自分が行くんじゃなくて相手に来させるんでしょ?」

「俺を極悪人みたいに言うなよ?俺はできうる限りの努力はしてる。で、どうにも会えないから来てもらうだけだ」

「そう。ならいいけど練習試合に呼ぶなら気をつけて。いつも通り女の子たちの応援団がすごいだろうから」

「あーあれ?あれって山崎先輩のファンじゃなかったのか?」


 俺は試合に毎回来る女たちを思い出す。引退した前の部長山崎先輩は明るくて熱いちょっとめんどくさいタイプの人だったがみんなから慕われていて、なによりイケメンだった。だからファンがいて、試合があると山崎先輩を見るために試合会場に大勢の女たちが集まっていた。もう引退したからそれもなくなって清々すると思ってた。


「本気で言ってる?あれの8割りは佐々木目当てだよ」

「そうだったのか。それで、なんでそれに気を付けるんだ?ドラマみたいに修羅場になるとか言うなよ?従妹のせいで修羅場になるのは確実なんだからこれ以上の厄介事はごめんだ」

「そこまでじゃないとは思うけど。少なくともあの場にいる彼女たちは興奮してるから少し離れた方が良いんじゃないかと思っただけ。俺の友達が隣に座っててうちわが当たりそうになったって呆れてたから」

「それは即刻注意しろ。椿に当たったらどうするんだ」

「椿ちゃんって言うんだ」

「お前は椿を名前で呼ぶな」

「ごめんごめん。じゃあ名字は?名前呼ばないと話しにくいよ」

「坂下椿だよ」

「坂下さんね。はいはい、じゃあ練習再開ね」


 そして練習が終わって帰宅して夕飯を急いで食べると引き止めようとする母さんをスルーして部屋に入る。昴に電話をかけると2コール目で発信音が途切れた。


『もしもし。今日はどうしたの?どうせ坂下さんの話なんだろうけど直接関われないって言ったでしょ』

「わかってる。そういきなり冷たいこと言うなよ。ちょっと頼みがあるんだ」

『だから無理だって』

「昴、お前はなんの他意もなく若菜を週末の練習試合に誘えば良いんだ」

『なに?練習試合?土曜にあるっていう?』

「そうだ」

『え、絶対行かないよ。だって若菜だもん』

「そうだろう。で、そこで椿を誘うんだ」

『そういう話か……。隼人くんも強引だね。会えないからって相手を呼びつけるなんて』

「おい、お前も木下みたいに人聞きの悪いことを言うなよ?他に方法がないんだから仕方ないんだよ」

『そうかなー。でも坂下さんだって興味ないと思うけど』

「聞いてみないとわからないだろ。どうにかして誘え」

『そのどうにかの部分は作戦ないの?』

「昴が考えろ」

『っていうかやるって言ってないし。この前も言ったけど若菜にバレたらヤバいって』

「いずれバレるんだからいつバレても同じだろ。あいつが椿から離れないならあいつがいる状態でも話さないといけないんだから」

『なんか吹っ切ってるし……』

「昴、お前最近若菜が昼間は椿にベッタリだから夜這い待ちなんだってな」

『なにそれ!?って絶対そんな言い方してないでしょ。美香さん辺りが僕が毎日若菜が夕飯食べにうち来ないのって聞いてるって話しただけでしょ』

「どっちでも変わらないだろ」

『変わるよ!!いかがわしい言い方しないで!!』

「まあ仕方ないよなー。前は昴に会いたいからってほぼ毎日昴の家に来てたのに今じゃ椿にべったりだもんな。あれ?これはチャンスじゃないか?俺が椿と付き合えば若菜はお前の元に戻ってくるぞ」

『そんなこと言っても無駄だよ。若菜が嫌がりそうなことはしたくない』

「……お前なあ。嫌がりそうっていってもわからないだろ。案外協力的かもしれないぞ。それにそんなに執着してるなら俺と椿が結婚したら若菜は椿と家族になるんだ。あの単純思考のあいつが喜びそうだろ」

『なにも始まってもないのに結婚って……。でも喜びそう』

「それと、昨日俺は初めて相談事ってのをしたんだけど」

『え、隼人くんが人に相談?』

「ああ、木下に。そしたら自分で考えもしなかったこととか知らなかったこととかいろいろ聞けて参考になったっていうか。で、その時に俺は悩みなんて無さそうであっても自力で解決しそうだって言われて気付いたんだけどそういえば今まで家族に不満があってイライラさせられることはあっても悩むことではなかったし勉強もスポーツも難しかったことは1つもなかったし、椿のことでどうしようかって悩むのが初めてだって思ったんだ。全然会えなくて上手くいかなくて戸惑ってる。上手くいかないことなんて初めてだ。けど木下の言うように自力で解決しようとは思ってない。なぜか自然に木下に相談してたから。木下の話は参考になったし聞いてもらってありがたいと思った。けど木下と昴は違うだろ?昴はもうずっと昔からの仲だし、俺のことを誰よりわかってくれてると思ってる。だから昴が客観的に見てどう思うのか知りたい。一度だけ椿と引き合わせてくれないか?それで若菜が嫌がってどうしようもないって言うならもう昴はなにもしなくて良いから」

『……』

「昴?聞いてるか?」

『あ、ごめんね。やっぱり変わったね』

「キャラ変はもう自覚した」

『やだなー。メルヘン脳にシフトしたってだけじゃないよ。去年外で僕たちみたいに接する友達ができたって聞いた時もびっくりしたけどそれ以上にそこまで隼人くんが心を許す相手になってたのにもびっくり。それに自分がこうだって思ったら梃子でも動かなかったのに他人の意見を素直に聞き入れるなんて僕たちでもレアなことなのに。良いチャンスというよりもうすでに坂下さんに会って良い方向に変わってるんだね』

「つまりなんだ?貶されてるのか?」

『ううん、褒めてるの。良い傾向だなって』

「実験じゃないんだぞ。貶してないなら馬鹿にしてるのか?」

『だから違うってば。上手くいくかわからないけど誘ってみるよ』

「本当か?」

『うん。えっと、もし上手く誘えたらどうしたら良いの?』

「もしじゃなくて絶対誘え」

『え、だって坂下さんに用事があったらどうするのさ』

「キャンセルさせるんだよ」

『ひぃ!!やっぱり横暴だ』

「できなかったらあのがらくた集めた缶ごと捨てる」

『それは勘弁して!!』

「じゃあやれ」

『やります!!』

「よし。で、当日はできるだけ女の集団から離れた席に椿を座らせろ。どうやらあれは俺のファンで凶暴軍団らしい。椿が怪我したら大変だから若菜でも隣に座らせておけ」

『今まで知らなかったんだ……。僕が隣に座るね』

「で、試合は夕方まであるから1試合だけ見たら帰って良い。若菜も暇で早く帰りたいってごねるだろうからな。それで帰る前に体育館の裏、道路側の裏口わかるだろ?そこに3人で来てくれ」

『うん。わかった。明日誘うから夜に連絡するね』

「頼んだぞ」

『はーい』







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