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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
大学生編
76/136

母さんの実家



 そのあと親父たちの会社の昔のオフィスを見たりよく行ったというボウリング場や野球場、サッカー場、アスレチック場、なぜこんなにアクティブなんだと思いながらくたくたになっていると母さんの実家に着いた。

 店とは別の入り口から自宅の方に入る。するとおばあちゃんが出迎えに来た。


「まあまあ!!おかえりなさい!!隼人も大きくなったわね!!」

「高校2年の時で身長止まってるから1年前に来た時と全然変わってないよ」


 これでもおばあちゃんは母さんよりましな方だと苦笑いする。


「琉依くんも疲れたでしょ。ささ、上がって」

「おかーさん私はー?」

「美香は楽しく自由に動き回ってただけでしょーご飯よそうの手伝って」

「ぶーぶー!!」


 さすが育ての親、ふて腐れる母さんの背中を押して奥へ連れていった。

 リビングに入るとおじいちゃんもおじさんも座っていて真奈美さんはキッチンにいた。みんなに挨拶する。


「よく来たね。隼人はお酒好きだって聞いてるからビール買ってきたよ。琉依くんも良かった?」

「はい、ありがとうございます」

「成人式の写真見たよ、隼人は琉依くんにそっくりだから本当にかっこよかった」

「もうそれ良いよ、悪目立ちしたんだ、酷い目にあった」


 おじいちゃんはおばあちゃんとずっと花屋をやっていたしいつもにこやかだ。


「隼人もお酒飲める年だもんねー」

「ねえ佑都くんはー?」


 おじさんがしみじみと言うと、おばあちゃんを手伝いながら母さんが喋りかけてくる。


「佑都は帰ってこれなかったの。隼人くんに会いたがっていたんだけど」


 真奈美さんが答える。佑都くんはおじさんと真奈美さんの子供で今年高校に入学した。小学生の時からやっていたサッカーが県の強化選手に選ばれるほどで強豪校に推薦で入って家を出て寮で生活しているそうだ。


「なんだー残念」

「佑都くんレギュラーになったんだよね」

「うん、高校1年で大抜擢だから忙しいって。正月に帰ってきた時に言ってたよ」

「サッカー推薦で高校に入ったんだもの、すごいわねー佑都くんは私に似たのね」

「美香は運動神経良いわけじゃないでしょ。真奈美が陸上やってたからその遺伝だよ」

「隼人はなんでもできるもの!!私に似て!!」

「母さん煩いよ。早くおばあちゃんを手伝ってよ」

「もー!!隼人が意地悪するー!!」


 そしてみんなでご飯を食べる。


「なんでおばあちゃんは和食も上手なのに母さんはへ「美香はちょっと苦手なだけだよね」……親父は母さんを甘やかしてるだけじゃん」


 肉じゃがを食べながら俺が言うと親父に遮られた。おばあちゃんと真奈美さんがクスリと笑う。


「和食以外の料理を一生懸命練習したものね。お母さん教えるの苦労したわ。何回言ってもできないんだもの」

「どうして母さんに和食も教えなかったのさ」

「美香が琉依くんは洋食が好きって言うんだもの」

「え、親父洋食が好きだったの?」

「そんなことはないんだけど」

「琉依くんのお母さんがアメリカ人だから和食は食べないって勘違いしたんだよ」


 おじさんが言う。なんて勘違いだ。


「一緒に暮らし始めてからそんなことはないって知ったらしいの。だけど和食ってただでさえ難しいのにそこから覚えさせるのが大変で」

「別に和食が特別好きってわけじゃないし美香が作る料理は美味しいから覚えなくて良いよって言ったんだよ」

「じゃあなんでたまに出してくるんだよ」

「だって……隼人がお母さんとか彩華さんが作るご飯が美味しいって言うからー……」

「そうだった?けどだからってできないのに作らなくても良いじゃん。作らない方がま「作ってみるって挑戦もたまにはしたいよね」……もう」

「あいかわらずだね。美香は人より何十倍も頑張らないとできないんだから無理しなくて良いのに。琉依くんも隼人もわかってるんだから」

「お父さんも酷いわー」


 母さんは甘やかされて育ったわけではない。母さんをよく理解している常識のあるごく普通の親が普通に育てたはずなのにこんなほわほわ天然馬鹿になってしまったんだ。不思議だ。


