アメリカ旅行の始まり
「はやとー……」
「……なに?」
「はーやーとー」
「もう!!煩いな!!邪魔!!」
「ひどーい!!」
ここは空港のロビー。今日から1週間アメリカへ旅行だ。アンナおばあちゃんたちが来るのを椅子に座って待っていると母さんが俺の腕にすがり付いてきて鬱陶しくてイライラしていたけどついに爆発した。
「邪魔なんだよ!!昨日の夜から!!最近じゃ泊まりも普通になったのになんでそんなに鬱陶しいんだよ!!」
「むー!!そんなに怒らなくても!!いつもは1日だけじゃない!!1週間なの!!しかもアメリカ!!」
「いつもと変わらないだろ!!」
「変わるわよ!!ねえ琉依さん!!」
「変わるね。全然違うよ」
親父は一応空港内だから大人しくしてるけどさっきまで本当に大丈夫かな、やっぱり着いていこうかなと煩かった。
「あらあらどうしたの?」
「お義母さーん!!隼人が酷い!!」
と、そこにおばあちゃんとおじいちゃんが来た。母さんはおばあちゃんに突進していく。
「隼人が1日日本でお泊まりするのと1週間アメリカに行くのは同じだって!!酷い!!全然違うのに!!」
「隼人駄目よ。心配しているお母さんに酷いこと言っちゃ」
「鬱陶しいんだよ」
「ひどーい!!」
「あらあら大変ね。大丈夫よ。私がついてるもの」
「そうね!!お義母さんがいるもの!!」
「おじいちゃんが一緒に来てくれて良かったよ。おばあちゃんだけじゃどうなるかと思った。剣道の合宿大丈夫だったの?」
「隼人と旅行だから断った」
「良かったのかな。毎年恒例だったんでしょ?」
「もうそろそろ辞めようと思っていたところだから」
「そうなんだ」
おじいちゃんは毎年夏休みの時期に昔から通ってる剣道の恒例行事の合宿に教えにいっている。仕事を辞めてからもほとんど毎日稽古をしているそうだ。関さんが来るタイミングに合わせて日にちを決めたからちょうどその合宿とかぶってしまうと思っていたけど旅行に付き合ってくれることになった。
「なーに?おばあちゃんだけじゃ嫌だったの?」
「おばあちゃんだけじゃ不安なんだよ」
「大丈夫、私の故郷なのよ!!」
「そこじゃなくて疲れるってこと」
「若いんだからシャキッとしないと!!」
「おばあちゃんも煩い……」
「うー……楽しそうねー私も行きたかったー」
「隼人、毎日たくさん写真を送ってきてね」
「面倒だな」
「送ってね」
「わかったよ、親父もしつこいな」
毎日写真を送ることとメッセージをすることを義務付けられている。面倒なことだ。適当な風景を撮ってこれはどこどこだというメッセージだけ送ろうと決めている。
そう考えていたらアナウンスが流れる。俺たちの乗る便だ。
「えー!!もう?」
母さんが再び慌て出す。母さんはもう帰るだけだろうとため息をつく。
「さ、行こうよ。おじいちゃんの荷物なに?」
「日本のお土産をみんなに渡すんだって」
「こんなに?」
「そう。親戚とか友達とか」
「そうなんだ。持つよ」
「ありがとう」
おじいちゃんが持っていた荷物を半分持って歩こうとすると視線を感じて振り向く。
「もう……バイバイ」
「うー!!なんでそんなにあっさり!!」
「今生の別れじゃないんだから。たった1週間だってば」
「そうだけどー……」
もう一度ため息をついて母さんの頭をポンポンとした。
「行ってくるよ」
「もうもう!!行ってらっしゃい!!」
「気を付けてね」
ようやく解放してくれた母さんと親父に手を振って歩き出す。
「はあ……。なんて面倒な親なんだ、世話の焼ける」
「隼人が心配なのよー。でもちょっと過保護過ぎるわね、ふふ」
「ちょっとじゃないよ、まったくもう」
「アンナも琉依が一人暮らしを始めた時全然離さなかった」
「えー……だろうね。嫌だな、絶対同じだよ」
絶対穏やかじゃなさそうだ。
「けどそのために今料理とか家事もやってるんだから」
「偉いわねぇ。琉依なんて外食とかばかりだったのに」
「……え?そうなの?え、無駄なことしてる?」
「そんなことないわよ。男の人だって自炊するわ」
「忙しい時は無理しなくても良いけど普段は自炊したら良いよ」
「そうよ、健康のためにも節約のためにも」
「ま、いっか。やっぱり和食が結構奥が深いんだよ。あ、ああ!!そうそう、母さんはやっぱり馬鹿だ。おばあちゃんがアメリカ人だから親父は和食は食べないと思って練習しなかったらしいよ。馬鹿だね」
俺はこの前聞いた話を思い出して話す。
「もう、お母さんに馬鹿馬鹿って言わないの。可愛いじゃない」
「むしろ和食の方が多いんだけど」
「日本の文化!!和食は素晴らしいわ」
