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運命のカミーリア  作者: 柏木紗月
大学生編
75/136

親父と母さんが過ごした場所



「隼人ー!!こっちよーこっちー!!」

「わかったからそんな大声で叫ばないで」

「だって楽しいんだもの!!って……きゃっ」

「わー!!」

「美香、大丈夫?」

「うん、ありがと琉依さん!!」

「もう……だから前向いて歩けって言ったのに」


 俺は今親父と母さんと3人で親父たちが一緒に住んでいた場所に来ている。今日は3月25日、母さんと親父の結婚記念日だ。1月に話したように俺はおじいちゃんとおばあちゃんに親父の正体を教えてあげるために母さんの実家に行くことにした。

 せっかくだから花屋を早めに閉めるというおじさんと真奈美さんも一緒に食事をしようということになったから早めに来てデートした場所巡りに付き合ってるところだ。


「ここよー!!ってあら?違ーう!!」


 2人が住んでいた場所にたどり着いたけどそこにはカフェがあるだけ。


「20年も前のことだからね。建て替えちゃったみたいだね」

「えー……」


 親父の言葉に落ち込む母さん。


「仕方ないじゃん。他に行こうよ」

「そうねー……あ!!見てみて!!あの商店街には毎日行ってたのよ!!来てきてー!!」


 少し先に見える商店街に走っていく母さんを追いかける。追いかけると母さんは八百屋でお店の人と話していた。


「早くー!!見てみて琉依さんと隼人」

「おやまあ琉依くんも久しぶりだしそっくりの息子さんはこんなに大きいんだね」

「お久しぶりです。お元気そうですね」

「変わらないわよー年だけだいぶとったけどね」

「お変わりなく綺麗ですよ」

「いやーさすが琉依くんだね」


 八百屋のおばさんと親しげに話す母さんと親父を交互に見ていたらそのおばさんと目が合う。


「いくつなんだい?」

「えっと、20才です」

「もう20才かい。ということは琉依くんと美香ちゃんが引っ越してから21年も経つんだねぇ。美香ちゃんはうちの商店街のアイドルだったんだよ。明るくて可愛くて。そこの駄菓子屋にも行ってみな。この前も美香ちゃんがいた頃が懐かしいなって耽ってたよ」

「うん!!じゃあねー!!」

「お身体にお気をつけて」

「はいよ、来てくれてありがとね」


 向かい側の駄菓子屋に走っていく母さんと八百屋のおばさんに頭を下げる親父。俺も挨拶して行こうと思ったらひき止められた。


「思い出を巡る旅なんだってね」

「え、違います」


 あの短い時間でなんてでたらめを言ってるんだ。これはおじいちゃんとおばあちゃんに真実を伝える旅の寄り道だ。


「そうかい。美香ちゃんは今でも泣いてばっかりなんだろうね」

「そうですね、いつも泣いてます」

「ここにいた時も毎日手料理を作るからって買い物に来てたんだけど琉依くんも一生懸命に仕事してたから帰りが遅かったりで不安だったんだろうね。普段元気だから悲しい時もわかりやすくて、私らでよく慰めてたよ。疲れて帰ってきて身体は大丈夫かとか土日まで仕事ってするのか、浮気してたらどうしようとかたくさん考え込んじゃう子でね。引っ越した場所で上手くやっていけるのか心配してたんだよ」