「ねーそれより隼人がアルバム見たいってーお母さんとお父さんに話を聞きたいんだってー」

「聞いてるわよ。アルバムはご飯のあとね」

「それでなにを聞きたいって?」

「うん、母さんは天然馬鹿なのに20才で嫁がせるって心配じゃなかったの?そもそも同棲も高校卒業してすぐって聞いたけど反対しなかったの?」


 俺が聞くとおばあちゃんとおじいちゃんは顔を見合わせて笑う。


「なに?」

「ううん、そうよね、こんな子が結婚なんて大丈夫かしらって思うわよね」

「お母さん酷いー!!」

「けど美香が仕事するっていう方が心配だったよ。よそさまに迷惑かけないかなって」

「お父さんもひどーい!!」

「だったら早く結婚してくれた方が安心だと思ったのよ。外で仕事してるよりおうちで琉依くんのことや子供が生まれたらその子のことを大切にする方が美香は幸せになれるって思ったの」

「琉依くんの出席するパーティーでいろんな人と話してるのも楽しいみたいだったからね、そんなに格式張ったものじゃないらしいしそれくらいなら人と話すのが好きだから上手くやっていけるだろうって」

「美香は打ち解けるのが上手だからね。自分の知らない話でも教えてーって聞くし人懐っこいし」

「ドラマで見たことがあったのよ。この人はどこどこの会社のなになにさんでご趣味はなにです、とか伝えるの」

「は?」

「社長かなにかに伝える秘書みたいなシーンを見てこういうことをすれば良いんだって思ったみたい」


 親父に言われて納得したと同時に別にそんなの母さんに求めてなかっただろうにと思う。


「それで一生懸命この人は何さんでなにが好きな人なんだって覚えながらお話ししてたら前にお話をしたことを覚えてくれたのねーってなって仲良しになってね、そしたら楽しくなって自然に覚えるようになったの。たまに間違えちゃうけど」

「けどそうやって明るく振る舞って親しみやすい美香にたくさんファンがいるんだよ」

「ただお喋りして仲良しになるって気持ちで接してるからみんなに好いてもらえるのよね。そういうところは小さい時から美香のすごいところだったわよね」

「純粋にどうしたら喜んでもらえるのかって考えてできるのが美香の昔からの良いところだね」

「えへへー」


 おばあちゃんとおじいちゃんに褒められて嬉しそうにする母さん。どうにも子供っぽいけどこれが母さんの良いところなんだろう。


「一応琉依くんにも聞いたんだよ。パーティーってどこそこの偉い人が出席したり決まりごとがあったりするんじゃないかって」

「全然無礼講で喋ってるだけのもので小さい子も来てたりするし美香も気兼ねなく楽しんでもらえると思いますって言ってたんだよ」

「それでいざ行ってみると予想外に上手く振る舞ってたって聞いてこういうのが向いてるんだって初めは驚いたよ」


 おじいちゃんがそう言って笑う。


「そうそう、それ同棲をするってなって初めて琉依くんの両親に会った時に聞いたんだったわね」

「ちゃんと将来を見据えての同棲だからきちんと両家顔合わせておきたいって集まってもらったんだよ」

「琉依くんには何度も会ってたしそんなに畏まらなくてもって思ったんだけどね」

「僕が緊張した。優菜ちゃんには会ったことあったけど向こうのお母さんは美人なアメリカ人だしお父さんは厳しそうな人だし」


 おじさんがげんなりとした表情で言うとおじいちゃんも頷く。


「お母さんの冷静さがさすがだと思ったよ。こっちはただの平凡な花屋なのに向こうはすごくきちんとした家って感じで」

「お母さんだって会うまでは外国人ってお店に来るお客さんと片言で喋るくらいだもの。英語勉強した方が良いのかしらってドキドキしてたのよ。けどアンナさんが明るくて気さくな人で安心して普通になったわ」