「けどそれを知った美香ちゃんが可哀想で。弁当に豪華な洋食を作っていたのに本当は和食が良かったなんてって」
「でも琉依も他の料理が好きじゃないわけじゃないもの。だけど落ち込んでたわねー。琉依ももっと早く聞けば良かったのに、馬鹿ね」
「琉依は気が利く方じゃないから」
「あなたに似てね」
「う……」
親父は一見気が利くように見えるけどおばあちゃんの英才教育で女性に優しいだけでそういうわけではない。マイペースで鈍感で鬱陶しい。
「最近親父が余計に鬱陶しくなったんだ。関さんや竜二さんみたいに冷静で知的な感じになってくれないかな」
「ふふ、友達と隼人が仲良くなって嫉妬してるのね」
「困るよ」
そして親父と母さんへの愚痴を話している間に飛行機に乗り込んだ。
おばあちゃんとおじいちゃんの後ろに座る。
「ところで隼人、旅行のしおりは忘れてない?」
「はいはい、忘れてないよ」
前の席から通路側に顔を出したおばあちゃん。
「何度も言わなくたって良いよ。でもなにもわざわざ紙にしなくてもデータがあるんだからさ」
「ノー!!旅行といえば旅のしおり!!小学生の時も持ってたでしょ!!」
「だからデータがあるんだから必要な「いるわよー」なんでさ」
「気分!!」
「……はあ」
「ちゃんと読んでおくのよ」
「俺が修正し……あれ?なんか増えてない?」
おかしい。俺は昨日の夜までおばあちゃんのハードスケジュールをゆとりある快適な旅行になるように修正していた。何ヶ月も前からデータで送られてくる分刻みのスケジュールを修正して送り返すというのを何度も何度も繰り返していた。
もうこれで完成だなと思ってプリントした紙を鞄に入れて持ってきたはずなのにどういうことだ?
「ちゃんとこっちよって朝送ったじゃない。そんなことだろうと琉依に差し替えておいてって言っておいて良かったわ」
「なんてこった。っていうかせっかく昴と考えたのにこれじゃ結局ハードスケジュールだよ」
「まあまあ、2人とも。そろそろ静かにして」
「はーい」
「はあ……」
おじいちゃんに言われて前を向くおばあちゃんにため息をついてそのしおりを眺める。せっかく完成してたのに。このまま強行するんだろうなと思って諦めた俺はしおりを鞄に放り入れてアイマスクをつけて音楽を聞きながら数ヶ月前のことを思い出す。
おばあちゃんが来ると決まってしまってすぐ、家で夜ご飯を食べ終わって部屋に戻ろうという時襲撃にあった。
「隼人ー!!」
叫びながらリビングに入ってきたのは若菜。
「おばあちゃんと旅行に行くなんてずるい!!」
「何しに来たんだよ、歩く公害」
「きー!!なんだそれ!!」
「その香水甘ったるくて臭いんだよ。しかもこの部屋の花の匂いと混ざって鼻がおかしくなりそうだ」
「この香りが臭いだなんて隼人の鼻はおかしい!!良い匂いだよ!!」
「まあまあ、今は香水のことは良いでしょ。旅行のことで来たんだからさ」
「ここじゃ駄目だ。せめて上」
そう言って3人で俺の部屋に入った。若菜は高校を卒業してから香水をつけ始めた。その香水がきつ過ぎて俺はただでさえ若菜がいるとイライラさせられるのに匂いのせいで余計に苛立つ。
「ずるいずるい!!」
部屋に入るなり叫ぶ若菜を昴が止める。
「俺だって1人で行こうと思ってたのに不本意なんだよ」
「ずるい!!」
「話を聞けこの甘ったるい妖怪」
「なんだ甘った「話が進まないよ」むー!!」
「昴、お前なんでこいつを連れてきたんだよ」
「だって僕もアメリカ旅行良いなーって」
「そうなの?昴なら一緒に行っても良いけど来る?」
「ううん、その日若菜の好きなK-POPアイドルのライブがあるから」
「あ、そう。じゃあ何しに来たの?」
「嫌がらせ!!」
「確かに嫌がらせだよ。悪臭で」
「だからこれは良い匂いなの!!」
「予定があるから行けないけど僕も隼人くんと旅行行きたいなぁ。良いなぁ」
「……仕方ないやつだな。行ったところの写真を送ってあげるよ。親父に頼まれて面倒だと思ってたけど昴にはちゃんと送ってあげる」
「わーい、ありがと」
「そうだ、それよりこれをどうにかしてくれない?おばあちゃんが送ってきたスケジュールがハードすぎて意味不明」
メールで送られてきたびっしり書かれたスケジュールを昴に見せる。
「ああ……これは忙しそうだね」
「でしょ。これをどうにかゆとりある快適な旅にしたいんだ。どうにかして」
「うーん……そうだね」
そうしてこの日以降も電話やお菓子のお使いをしてくれたあとに一緒におばあちゃんから送られてきた修正を修正したデータを再び修正して送り返すというのを何度も繰り返したんだ。
それを思い出してまたため息をつく。とりあえずこのまま寝てしまおう。