「……そうなんですか?よく落ち込んだり泣いたりしてますけど」


 どうやら思っていたより母さんたちの恋人期間はいろいろあったらしい。


「けど心配なさそうな気がするよ」

「え、どうしてですか?」

「年の功だね。きっと隼人くんがいるから大丈夫みたいだ」


 疑問符が頭に浮かぶ。けど親父が言ってた慰めてたつもりのない慰めで母さんが元気になってたというのを思い出して納得する。


「年の功ってすごいんですね」

「だてに長く生きてないからね。ほら、お母さんが呼んでる」

「本当だ……。じゃ行きます」


 手を振ってくるおばさんに頭を下げて向かいの駄菓子屋に行く。


「隼人も食べてー」


 そばに行くとすぐに手渡されのは蒲焼きのお菓子。甘くないやつだから良いかと袋を開けて食べながらお店の畳に座るおじさんを見る。気難しそうだけど俺が会釈すると頷いた。


「お前さんにそっくりじゃ」

「ええ」

「そうでしょー!!かっこいいでしょ!!」

「わしの方がかっこいいぞ」

「えー!!琉依さんと隼人の方がかっこいいわよー」


 わしの方が、親父と俺の方がと言い合うおじいさんと母さんに親父がまあまあと取りなす。


「まったく、こんな優男よりわしの方が良いと思うがね」

「琉依さんはとっても素敵なのよーあー!!」


 なんだと思ったらまた反対側の魚屋のおじさんがこっちに手を振っていた。


「本木さんだー懐かしいー!!」


 そう言うとパタパタとそっちに走っていって親父もまたおじいさんに挨拶すると母さんのあとを追いかけた。


「おい」


 またしても呼び止められた俺はおじいさんの目の前に行く。待ってろと言われて奥の部屋に行くおじいさんを待っていると少し経ってから戻ってきた。

 おじいさんの手には少し黒ずんでいる布があってそれを差し出されて受けとる。手のひらサイズのお守りみたいなものみたいだ。


「また渡しそびれるところだったわい」

「これは?」

「美香が作ったお守りじゃ。……おそらく中身は駄目だと思うが」

「……開けて良いのかな、まあ良いか。……あ、押し花だったみたいですね、色褪せてるだけでちゃんと押し花です」


 お守りの中には月日を感じる色褪せた花の押し花が入っていた。


「これ親父へ渡すものだったみたいです。琉依さん頑張ってってメモが書いてある。なんで渡さなかったんでしょう……」

「詳しくは知らん。鞄から落ちたから拾って返そうともっとったのをずっと渡しそびれてた」

「そうなんですね。ありがとうございます。母に渡してみます」


 そう言って今度は魚屋に行き、そのあとも次から次へといろんな店に立ち寄り、満足したらしい母さんは今度は親父の通ってた大学に行こうと言い出して向かった。

 守衛所でなにやらやり取りすると大学の構内に入れた。俺が通ってる大学みたいに何棟かの建物が建っている間を歩く。


「わー!!懐かしいわねー!!」

「親父の大学なのになんで母さんが懐かしいの」

「何度も来ていたもの!!あ、見てあそこ!!文化祭の時はあそこにステージができて色々やってたのよ」

「ふーん……。あ、母さん、これさっきの駄菓子屋のおじいさんが返すって」


 さっきのお守りを母さんに渡すと目を瞬かせる。


「まあ!!懐かしいわー!!」

「お守り?」


 親父がそれを見て聞く。


「そうよー!!そうそう、文化祭の時に渡そうと思ったって話したでしょー」

「ああ、そうだったね」

「いつ落としちゃったのかしらね。じゃあね、はい」

「ありがとう」


 お守りは母さんから親父に手渡された。これってすごいことなんじゃないかと思うけど2人はいたって普通にしてる。


「それいつ渡そうとしてたの?なんで渡さなかったの?」

「作って渡そうとしたのは私が高校2年生の時だから……」

「僕が大学4年の時の文化祭があった頃にだよね」

「そうそう。琉依さんがミスターコンテストに出るって聞いたけど琉依さん出たくないって言ってたから頑張ってってお守りを作ったのよー」

「ミスターコンテストねえ……」

「琉依さんは頭も良いしかっこいいけどあんまり目立ちたくないって聞いたことがあったからコンテストで注目されるのが嫌なんだろうなって、でもみんなにどうしてもって頼まれちゃったから出ないといけないんだって思って作ったのよ」

「へぇー……で、なんで渡さなかったの?」

「んー忘れちゃった。けど今渡せたから良かったわー」

「うん、大切にするよ」

「あ、向こうでお花見してみたこともあったわねー!!行ってみよー!!」


 そう言って走っていく母さんの後ろ姿を見てから親父に解説を求める。


「出たくないって理由は合ってるの?」

「目立つのが嫌なのは本当だけどミスターコンに出たくなかったのは僕がステージにいてそばにいられないのに人が密集してる広場に美香が1人でいるのが不安だったからだよ」

「優菜さんは?」

「その日はちょうど付き合ってた彼氏の誕生日だからって一緒に来れなくて」

「あーそう……。なんでそのお守りを渡せなかったのかは知らないの?」

「うん、僕にも教えてくれなかったから。けど同じ日にやるミスコンのグランプリ確実って言われてた子が前に僕と付き合ってた子だって木村くんが言ったからその辺りが理由かなと。なくなったって言ってたけど5、6年ずっと使い続けてた鞄に入りっぱなしでどこかのタイミングで落としたみたいだね」

「また浮気か」

「だから違うって。一回もしたことないって」

「ふーん。母さんってオープンなくせに全然言わないね」

「なにがあったとか出来事は結構なんでもオープンなんだけど考えたこととかはあんまり教えてくれなかったよ。美香がこんなに泣く子だっていうのもずっとあとに知ったし」

「え、嘘でしょ」

「嘘じゃないよ。僕の前ではいつも明るくて元気だったから。村岡くんは知っていたみたいだけど」

「村岡さん?そうなの?」

「だいぶ信頼してたからね」

「そうなんだ。ねえ、八百屋のおばさんが言ってたけど同棲してる時遅くまで仕事してたり土日も仕事してたって。今の親父じゃ考えられないんだけど」

「ああ、それは早く美香と結婚しようって必死だったから。美香が保育士にならないって決めたから僕も僕なりに応えないとって。でもそれは間違いだったってわかったよ。身体がだるくて早くに家に帰ったら美香が泣いてて、僕が身体を壊さないか心配したり土日も仕事してたから浮気かと思ったってたくさん考えていっぱいいっぱいになってるのを見て仕事より美香と過ごす時間の方が大切なのに気付けなくてごめんねって。だから昇に仕事しないって言ったんだけど仕事はしろって言われたんだ」

「当たり前でしょ」

「でも残業はしなくて良いってその時言ったんだよ?なのにたまには残業しても良いんじゃないかとか一度言ったことは守ってって感じだよね。仕事中に美香とメールしてたり送るプレゼントを考えたりしたら仕事しろって言ってくるし。仕事より美香だって言ったのに」

「それは親父が悪いだろ……。昇さんの苦労がわかる」

「えーどうして?」

「ねー!!早く来てよー!!」


 親父に呆れていると30メートルくらい離れた大きな木のそばから大声で母さんが叫んできた。






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