 俺は長いテーブルに向かい合わせに両方の家族が座って挨拶をする光景を思い浮かべてみる。


「アンナおばあちゃんの独壇場になりそうだね」

「まあ母さんがペラペラ喋ってたから当たってるね」

「やっぱり。けどそんなちゃんとした感じで同棲を始めたんだね。結婚の挨拶みたい。そういうものなの?」

「あんまりしないかもしれないわね。琉依くんがしっかりしてたのよ」


 それは親父の正体をしらないから思ってたんだろう。いつ親父の本性を教えよう。今じゃないのは確かだな。


「だから早すぎるから反対とは思わなかったよ。結婚もね。美香はほわわんってしてるけどちゃんと琉依くんが見ててくれるから琉依くんとなら大丈夫だって思ったから」

「僕としてはむしろ肩の荷が降りた気分だったよ。面倒なものを背負わせちゃって申し訳ない気になったけど」

「お兄ちゃんも酷い!!」


 そしてご飯を食べたあとにおばあちゃんがアルバムを持ってきてくれた。


「これ1冊だけ?」

「そうよ。もう持って帰ったら良いじゃない」

「そうねーそうするわー」

「なんでうちにあんなにたくさんあるのにこれしかないの?」

「昔は琉依さん写真苦手だったんだもの。だから記念の時以外あまり写真撮ってなかったのよ」

「えーそんな馬鹿な。隙あらば写真とってるじゃん」

「隼人が生まれてから琉依さんも写真が好きになったのよー」

「ふーん」


 そういうものなのかと思いながらアルバムを捲ってみる。


「これが一番前の写真ね。高校の文化祭に来てって言ったらみんなで来てくれたの」

「母さん今と全然変わらないね」

「そうかしら?」

「髪の毛切ったから余計に高校時代と変わらないんじゃないの?」

「これはねー隼人がショートカットが私に似合って可愛いよって言ってくれたからずーとこれなのー!!」

「似合って可愛いなんて言ってないよ!!」

「えーそうだったかしら?」


 まったく、また事実を歪めて吹聴するんだから。俺が雑誌を見てこれが良いんじゃないかと言った時から母さんはショートカットをキープしている。


「それにしても母さんは何してるの?客引き?」

「そうよー喫茶店の」


 写真には猫耳を付けた母さんが大きな看板を持って親父と話しているところが写っていた。


「可愛い……こんなのあった?」

「あったわよー竜二さんが撮ってくれてたの」


 その写真に釘付けになってる親父を見てハッとした。まずい、嘘だ。写真が苦手だったなんて嘘だ。あの書斎に写真を元にしたものや写真そのものがたくさんあったじゃないか。騙されるところだった。でもなんでだ?なんで母さんは親父が写真を苦手だと勘違いしていたんだろう。その答えはページを捲っていくことでわかった。


「親父なんでこんなに見切れてるの?」


 そう、記念写真らしい写真や不意打ちで撮ったであろう写真にはちゃんと収まっているのにほとんどぶれたり見切れたりしている。


「いやーパパラッチみたいなのに写真撮られるのが多くてカメラを向けられると反射的に避けてたんだよね、この頃」

「へー……」

「人気者って大変なのねー」


 おばあちゃんは呑気にそう言う。わかったぞ、親父は自分が写るのは苦手だっただけで母さんの写真は好きだったのにあのコレクションのことがバレるとまずいからごまかしていたんだろう。なんてゲスい男なんだ。


「あ、これは初めて2人で過ごしたクリスマスねー」

「そうだね。やっぱりこの帽子美香によく似合うよ」

「えへへ、隼人見て!!琉依さんがくれたクリスマスプレゼントなのよー」

「見てるよ。これ家で見たことある」

「大切だから飾ってるの」

「かぶってるとこが見たいな」

「ほんとー?じゃあおうちに帰ったら久しぶりにかぶってみるわね」

「……次のページ」


 イチャイチャタイムが始まってしまったから俺はページを捲り、何度も母さんと親父がイチャつくからどんどんイライラしてきた。


「まったく、そんなに見たいなら勝手に見ててよ!!」


 俺が捲るたびにちょっと待って、戻って、美香可愛い、と親父が何度も止めてくるから俺はアルバムを親父に押し付けた。

 そうすると嬉しそうにアルバムを抱えて母さんとソファーに行った。その後ろ姿を見ながらため息をつく。


「あ……」


 そして、今が親父の正体を伝えるチャンスじゃないかと思い付く。


「ねえおじいちゃん、おばあちゃん、俺2人に重要なことを言わないといけないんだよ」


 俺がそう言うとおじいちゃんもおばあちゃんも不思議そうに首をかしげる。


「それなら私は後片付けをしてるね。お父さんも手伝って」

「うん」


 真奈美さんのが気を利かせてくれておじさんと一緒に食器を片付けはじめた。


「どうしたの?」

「重要なことだなんてなにかしら」

「うん、あのさ、おじいちゃんもおばあちゃんも親父のことを誤解してるんだ」

「「え?」」

「親父が母さんと清い付き合いをしていたから安心して母さんを任せただろうけど親父は母さんに手を出さなかった代わりに母さんの写真とかを隠し持って変なことをしてたんだよ。危険なんだよ」


 俺がそう言うと2人は口を開けたまま止まってる。


「おじいちゃん?おばあちゃん?」


 止まっていたと思ったらおばあちゃんはクスクスと笑いだした。


「ふふ、そう……それは知らなかったわ」

「そうだね。けど琉依くんが美香のことが大好きなのは知ってるからおかしくないね」

「変態なんだよ」


 笑ってる2人に俺は言いつのる。


「ええ、そんなに愛してくれるなんて嬉しいわね」

「おばあちゃん……そういうことじゃないんだよ」

「あらあら、ごめんなさいね。けど知らなかったわ、2年も付き合ってたのにそういう関係になってなかったなんて」

「え、知らなかったの?母さん言ってなかったの?」

「さすがに親には言わないわよ」

「……そりゃそうだけど非常識な母さんだからなんでも話してると思ってた。じゃあ親父に母さんを預けるのに不安はなかったんだね」

「そうだね。さっきも言った通り琉依くんとなら幸せになれると思ったからね」

「そういう話は聞いたことなかったけど琉依くんがどんな子で美香のこと任せるのにこれ以上ない素敵な男の子だっていうのはよくわかってたもの」

「遊びに行った帰りには必ず家まで送り届けてくれたよね」

「なかなか家に上がってくれなかったけどね、毎年お正月には挨拶に来てくれたわ」

「仕事も大変なのに美香が記念日だって騒いでる日には会えなくても電話をかけてきてくれたり」

「美香は小さい時から甘えん坊でね、私たちもそれじゃ将来が心配だと思って厳しく言って聞かせてたんだけどふわふわしてるからあんまり頭に入らなくて、誰かがどうにかしてくれる、泣いたら誰かが助けてくれるってそんな子だったの」

「けど琉依くんと付き合い始めてから琉依くんのために一生懸命になるようになったんだよ。できないならやらなくて良いって思ってた料理も毎日母さんにはりついて熱心に覚えて」

「琉依くんにいつも楽しんでもらいたいっていつも笑っててね、でも家に帰ってきたら私に泣きついてきたのよ。琉依くんがまた女の子に優しくしてたって好きになってほしいってね」

「親父が酷い男だって思わなかったの?」

「すごく優しいだけだってわかってたからね。美香もわかってて、だから本人には言わないでいたんだよ」

「甘えるだけだった美香がそんなに大好きならいつ結婚するとか、そういうのはなんでも良かったのよ」

「俺だったらそんな男信用ならないけどな。母さんが可哀想」

「ふふ、相変わらず隼人はお母さんが好きね」

「な……マザコンじゃないよ」

「私も隼人大好きー!!」

「ぎゃー!!後ろから襲いかかってくるな!!」


 後ろから母さんに首を絞められた。


「なんの話なのー?」

「親父が浮気してた話」

「えー!?琉依さんそんなことしてないわー!!」

「そうだよー!!」

「母さんだって疑ってたじゃん」

「不安だっただけで本当にはしてないって琉依さん言ってるもの!!」

「嘘かもしれないよ」

「嘘じゃないよ!!」

「そうよ!!琉依さんは誰にでも優しいの!!」

「もー煩いなーアルバムはどうしたの」

「そろそろ帰ろうかなって」

「おうち帰ろー!!」

「もうそんな時間か……」


 時計を見ると帰る予定の時間を少し過ぎていた。俺は椅子から立ち上がるとおじいちゃんたちにまた来るねと言って家に帰った。






 

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